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中島唱子の自由を求める女神 第4話 「川の匂いと大きな笑顔」

中島唱子の自由を求める女神

中島唱子の自由を求める女神
Written by Shoko Nakajima 

第4話 川の匂いと大きな笑顔
言語の壁、人種の壁、文化の壁。自由を求めてアメリカへ。そこで出会った事は、楽しいことばかりではない。「挫折とほんのちょっとの希望」のミルフィーユ生活。抑制や制限がないから自由になれるのではない。どんな環境でも負けない自分になれた時、真の自由人になれる気がする。だから、私はいつも「自由」を求めている。「日本とアメリカ」「日本語と英語」にサンドウィッチされたような生活の中で見つけた発見と歓び、そしてほのかな幸せを綴ります。

 
新しい街で部屋を探して住みだすとき何故か、ワクワクする。ましてや、外国での家探しは格別だ。ウディ・アレンの映画に出てくるような廊下の長い古いアパートに住んでみたい。倉庫を改造したロフトも魅力的だ。あれこれ物件を見て歩いているうちに、現実が見えてきてそんな憧れが遥か彼方へと飛んでいく。もちろんお金さえ払えば夢のような物件は存在するが、留学生の私には手が届かない。賃貸の契約も学生や外国人ではなかなか審査が通らないので、ルームメイトやサブレットで入居するしかないのだろう。
 

空き部屋率が1%だというマンハッタンの中で、違う国からやってきた異邦人が部屋を探すのは至難の業だ。
 

そんな時、家探しを心配した咲ちゃんが助っ人を紹介してくれた。ニューヨークに長年住む美代子さんだ。美代子さんの近所に家具付きの空き部屋があるという。「no feeよ」と美代子さんは大きな笑顔で待ち合わせ場所に現れた。「no fee」とは不動産屋さんの手数料がかからない契約のようだ。物件はアッパーイーストサイドで家具付きの1LDKの古いアパート。お家賃も相場よりも安い。
 

ドアマンのいるような豪華なロビーはないが、入り口がオートロックで簡素なところが気に入った。地下にランドリーがついていて、エレベーターなしで五階建てのタウンハウスである。
 

美代子さんは初めて会った人とは思えないほどの大きな笑顔で明るい。近所を案内してくれながら「アッパーイースト愛」を語りだす。
アッパーイーストとは、マンハッタンのセントラルパークを挟んで東側に位置している。
「西側をアッパーウエストといってヤッピー族がいっぱい住んでいるのよ。だから街の流れが速くてね、その点アッパーイーストは、緩やかな空気が流れているの。」
大雑把そうな美代子さんのざっくりとした分析である。
 

ヤッピー族とは、都会の若いエリートサラリーマンたちのことである。東側は年齢層が高いぶん、地下鉄よりもバスを利用する人が多い。通勤時間の混み具合が違うという分析らしい。
申し込みを入れて契約まですごい勢いで済ませ、やっと引っ越しできたのはその年の年末だった。
 

小さい腕時計で、部屋の中で一人、カウントダウンをした。淋しさよりワクワクが止まらない。
 

翌朝、目が覚めた新年は、雲一つない青空が広がる清々しい朝だった。
 

日本のマンションよりも遥かに天井が高く、キッチンも大きな冷蔵庫とオーブンのついたガス台がある。年数の経った古いアパートで床は多少の傾きがあるが、無垢材の硬いフローリングでとても趣がある。
簡素な壊れかけた家具だけれど、ないよりマシで家具を買わずに済む。少ない荷物をほどき自分の空間ができたら不思議と力が湧いてきた。
 

住みだしてみて、美代子さんがいう「緩やかな空気」の意味がなんとなくわかった気がした。
 

新居の部屋は、アッパーイースト側の77丁目の駅から、東へと歩いて5分ほどのところだった。駅から数ブロック進むと低層階のタウンハウスが続く。すぐ近くをイーストリバーが流れている。大都会のニューヨークを背中で感じながら、川にむかって歩いていくとだんだんと空が広がっていく。
 

そして、自分の家が近づいてくると、うっすらと川の匂いがしてくる。幼少期に過ごした柴又の町と同じ香りだ。
 

この「緩やかな空気」に包まれながら家路につく時、何とも言えない安心感に包まれる。美代子さんの大きな笑顔と川の匂い。近くにそんな空気があるだけで、安心する。ラグジュアリーな高級アパートのドアマンたちのように最強に思えてくるから不思議だ。大都会の片隅の穏やかな空気の中で私のニューヨーク生活が始まっていった。
 

写真Written by 中島唱子(なかじま しょうこ)
 1983年、TBS系テレビドラマ『ふぞろいの林檎たち』でデビュー。以後、独特なキャラクターでテレビ・映画・舞台で活躍する。1995年、ダイエットを通して自らの体と心を綴ったフォト&エッセイ集「脂肪」を新潮社から出版。異才・アラーキー(荒木経惟)とのセッションが話題となる。同年12月より、文化庁派遣芸術家在外研修員としてニューヨークに留学。その後も日本とニューヨークを行き来しながら、TBS『ふぞろいの林檎たち・4』、テレビ東京『魚心あれば嫁心』、TBS『渡る世間は鬼ばかり』などに出演。

 
 

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【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #32「自分の考え方」を持つことの大切さ●塩崎邦宏(管理部門スタッフ)

 『スター・ウォーズ』が大好きなことや『韓流ドラマ』にハマっていることは過去に書いたが、昨年より新たにハマっているものがある。大きく括ると少女漫画だが、『パタリロ!』(魔夜峰央/白泉社)から始まって、『ポーの一族』(萩尾望都/小学館)を読み、今では『王家の紋章』(細川智栄子あんど芙~みん/秋田書店)を読んでいる。


『王家の紋章』は1976年より『月刊プリンセス』に連載されており、今もなお続いている長寿漫画だ。主人公キャロル・リードは考古学を学ぶためにエジプトに留学している16歳の女の子。キャロルは新しく発見された王墓を訪れたとき、呪いにかかってしまい4,000年前の古代エジプトにタイムスリップをしてしまう。そこで、出会ったファラオ(王)と恋に落ち、妃となる。ここだけ書くとシンデレラストーリーでお星さまがキラキラしているラブストーリーだがそれだけではない。キャロルは古代エジプト人には珍しい容姿や現れ方で「ナイルの娘」と呼ばれ神格化される。また、エジプトだけでなくエジプトをわが物にしようと企む隣国の王たちからも狙われている。狙われるといっても命を狙われるのではなく、大国エジプトを手に入れるために自分の妃として狙っているのである。つまりキャロルは多くのイケメン王たちから狙われているのである(笑)。ただの少女の恋愛ストーリーだけでなく、国と国とがあらゆる策を考えて領土を広げていく歴史ロマン漫画になっている。

キャロルは常にピンチに陥っている。そして、いつもファラオや彼女を慕うキャラクターたちに助けられる。その繰り返しがずっと続いている。そんなハラハラドキドキが40年以上も続いている。

キャロルのすごいところはどんなピンチになってもポジティブに物事を考えて、常に自分の信念や考え方を曲げないところだ。時としてファラオにビンタすることもある。普通なら即刻、処刑されてしまうだろうがそこは少女漫画、ファラオもそんな強気の「ナイルの娘」キャロルにメロメロなのである。現代にいる時に学んでいた歴史の知識や21世紀の倫理観、知識を持って彼女はピンチを乗り越えていく。

「自分の信念」を持って古代エジプトを強く生きている。

「信念を持つ」や「自分の考えを持つ」ということは、なかなか難しい。

それは「我を通す」とは全く違う。そう言われると違うことは多くの人が知っていることだと思う。では、どのような過程で「自分の考えを持つ」と「我を通す」に分かれてしまうのだろうか? 一つはどれだけ広く深い知識を持っているかではないだろうか? 多くの知見を持っていれば自然と考え方も柔軟になり、いろいろな角度から考えたことを集約して自分の考えにすることができる。一方、広く深く物事を見ることができなければ、考えは狭いものになる。結果、それは自分だけのことを考える結論になり、独りよがりの「我を通した考え」と周りに思われてしまうのではないだろうか。

 「自分の考えを持つ」と「我を通す」が違うように「自分の仕事をこなす」と「自分に与えられた仕事だけをこなす」は違うと思う。一人で完結する仕事は世の中にほとんどないのではないだろうか? 例えば映像翻訳の仕事は自分とPCがあれば完結しているように見える。でも実際は映像を制作する人、翻訳を発注する人、受注する人、チェックする人、その作品を観る人など多くの人が関わって一つの作品として成り立っている。つまり一人だけで完結していないのである。それに気が付けば「我を通す(自分だけが満足する翻訳)」と「自分の考えを持つ(自分の考えた翻訳だが、多くの人が共感する翻訳)」の違いは自然と分かっていくのではないだろうか?

そのためにもより多くのものを見て聞いて知って、自分の考えを持つことに力を注いでいきたい。それは翻訳の仕事だけではなく、すべての仕事にも通じることのような気がする。

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Written by 塩崎邦宏

しおさき・くにひろ●日本映像翻訳アカデミー・管理部門。英日映像翻訳科修了生。

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「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!


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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第99回 “MOTHERLAND: FORT SALEM”

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第99回 “MOTHERLAND: FORT SALEM”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 


 

軍服を着た魔女たちが大活躍する壮大なホラ話!
新春第一弾はDisney傘下のFreeformが制作、Disney+が配信する壮大なホラ話。これが悶絶するほど面白い。
“Motherland: Fort Salem”は、軍服を着た魔女たちの終わりなき怒涛の戦いを描く、必見のSci-fiファンタジー・ミリタリーアクション・メロドラマなのだ!(これだけ形容詞のつくドラマは滅多にないぞ!)
 

“Rise of the Spree”
—アメリカ合衆国マサチューセッツ州フォート・セーラム、2019年
女性が支配し、一般人と魔女が共存共栄するパラレルワールド。
魔女によるテロリスト・グループ「スプリー」(“The Spree”)が、各地で暗躍している。変身能力を持つスプリーのメンバーは、一般人に化けて大量殺人を繰り返す。陸軍省所属の魔女軍団は守勢一方で、戦力の立て直しが急務だった。
 

戦いの発端は今から327年前。サラ・アルダー将軍(リン・レネー)率いる魔女軍団は、一般人を代表する植民地軍と「セーラム協定」(“Salem Accord”)を結んだ。植民地軍は、魔女裁判(“Salem witch trials”)を止める。その見返りに、魔女軍団は協定に反対する魔女グループと戦うという内容だった。
その戦争が、未だに続いている。スプリーは、レジスタンスの末裔なのだ。
 

今日は「徴兵日」。
全米各地の若い魔女たちが、陸軍基礎訓練学校に入隊した。この施設は、今も現役のアルダー将軍が統括している。新兵たちは一等兵(“private”)として士官学校(“War College”)入学を目指す。競争は過酷で、脱落すると消耗品として戦争の最前線へ送られる。
 

ラエル・コラー(テイラー・ヒックソン)は、ミシシッピ川沿いのチペワ割譲地出身。軍人の母親が戦死し、投げやりになって徴兵に応じた。ラエルは病人や怪我人を癒す不思議な力を持つ。
 

アビゲイル・ベルウェザー(アシュリー・ニコール・ウィリアムズ)は、NYのエリート軍人一家の出身だ。母親が現役の将軍であることから、親の七光りを何より嫌がる。彼女は高い戦闘能力を持ち、自分にも他人にも厳しい。
 

タリー・クレイブン(ジェシカ・サットン)は、カリフォルニア州サクラメントの母子居留地出身。タリーは母親の猛反対を押し切って入隊した志願兵だ。敵を察知する特殊な視覚能力を持つ。
 

ラエル、アビゲイル、タリーはルームメイトになるが、相性の悪いラエルとアビゲイルは激しく対立する。
 

厳しい基礎訓練が始まった。
魔女たちの主要な武器は、「シード」(“Seed”)と呼ばれる異なる音域の「声」だ。ボイストレーニングによって威力を高め、これに高度な武術を絡める。
 

3人組は心身ともに未熟なまま、スプリーとの凄絶な戦いに巻き込まれていく!
 

世界観にマッチした国際色豊かなアクターたち!
本作のメインキャラクターを演じたのは、アビゲイル役のアシュリー・ニコール・ウィリアムズを除き、ほとんどが非アメリカ人アクターだ。
 

テイラー・ヒックソンはカナダ出身。屈折していて影があるが、芯が強くて凛とした魅力のあるラエル役にピタリとはまった。
ラエルと恋に落ちる謎の先輩兵士シラ役のアマリア・ホルムは、ノルウェー出身。タリー役のジェシカ・サットンは南アフリカ、アルダー将軍役のリン・レネーはベルギー出身だ。
豊かな国際色は、ドラマの世界観に見事にマッチしている。
 

聞き慣れないアクターばかりだが、演技力は一級品でアクションも達者にこなす。3人組にはエピソードが進むに連れて強いケミストリーが働く。
 

世界を変えていく3人の魔女たち!
ショーランナー兼共同脚本のエリオット・ローレンスは、出版には至らなかったものの長大な原作を執筆した。おかげで本作は、確固たる世界観を持ち(これ、Sci-fiドラマで最も重要)、荒唐無稽半歩手前でストーリーが破綻せず、脚本は意外と緻密だ。
この手のホラ話はディテールで手を抜くと、単なるB級作品に成り下がる。ローレンスがパラレルワールドの小さなつくり話を丹念に積み重ねたことによって、臨場感や質感が生まれた。
 

蛇足だが、「スプリー」(“spree”)は犯罪ドラマの頻出単語。短期間での無差別殺人者が”spree killer”で、一定の期間をおく連続殺人者を意味する”serial killer”と区別される。(“Criminal Minds”のファンは知っているよね。)
 

本作の魅力は、まず主人公3人のカッコよさだ。ラエル、アビゲイル、タリーの軍人としての成長を通して、堅固なキャラクターアーク(人物の成長や変化の軌跡)が形成される。3人は数々の苦難と悲惨な戦闘を乗り越え、友情と絆を育みながら、人としても成熟していく。
次が、魔女と軍隊ドラマのマッチングの妙だ。魔術と軍隊式アクションを組み合わせた戦闘シーンは迫力満点。魔女であっても一般人同様に負傷するし戦死もする。恐怖を感じるし、PTSD(心的外傷後ストレス障害)も患うのだ。
3つ目がラエルとシラの苦く切ないラブストーリー。戦時下の閉塞感、常に死と向き合う不安感が、2人のロマンスを燃え上がらせる。これだけでメロドラマがひとつ作れるくらい感動的だ。
 

ストーリーは意外と奥が深い。
軍人の「尊厳」(“dignity”)「奉仕」(“service”)「義務」(“duty”)「名誉」(“honor”)「勇気」(“bravely”)の意味を問いながら、高揚感を盛り上げる。その一方で戦争の残酷さや虚しさまで踏み込み、反戦ドラマ的な要素も織り込む。例えば、重要な役割を担う平和主義者のタリム族は、途方もない力を生む「歌」の武器化を拒否し、それゆえに全滅寸前という設定だ。
さらに、国民が魔女と一般人とに分断される現象は、現実社会を投影している。
 

シーズン2では、3人組が晴れて士官候補生(“cadet”)に昇格。スプリーに加えて魔女の仇敵「カマリア」が登場し、三つ巴のストーリーが縦横無尽に展開する。シーズン3はSci-fiファンタジーらしく、3人の魔女が「死と憎悪の世界」を変えようと奮闘する。
 

“Motherland: Fort Salem”はサービス満点見どころ満載、悶絶する面白さのスーパーエンターテインメント。軍服を着た魔女たちの成長、友情、恋愛、そして終わりなき怒涛の戦いを描く、必見のSci-fiファンタジー・ミリタリーアクション・メロドラマなのだ!
 

本作は、昨年10月に配信が始まったシーズン3をもって完結した。
尚、本作によく似た作風のNetflixオリジナル“Warrior Nun”(邦題『シスター戦士』)もお勧めだ。
 

原題:Motherland: Fort Salem
配信:Disney+
配信日:2022年3月16日(S1-2)、2022年10月5日(S3)
話数:30(1話 41-52分)
 

<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #74
Title: “Because You Loved Me”
Artist: Celine Dion
Movie: “Up Close & Personal” (1996)


映画の邦題は『アンカーウーマン』。
セリーヌ・ディオンの映画主題歌ベストは、『タイタニック』のテーマではなくこの曲だ。
 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 


 

※※特報
同コラム執筆の土橋秀一郎さんがJVTAのYouTubeチャンネルに登壇しました!
◆【JVTA+スピンアウト】海外ドラママスター・土橋秀一郎プレゼンツ!
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中島唱子の自由を求める女神 第3話「咲ちゃんの五箇条」

中島唱子の自由を求める女神

中島唱子の自由を求める女神
Written by Shoko Nakajima 

第3話咲ちゃんの五箇条
言語の壁、人種の壁、文化の壁。自由を求めてアメリカへ。そこで出会った事は、楽しいことばかりではない。「挫折とほんのちょっとの希望」のミルフィーユ生活。抑制や制限がないから自由になれるのではない。どんな環境でも負けない自分になれた時、真の自由人になれる気がする。だから、私はいつも「自由」を求めている。「日本とアメリカ」「日本語と英語」にサンドウィッチされたような生活の中で見つけた発見と歓び、そしてほのかな幸せを綴ります。

 
ニューヨークに到着した日の夜。居候先の咲ちゃんが、紙とペンを持ってきて白い紙に一本の線を引いた。
 

「ここが五番街」その地図に東西南北を書き加えて「この、五番街を境にイーストとウエストにわかれて、ここがセントラルパーク」とメモ用紙に手書きの地図を描いた。次に長細いフランスパンのような形を描きながら、「ここがマンハッタン」そして、ブルックリン、クィーンズ、ブロンクス,スタテン島、長細いフランスパンの周りに適当な小さいあんドーナツのような円を加えた。「とにかく、絶対、ガイドブックを街の中で開いちゃ駄目よ。日本人の観光客のようにウロウロするのは危険だからね」彼女のレクチャーが続く。
 

咲ちゃんのニューヨーク攻略のための五箇条はこれだ。
1.夜の9時以降は地下鉄に乗らない。
2.ハーレムには行かない。
3.強盗にあった時のためにお財布は二つ持つ
4.決して街の中で笑顔にならない。
5.街中で地図をひろげない。お金を数えない。
この五箇条を聞いたらますます、ニューヨークが怖くなってその日の夜は不安で寝付けなかった。
 

日本でニューヨーク行きが決まった時、「観光ですら一度も行ったことないのに、一年も住むなんて無謀過ぎる。」と周囲はとても心配した。
 

確かに、写真や映画で観るニューヨークの街は、スリリングでギラギラしている。落書きだらけの地下鉄の車内の写真だけでもかなり、パンチがある。
 

日本では毎晩のようにガイドブックを熟読してニューヨークを攻略した気持ちになっていた。しかし、実際到着して、こちらにちょっと前から住む咲ちゃんの五箇条がおとぎの国のニューヨークを壊していく。
 

しかも、ガイドブックを街で開くことができないなんて、懐中電灯を持たずに夜の山道を歩くようで妙に心細い、いや、歩けない。
 

翌朝、カバンの中にはガイドブックを忍ばせてゆっくりと街を歩き出した。必要な時は、どこかのトイレに忍び込みガイドブックを開いて確認し、決して公共の場では開かない。街の地図もガイドブックから切り離してコートのポケットに入れた。どうしても道に迷った時だけ目立たない場所でこっそり確認する。周りに細心の注意を払いながら行動した。
 

到着から、二週間もしないうちに、五箇条を教えてくれた唯一の知り合いだった咲ちゃんは、家族と年明けまで旅行をすることになりニューヨークから離れた。
 

まずは住まい探しに奔走した。毎朝、日系の不動産屋さんも訪ね条件に合った部屋を見つけアポをとってもらい一人で内見に行く。住所と地図を手掛かりに内見するアパートを訪ねながら地下鉄やバスの乗り方もおぼえた。
 

東京の街よりはるかに小さな島のマンハッタン島に世界中の人たちが集まり暮らす。アパートの空室は1%だという。そして、家賃も東京以上に高い。マンハッタンのいいロケーションならルームメイトとして入居しない限り予算内のアパートが見つからない。何軒か、ルームシェアーを募集しているアパートも訪ね内見と面接をしてもらった。
 

アメリカに来るまでは一人暮らしの生活だった。ルームシェアで暮らせる自信はなかった。ましてや、契約する相手の全く知らない外国人である。何かトラブルがあった時に言葉の壁もある。
 

ホームスティやアメリカ人とのルームシェアは英語に慣れるためには魅力的ではあった。しかし、ルームシェアの相手と少ない会話を交わしただけなのに異常なほど緊張し会話にはならない。すっかり自信をなくしてしまった。数十件まわった頃には、街はクリスマスを迎えていた。咲ちゃんの五箇条を守り続けて、日が暮れると部屋に戻るようにしていた。寒さと街への緊張で数週間が過ぎてしまった。
 

ふと、顔を洗った時、洗面所の鏡で自分の顔をみた。知り合いもいない街の中で、私の顔から笑顔が消えた。人は笑わなくなると表情筋も衰えてとても寂しそうな顔になる。
 

街を知っていくうちに、危険な場所と安全な行動とがわかってくる。ハーレムも数十年前とは違い地価も高くなりだいぶ様子も変わった。
 

街への過剰な緊張がほぐれるまで時間はかかったが、やがて自然とお店の人にも笑顔で「サンキュー」と言えるようなっていた。
 

勢いで飛び出してしまい暮らしだした巨大な街ニューヨーク。そびえ立つ高層ビルの中を歩きながら、ふと上を見上げるとマンハッタンの空が小さく見えた。
 

写真Written by 中島唱子(なかじま しょうこ)
 1983年、TBS系テレビドラマ『ふぞろいの林檎たち』でデビュー。以後、独特なキャラクターでテレビ・映画・舞台で活躍する。1995年、ダイエットを通して自らの体と心を綴ったフォト&エッセイ集「脂肪」を新潮社から出版。異才・アラーキー(荒木経惟)とのセッションが話題となる。同年12月より、文化庁派遣芸術家在外研修員としてニューヨークに留学。その後も日本とニューヨークを行き来しながら、TBS『ふぞろいの林檎たち・4』、テレビ東京『魚心あれば嫁心』、TBS『渡る世間は鬼ばかり』などに出演。

 
 

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【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #31 Uncle Paul●斉藤良太(管理部門スタッフ)


先月、ネットニュースで何気なく見つけた記事に考えさせられる事があった。ジョン・レノンの長男ジュリアン・レノンが、ある空港のラウンジで偶然ポール・マッカートニーと遭遇し、その様子をジュリアン自らツイッターに投稿したという内容だ。その記事の中ではビートルズの名曲「Hey Jude」へオマージュを捧げた曲をジュリアンが今年リリースしたばかりだと書かれており、さらにジュリアンがツイッターに載せた写真では、その曲が納められたアルバム画像が映ったスマホの画面にポールが指をさしていた。ビートルズの熱心なファンでもない自分にとっては、この記事に対し強く感じる事も何か感慨に耽る事もなく、ネットのエンタメニュースの一つとして受け流すところだった。その記事のコメントを読むまでは。
 

たった数件だけ投稿されていたコメント欄の最初のコメントの内容に目が止まった。それはジュリアンのツイッター原文に書かれている「Uncle Paul」の「Uncle」が、記事に掲載されていたツイッター投稿内容の日本語訳に反映されていないことへの批判だった。恐らくコメント主はビートルズのファンであろう。コメントによるとポールはジュリアンが幼いころから遊んでくれ、父親のジョンがオノ・ヨーコと浮気をし当時5歳のジュリアンと母のシンシアから離れて意気消沈していた時には気にかけてくれたやさしい「ポールおじさん」であり、その「おじさん」との久々の遭遇だったことが感動をさせるのだと。ビートルズのエピソードを知らない大半の人は今回の記事を読んでも最初の自分と同じく、無数にあるエンタメニュースの一つとしてスルーをするだろう。だだ、このコメントを含めたこの記事の内容がなぜか心に引っかかった。
 

ジュリアンとポールの関係について少し調べてみることにした。1968年にジョンが浮気で母子から離れて行った時にポールはジュリアンの元を訪れ、帰宅途中の車の中でジュリアンを慰めるために「Hey Jude」を作ったというのだ。そこで初めて前述の記事になぜ「Hey Jude」の件があえて触れられていたのか合点が行った。さらにレコーディングや宣伝の際のエピソードが数多くある事を知り、同曲のミュージックビデオを見ると、まだ幼い息子を慰めるために第3者のポールが作った曲をジョンはどんな気持ちで演奏したのだろうと、さまざまな想像が頭に浮かんだ。そしてこの事を通じ、多くの名曲を産んだ偉大なビートルズという遠い伝説の存在が、さまざまな葛藤や衝突をしながら活動していた生身の「The Beatles」としてよりリアルに感じられる様になったのだ。
 

翻訳にはさまざまな制限がある。特に映像翻訳には字数制限があり訳出する内容を精査しなければならない。記事は映像翻訳ではなかったが、多くの目に触れる機会があるコンテンツにおいて翻訳者はたったワンワードであってもそれを受け取る側への大きな影響がある事を忘れてはならないと再認識した。
 

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Written by 斉藤良太

さいとう・りょうた●日本映像翻訳アカデミー・管理部門スタッフ。日英映像翻訳科修了生。
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Tipping Point Returns Vol.25 ■「社会を思う人になる」が先、「一人前になる」はあと

「社会を思う人になる」が先、「一人前になる」はあと
 

そう言われたら、皆さんはどう感じるだろうか。「その通り」と素直に受け入れられる人はいるだろう。「いやいや順序が逆。自分の面倒を見ることができない人が社会の役に立てるわけがない」と反論が頭に浮かんだ人もいるだろう。日本で60年近く暮らしてきた私の感覚では「一人前になるのが先」と信じる人が圧倒的多数派だ。その割合は世代が上がるほど高くなる。
 

1990年代前半、20代半ばで会社を辞めて出版業界や広告業界を飛び回っていた頃の話。広告業界で名の知れたある人物と食事をする機会を得た。その人は50代、大先輩だ。最初は緊張していたが、家族は? 大学では何をしてたの?などと聞かれるようになると気持ちが楽になり、私も本音が口をつくようになった。
 

「これからどんな仕事をしたい?」
「具体的なことは何も決まっていませんが、故郷の街の発展に役立つような仕事もやってみたいです」
「ほぉ、百年早いね。ここ(東京)で一旗揚げられない人間が、地元の街に貢献するなんて無理。まずは目の前の小さな仕事で一人前になることを考えろ」
 

この言葉は今も私の心の傷となり残っている。目の前の仕事で一人前とは言えないやつが故郷の街、つまり他人や社会のことを気にするのはちゃんちゃらおかしいと言うのだ。それからというもの、世の中や社会、自分以外の人たちの幸せのことが頭に浮かぶたびにその言葉がよみがえり、(あぁ、今の半人前の自分にはそんなことを願い、行動する資格はないのだ)と考えるようになった。そう、トラウマだ。私はこれを「一人前至上主義者による言葉の暴力」と定義している。皆さんのなかにも似たような経験をした人はいるのではないだろうか。
 

こんな昔話をしたのはなぜか。結論を言おう。目の前の仕事で一人前にならないと他人や社会には貢献できない――そんな考えは時代遅れの妄想だ。今とこれからを生きる私たちは「一人前至上主義者」の言葉に耳を傾けてはいけない。私のようなトラウマを、人から与えられる必要はないし、人に与えてもいけない。
 

道半ばでも、道に迷っていても、自分は半人前だと自覚していたとしても、人と社会のことを思い行動する自分を誉めていい。そんな人に出会ったら、その人の年齢や社会的な立場に関係なく共感し、リスペクトすべきだ。理想を語っているのではない。それが新しい時代に求められる「成功に向かう手順」なのだ。
 

幸いなことに、私は「一人前至上主義」に染まる一歩手前で踏みとどまることができた。おそらく大学の恩師や読んだ本から学んだことが助けてくれたのだと思う。だから、JVTAがまだ数人の社員しかいない超マイクロ企業であった頃でも「難民映画祭」やバリアフリー映画祭、大学や高校教育への無償協力事業には躊躇がなかった。
 

「財務状況もおぼつかないのにボランティアや寄付なんて本末転倒じゃないか」、「何を格好つけてんの?」。実際にそう言われたことがあるし、今もなくなったわけではない。今年、ウクライナからの避難学生たちと取り組んだ『J-Anime Stream for Ukraine』や、SDGsに関連する海外ドキュメンタリー作品の上映を行った『WATCH 2022 WINTER』に対して、そんなような皮肉を言う人は今もいる。「それってビジネスとして成立してるの? 小さな会社にはもっとすべきことがあるんじゃない?」。
 

イベントの成果を事業収支の黒字とするならば、「一人前至上主義」に取りつかれた人の眼に主催者である私たちは半人前に映るだろう。支援やボランティアというものは財務も事業も安定している一人前の会社が余力でやるものだ、と。
 

しかし、私は経営者としても一人の市民としても、自分たちの判断と行動が間違っているとは思わない。「一人前至上主義」に取りつかれた人の言葉には耳を貸さない。なぜならば、仕事で真の成功を目指すためには『「社会を思う人になる」が先、「一人前になる」はあと』が正しいと信じて疑わないからだ。人や社会を思い、行動できる人や会社だからこそ、人や社会は一人前になるよう導いてくれる。そう考えるほうがスッキリする。
 

キャリアパス、職能の獲得、収入の安定……悩みは尽きず、自分はまだまだ半人前だと落ち込むことはあるだろう。まずは自分を何とかしろ、人や社会のことなんて考えるなと圧力がかかることもあるだろう。でも、こう信じてほしい。それは逆だ。人や社会のことを思えるあなただからこそ評価され、招かれ、さらなる成長の機会が訪れる――。
 

「まずは自分が一人前になるために」と考えて努力する姿は、咎められる筋合いのものではないが見とれるような魅力もない。しかし、たとえ未熟であっても、人や社会のことを思う気持ちを胸に一人前になろうと学び、働く人の姿は美しい。
 

幸い世界のビジネス・トレンドはこの方向に流れ始めている。どんなに稼ぐ力がある会社でも、社会や環境に配慮がないなら退場を宣告される。個人も同じだ。評価されるには経験や資格、実績だけでは足りない。ボランティアなどの具体的な活動もそうだが、それ以前のところで「人や社会を思う人であるか」が問われる。そうであれば仕事はまだ半人前でも評価される。
 

私はあと6年ほどで高齢者の仲間入りをするが、この考え方を絶対に変えない。「人や社会を思う人」を評価し、応援したい。同時に自らもそう見なされたい。
 

この話、皆さんはどう思われるだろうか。異論や反論も大歓迎。ぜひコメントをいただきたい。
 

2023年が、皆さんにとって大きな飛躍の年となりますように。
 

◆J-Anime Stream for Ukraine
http://stream.jvtacademy.com/
 

◆WATCH 2022 WINTER
http://www.watch-sdgs.com/
 

ちょっとした感想やコメントでもお気軽に。
メールをもらうと元気がでます!
niiraアットマークjvtacademy.com 
※アットマークを@に置き換えてください。
 

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Tipping Point Returns by 新楽直樹(JVTAグループ代表)
学校代表・新楽直樹のコラム。映像翻訳者はもちろん、自立したプロフェッショナルはどうあるべきかを自身の経験から綴ります。気になる映画やテレビ番組、お薦めの本などについてのコメントも。ふと出会う小さな発見や気づきが、何かにつながって…。
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Tipping Point Returnsのバックナンバーはコチラ
https://www.jvta.net/blog/tipping-point/returns/
2002-2012年「Tipping Point」のバックナンバーの一部はコチラで読めます↓
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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第98回 “Lost Ollie”(『オリー』)

    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

    “Viewer Discretion Advised!”
    これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
    Written by Shuichiro Dobashi 

    第98回 “Lost Ollie”(『オリー』)
    “Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
     


     

    あなたのハートを貫く、パッチワークのウサギの物語!
    本年最後にとっておきの隠し玉を紹介する。
    それはパッチワークのウサギが主人公の実写/CGアニメーション。Netflixオリジナルのリミテッドシリーズで、わずか4話の小品だ。
     

    “Lost Ollie”は、美しくも哀しい愛と友情と勇気の物語。あなたのハートを貫き、深い感情を呼び起こす、最高のクリスマス・プレゼントなのだ!
     

    “How long we been friends?”
    —ケンタッキー州近郊
    リサイクルショップにある段ボールの箱の中で、オリーは目覚めた。オリーは長いたれ耳を持つ、体長約15センチのパッチワークのウサギだ。
    「ここはどこ?」
    「僕はどのくらい眠っていたのだろう?」
    「ビリーはどこ?」
     

    オリーは、ビリーのかすかな記憶以外は何も思い出せなかった。
    「ビリーの元へ帰らなきゃ」
     

    4歳のビリー(ウィリアム・カーソン)はワイルズ家の養子だ。彼はシャイで、唯一の友人オリーといつも海賊ごっこをしている。母親(ジーナ・ロドリゲス)はガンの末期だが、貧しくて治療が受けられない。それでも、ビリーにはいつも明るく優しく接している。父親(ジェイク・ジョンソン)は善良な人間だが、プレッシャーに押しつぶされそうだ。息子にもどう接していいか分からない。
     

    ある日、ビリーはオリーを失った。何が起きたんだ?
    ビリーはオリーを探すために家を抜け出した。
     

    オリーは、リサイクルショップに住むピエロの人形ゾゾと出会う。ゾゾにはニーナという操り人形の恋人がいたが、離れ離れになって久しい。オリーは、協力してビリーとニーナを探し出そうとゾゾに持ちかける。
    オリーとゾゾがショップから脱出すると、狂暴な飼い犬が襲いかかってきた。彼らを危機から救ったのは、テディベアの海賊剣士ロージーだった。どうやらロージーは、ゾゾの昔からの知り合いらしい。
     

    ロージーも旅に加わった。彼らはオリーの記憶の断片を頼りに、オハイオ川を南下する船に乗った。
    オリー、ゾゾ、ロージーの波乱万丈の旅が始まった!
     

    オリーに魂を吹き込んだジョナサン・グロフ!
    オリーの声を担当したのは、ブロードウェイ出身のジョナサン・グロフ。『アナと雪の女王』 『ハミルトン』 ”Glee”など、ミュージック系作品が代表作だ。また迫真のサイコスリラー”Mindhunter”で演じた、主役のFBI捜査官フォードも忘れ難い。
    子役ではなく37歳のグロフが、オリーに魂を吹き込んだのだ。
     

    ジーナ・ロドリゲスは、大ヒットコメディ”Jane the Virgin”(2014-2019)でタイトルロールを演じ、ゴールデングローブ賞の主演女優賞を受賞している。女性版ルパン三世”Carmen Sandiego”(本ブログ第83回参照)では、カルメンの声を担当。本作では、優しさあふれるビリーの母親を好演した。
     

    ビリーの父親を演じたジェイク・ジョンソンは、”New Girl”(2011-2018)のルームメイト、”Stumptown”(本ブログ第89回参照 )のバーテンダーなど、主役女性の親友役でいい味を出す。
     

    また、ロージーの声を”The Umbrella Academy”(本ブログ第80回参照)の殺し屋チャチャことメアリ-・J・ブライジが、ゾゾの声を“Watchmen”のティム・ブレイク・ネルソンが担当している。
     

    「とても哀しいハッピーエンド」って何だ?
    原作は、ウィリアム・ジョイスの子供向け小説”Ollie’s Odyssey”。ショーランナーのシャノン・ティンドルは、ストーリーとキャラクターの奥深さを徹底的に追求した。その結果、本作は老若男女を問わず、圧倒的な感動を与えるアニメドラマに仕上がった。
    全エピソードを監督したピーター・ラムジーは、傑作アニメ『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)で、アカデミー賞&ゴールデングローブ賞アニメ部門の最優秀作品賞を受賞している。
     

    本作最大の魅力は、オリー、ゾゾ、ロージーのキャラクターの深さだ。ILM(”Industrial Light and Magic”)による特撮は、彼らを完全に実写に溶け込ませ、アクターとの境界線をなくしてしまった。
    サイドストーリーも魅力に富んでいて、オリーの出生秘話、ゾゾとニーナのラブストーリー、ゾゾとロージーの出会いには胸が熱くなる。
     

    「迷子のオモチャが持ち主の少年の元に帰る旅」—出だしは『トイ・ストーリー』の亜流かと思うが、そんなヤワな話ではない。(誤解のないように言っておくと、筆者は『トイ・ストーリー』のファンだ。)
    物語はシリーズ半ばで突如ダークサイドへと向かい、予測不能となる。このころには、観る者はオリーたちオモチャを実体のあるキャラとして捉えていて、いつのまにか感情移入させられている。やがて残酷な事実が明かされ、希望が打ち砕かれていく。いったいどんな結末が待っているのか、心配で居ても立っても居られなくなる。
     

    愛と友情と勇気の物語だが、苦い真実が胸に突き刺さる。「ほろ苦い」のではなく「苦い」のだ。喪失感は大きいが、全編心地よい優しさに包まれている。「冷酷さ」と「寛容さ」を兼ね揃えたストーリーは、高い満足感を与えてくれる。そして結末は、「とても哀しいハッピーエンド」だ。
    “Lost Ollie”はあなたのハートを貫き、深い感情を呼び起こす、最高のクリスマス・プレゼントなのだ!
     

    Netflix会員のあなた、騙されたと思って本作を覗いて欲しい。「とても哀しいハッピーエンド」に心を打たれるから。
     

    原題:Lost Ollie
    配信:Netflix
    配信日:2022年8月24日
    話数:4(1話 41-51分)
     

    尚、CGアニメと言えば、”Star Wars: Tales of the Jedi”(Disney+)はファン必見。タイトル通り、『スター・ウォーズ:エピソード1~3』に登場するジェダイたちが勢ぞろいする。全6話をイッキ観しても正味1.5時間以下のショートシリーズだが、今年配信された”The Book of Boba Fett”、”Obi-Wan Kenobi”、”Andor”より面白い。
     

    <今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #73
    Title: “It Had to be You”
    Artist: Frank Sinatra
    Movie: “When Harry Met Sally” (1989)

    『恋人たちの予感』も今やクリスマス・クラシック。年は取りたくない。

    写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
     
     

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中島唱子の自由を求める女神 第2話「必然のひらめき」

中島唱子の自由を求める女神

中島唱子の自由を求める女神
Written by Shoko Nakajima 

第2話必然のひらめき
言語の壁、人種の壁、文化の壁。自由を求めてアメリカへ。そこで出会った事は、楽しいことばかりではない。「挫折とほんのちょっとの希望」のミルフィーユ生活。抑制や制限がないから自由になれるのではない。どんな環境でも負けない自分になれた時、真の自由人になれる気がする。だから、私はいつも「自由」を求めている。「日本とアメリカ」「日本語と英語」にサンドウィッチされたような生活の中で見つけた発見と歓び、そしてほのかな幸せを綴ります。

 
縁というものはとても不思議である。あの時、あの人があの場所にいなければ、いまの私はない。そう思えるほど劇的に小さな偶然が大きく人生を変えていく。
 

30年以上前のTBSの局の廊下は複雑で迷路のようだった。誰かの案内がないとすぐ迷ってしまう。当時私の劇団のマネジャーがTBSの局内を局営業に廻っていたとき、複雑な廊下に迷い込んでしまい「容貌の不自由な人募集します」という風変わりな告知に目が止った。すぐさまに制作部の部屋に飛び込み私のプロフィールと宣材写真を提出したのが書類選考の最終日。それが、デビューのきっかけとなった『ふぞろいの林檎たち』である。あの時、もし、マネジャーがその廊下であの告知に気づいていなければ、私は女優にはなっていなかった。
 
 
デビューから息切れしながら一気に駆け上った10年間。夢中で仕事をしてきたけど、心の中はいつも不安と孤独だった。仕事は順調のように見えたが心の中はプレッシャーで押しつぶされそうだった。芝居は好きだった。舞台もテレビもどんな役でも演じることに喜びも生きがいも感じてはいた。けれども、仕事を終えて自宅に戻ると妙な不安と孤独で押しつぶされそうになる。
 

その気持ちを立ち止まって考えるほどの余裕もなかった。いつしか時代に流されて本当の自分を見失いかけていたのかもしれない。
 

その頃の私は、旅行に行く時間のゆとりも、勇気もなかった。寝る前に「地球の歩き方」を開いては知らない国を旅する。ロンドンも、パリもイタリアも自由自在に空想の中を巡る旅だ。ガイドブックの中だけの憧れの場所はおとぎの国のようにキラキラしていた。
 
 
そんな時、舞台を公演中の劇場の楽屋で国費の留学の話を聞いた。芸術家のための国費留学があって、当時有名な演出家も、イギリスへ一年留学していたので一挙に話題になっていた。その話を私にしてくれたのは、舞台メイクの指導に1日だけ楽屋を回っていたメイクさんだ。 インターネットも携帯もない時代である。イエローページで調べた電話番号を頼りに問い合わせをし、公演の合間に申請書類を集めた。すべての書類が揃いポストに投函したのは書類締め切りの最終日の夕方だった。
 

半年が過ぎた頃、自宅に届いた地味な封筒を開いて読んでみたら、「内定」の二文字。その後面接を受け、私はニューヨーク行きの切符を手にした。
ガイドブックの中の「おとぎの国」の街が、現実の今いる場所に変わるのだ。
 
 
メイクさんが楽屋を訪れて留学の話をしてくれた、わずか15分。何か、素通りできないひらめきのような勘がはたらいた。あの時に国費の話を聞かなかったら、アメリカで暮らすようなこともなかったし、いまの生活はなかっただろう。
 

振り返ると人生の中であの時の決断ほど大きなものはない。ただ、自分を見失いかけていた時の未来への不安と知らない場所で暮らす不安は百八十度違う。
何か揺り動かされる思いで30歳になる直前に私は、「ニューヨーク」へ向かった。
 
 
写真Written by 中島唱子(なかじま しょうこ)
 1983年、TBS系テレビドラマ『ふぞろいの林檎たち』でデビュー。以後、独特なキャラクターでテレビ・映画・舞台で活躍する。1995年、ダイエットを通して自らの体と心を綴ったフォト&エッセイ集「脂肪」を新潮社から出版。異才・アラーキー(荒木経惟)とのセッションが話題となる。同年12月より、文化庁派遣芸術家在外研修員としてニューヨークに留学。その後も日本とニューヨークを行き来しながら、TBS『ふぞろいの林檎たち・4』、テレビ東京『魚心あれば嫁心』、TBS『渡る世間は鬼ばかり』などに出演。

 
 

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【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #30 年末年始に読んで(読み返して) 翻訳へのモチベーションを上げる「2冊」●丸山雄一郎(「日本語表現力強化コース」主任講師)


2022年もまもなく終了。年末年始の休みも近いということで、今回は「翻訳のモチベーションを上げてくれる」2冊を紹介したい!
 

①『翻訳夜話』 著者:村上春樹、柴田元幸(文春文庫)
JVTAの受講生、修了生にはおなじみの一冊だが、久しぶりに読み返してみて、改めて“翻訳”の面白さに気づかされた(翻訳者という仕事の面白さとも言えるが)。著者の柴田さんは私が言うのもおこがましいが書籍の翻訳に関して言えば「日本で最も日本語表現力が高い」翻訳者だと思う。それ故、ご自身の好みももちろんあると思うが、翻訳が難しいであろう作家の本ばかり出版社からお願いされるのでは?と考えてしまう(エドワード・ゴーリーやフィリップ・ロスなどがいい例だ)。その柴田さんがこの著書の中で「自分にしっくりくる言葉には限りがあって、それを活用するしかない」と、類義語辞典を使うことや「日本語を磨く」という行為に対しての思いを述べている。これは決して辞典や言葉を磨くことを否定しているのではない。言葉を調べ、日本語力を高めていったとしても結局、それが自分の言葉になっていないと原稿には使えない。つまり、私たち(映像翻訳者)は常に「自分にとってしっくりくる言葉を探していく」しかないと述べているのだ。映像翻訳者という仕事はなんと大変で、でもやりがいのある職業(生き方)なのだろうと思えないだろうか。
 

②『日本人のための日本語文法入門』 著者:原沢伊都夫(講談社現代新書)
日本語表現力の講義の中でも文法に触れているせいか「いい文法の本はありませんか?」とよく問われる。数年前までは、いくつか書籍名を挙げてきたが、「文法だけにとらわれてはいけない。それは日本語を作ることを困難にする」という持論から最近はあえて書籍名を伏せている。ただ、自分自身は絶えず文法関連の書籍に目を通しており、最近読んだ中ではこれが一番分かりやすく、しかも日本語の構造をやさしく解説してくれている。翻訳に役立つ内容もある。例えば、一文の中に使われている単語と述語との関係を文法上「格関係」、各関係を示す助詞を「格助詞」と呼ぶが、格助詞は全部で9つあり、その中の「へ格」は方向を表す、「に格」は場所や時、到達点を表すとある。この文法に則って考えると、下記のA、Bの文章にはそれぞれ何の助詞が入るだろうか?
 

A. 南●向かう
B. 会社●行く
 

答えはAが「へ」。Bが「に」だ。私の講義でも聞いたことがある人もいるかもしれないが、「南、北といった大きなものをとる際には“へ”、会社や学校といった具体的な場所には“に”を使いなさい」と教えてきた。もう少し詳しく言うと、「南、北という言葉から連想する景色は人によって違う。つまり大きなものなので「へ」。会社、学校というのは規模の大小はあれど多くの人が想像するものに大きな違いはない。だから「に」なのだと。これが文法を根拠にしていたことがこの本から分かるというわけだ。ただし、紹介しておいて何ではあるが、こうした翻訳にもちょっと役立つ内容はあるものの、あくまでも日本語の面白さ、文法的な仕組みを解説している本としてとらえてほしい。断じて日本語表現のテクニック的な本ではない。私が講義の中で文法に触れているのは、翻訳をしていれば誰でも助詞に迷う場面があり、その迷いを少しでも早く解消してほしいからだ。そのため知識としての文法ではなく、ある種のテクニックとして役立つ文法をお教えしているはずだ。この本を紹介した理由は皆さんが翻訳者として、受講生として関わっている日本語の奥深さや、著者が言うところの日本語の“本当の姿”を知ってもらい、日本語の面白さに気づいてほしいからだ。皆さんの日々の仕事や学習で触れる「日本語」はこんなにも深く、それを専門に研究している人も大勢いる。私たちはそんな世界に挑んでいる。やる気にさせられますよね?(笑)
 

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Written by 丸山雄一郎

まるやま・ゆういちろう●日本語表現力強化コースの主任講師。学生時代からJVTA代表である新楽直樹に師事し、ライターとしてデビュー。小学館「DIME」「週刊ポスト」「週刊ビッグコミックスピリッツ」などでライター、編集として活動後、講談社「週刊現代」「FRIDAY」「セオリー」などで執筆。現在は、映像翻訳本科のほか企業の社内研修でも講師を務める。
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「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!
 
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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第97回 “THE BEAR”(『一流シェフのファミリーレストラン』)

    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

    “Viewer Discretion Advised!”
    これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
    Written by Shuichiro Dobashi 

    第97回 “THE BEAR”(『一流シェフのファミリーレストラン』)
    “Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
     


     

    グルメ・ドラメディ第2弾は衝撃的な面白さ!
    このドラマの配信を待ち望んでいたのだが、邦題が地味過ぎて危うく見逃すところだった。アドレナリン全開の本作は、もっと力強く煽情的なタイトルじゃないと。『ザ・ベア:俺の炎上キッチン!』みたいな。
     

    “The Bear”はDisney傘下のFXが制作、日本ではDisney+のSTAR内にひっそりと眠る宝石のような作品。前回紹介した“Julia”とは趣が異なりスピーディでスリリング、衝撃的に面白いグルメ・ドラメディ(コメディ・ドラマ)なのだ!
     

    キッチンは戦場、シェフは戦闘モード!
    —イリノイ州シカゴ、リヴァーノース
    “The Original Beef of Chicagoland”(通称“The Beef”)は、イタリアンビーフ・サンドイッチをメインに売るイートイン・デリ。カブスファンよりホワイトソックスファンが多い廃れた地域にある。客層は低所得者で、店の近くではヤクの売人がたむろしている。
     

    “The Beef”のキッチンは毎日が戦場だ。早朝から仕込みを始め、午後3時から10時までの営業時間に備える。開店と同時に客は引きも切らずに詰めかける。とにかく忙しい。だが、7人の従業員を抱えた薄利多売のビジネスは自転車操業で、ちっとも儲からない。
     

    カーミー(ジェレミー・アレン・ホワイト)は、かつてはNYの超一流フレンチレストランで働く、全米屈指の若手シェフだった。だが、シェフ長からのハラスメントと過酷な競争から生じるストレスは凄まじい。長くは続かず、彼は無一文で、身も心もボロボロになって生まれ故郷に戻ってきた。
    今は4か月前に自殺した兄マイケルの後を継いで、“The Beef”でサンドイッチを作っている。
     

    リッチー(エボン・モス=バクラック)は“The Beef”の共同経営者で、マイケルの親友だった。きつくて頑固な性格は客商売向きではなく、カーミーともそりが合わない。
     

    シドニー(アイオウ・エディバリー)は新入りだが、有名料理大学出身の才媛。“The Beef”は父親のお気に入りだった。彼女の夢は、この店を一流レストランに変貌させることだ。
     

    レストラン業はシビアで、“The Beef”には問題が山積みだ。カーミーは料理を作るだけでなく、資金繰り、非効率な作業システム、クセの強い従業員たち、事故、それに不運と毎日格闘する羽目になる。
     

    キッチンは一瞬も落ち着くことがない。
    カーミーは常に戦闘モードだ!
     

    ジェレミー・アレン・ホワイト、一世一代のハマリ役!
    カーミー役のジェレミー・アレン・ホワイトの代表作は、やはりシカゴを舞台にしたSHOWTIME最長の大爆笑ドラマ“Shameless”(2011-2021)。完全機能不全のギャラガー家の長男、秀才でクールなリップを全シーズン演じた。本作では精神的に壊れた天才シェフをエネルギッシュに体現し、その魅力と演技力を存分に発揮する。カーミーは、ホワイト一世一代のハマリ役だ。
     

    リッチー役のエボン・モス=バクラックの顔を見ると、怒涛の海洋アクションドラマ“The Last Ship”(2014-2018)で演じた、精神がねじ曲がった科学者ニルスを思い出す。最近では、“Andor”( 『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のスピンオフドラマ)にも出演している。
     

    頭脳明晰なシドニー役のアイオウ・エディバリーは、コメディアン&コメディ・ライター。本役では、ジョークを抑えてカーミーのサポート役に徹する。
     

    さらに、パン焼き係からデザートの研究家へ転身するマーカス役のライオネル・ボイス、“The Beef”のお局様ティナを演じるライザ・コロン・ザヤスを加えて、5人のアンサンブルキャストには強烈なケミストリーが働く。
     

    激写されるキッチンの狂気!
    ショーランナー(兼共同監督兼共同脚本)のクリストファー・ストーラーは、コメディ畑一筋。特にコメディ・スペシャル(スタンダップ・コメディアンのショー)でキャリアを築いてきた。
     

    ストーラーはロングショットとクローズショットを駆使したカメラワークで、絶望的なカオスと化すキッチンの狂気を激写する。圧巻なのは第7話だ。わずか21分のエピソードだが、冒頭数分の後はクレイジーなキッチンバトルがワンショットで撮られている。
     

    カーミーにとって“The Beef”は唯一の拠り所だ。負のスパイラルから抜け出し、自分の人生を立て直さねばならない。原題の“The Bear”はカーミーが子供のころのニックネームだが、シーズンフィナーレでより大きな意味を持つ。“The Beef”のメンバーは、自分が少しずつスキルアップしながら役立っていることを実感する。自信はお互いのリスペクトを育む。彼らはカーミーをリーダーとして認め、やがて疑似家族となる。
    このチームビルディングのプロセスが素直に心にしみてくるのは、キャラクターアーク(人物の成長や変化の軌跡)を抜かりなく描いているからだ。本作はドラメディと言っても、コメディよりドラマ性が強い。
     

    カーミーの激しい感情的起伏はドラマのテンションを爆発的に増幅させ、視聴者はその疾走感にハマる。強い中毒性があり、第1話からアドレナリン全開、休みなしでイッキ観させる。
    制作が決まったシーズン2が待ちきれない。
     

    “The Bear”は、乱立する日本の動画配信サービスの中に埋もれた宝石だ。下手なアクションドラマやクライムドラマよりスピーディでスリリング、衝撃的に面白いグルメ・ドラメディなのだ!
     

    原題:The Bear
    配信:Disney+
    配信日:2022年8月31日
    話数:8(1話 21-48分)
     

    <今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #72
    Title: “Born Free”
    Artist: Matt Monro
    Movie: “Born Free” (1966)
     

    『野生のエルザ』、懐かしい。マット・モンローは『ロシアより愛をこめて』だけではないよ。
     

    写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
     
     

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    ※※特報
    同コラム執筆の土橋秀一郎さんがJVTAのYouTubeチャンネルに登壇しました!
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