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明けの明星が輝く空に 第173回:特撮作品が描く女性像

初めて昭和の特撮作品を観た人たちからは、こんな感想が漏れるかもしれない。「ミニスカート姿のヒロインが多いな。」 もちろん、昭和40年代にはミニスカートブームというのがあり、町なかにはそんなファッションの女性が闊歩していた。また、昭和45年に開催された大阪万博でも、コンパニオンさんの制服が軒並みミニスカートだったことを考えれば、驚くようなことではないかもしれない。しかし、その衣装で派手な立ち回りやアクションをさせるのは…。今なら間違いなくやり玉に挙げられるだろう。

実を言えば、3月の記事で取り上げたマリ(『キカイダー01』)の衣装も、ミニスカートだった。その姿で空手技を繰り出したり、地面に転がったりするものだから、違った意味でハラハラしてしまう。推測に過ぎないが、制作したのが東映だったことと関係があるかもしれない。例えば、『プレイガール』(1969年~1974年)という、“お色気”が売りのアクション番組を制作したのも東映だ。ブラウン管が映し出すのは、ミニスカートでのアクションのほかヌードシーンなど、お茶の間が気まずくなってしまうような場面が多かった。

ただし、さすがに『キカイダー01』は子供向けの番組なので、番組制作者もそこはわきまえていた。アクションの見せ方にいやらしさはなく、節度は保っていたと言えるだろう。(中には、見せることが前提となっているとしか思えない特撮番組があったのも、また事実なのだが。)

円谷プロのウルトラシリーズの場合、そういった路線とは距離を置いていた。怪獣と戦う特殊チームの女性隊員はパンツスタイルで、肌の露出もほとんどなかった。制服がタイトなデザインのため、多少体の線が出るということはあるが、それは男性隊員も同じであった。

しかし、チーム内における彼女たちの立ち位置は、ステレオタイプに基づいたものだ。戦いの最前線に立つこともあるのだが、基地に残って通信などを任されることも少なくなかった。また、現場で負傷者が出れば、その保護を担当し、逃げ遅れた人たちを誘導するため、後方に引くこともあった。

隊員の男女比にも偏りが見られる。当初は、男性4~5人に対して女性は1人。その後、女性は増えたものの、男性優位は変わらない。もちろん、力関係でもそれは変わらず、隊長は決まって男性。『ウルトラマンティガ』(1996年~1997年)で初の女性隊長が登場したが、その後は副隊長止まり。『ウルトラマンタイガ』(2019年)のように、主人公が所属する民間警備会社の社長が女性という例もあるが、これはいわば“背広組”であって“制服組”ではないから、前線で指揮を執る戦闘部隊の隊長とは同列に論じることはできない。

スーパー戦隊シリーズの場合、女性だからといって後方支援のような形はとらない。男女そろって最前線で戦うのが基本だ。しかし、だからこそ、人数の偏りがより明確になる。シリーズ第1弾の『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975年~1977年)における男女の比率は4:1。シリーズ5作目の『太陽戦隊サンバルカン』などは、メンバー3人すべて男性だった。その後、5人中2人が女性というパターンが増えたが、いまだに男女比は逆転していない。

スーパー戦隊シリーズに関して、もう1つ指摘したいのは、女性レッドの不在だ。ご存じのようにスーパー戦隊の各キャラクターは、ブルーやイエロー、ピンク、ブラックなど個別の色を持っており、センターを任されるのは常にレッド。必ずしもチームリーダーというわけではないのだが、物語の中心となるキャラクターだ。例外的に、『侍戦隊シンケンジャー』(2009年~2010年)に女性のレッドが登場したが、それは番組終盤の6話だけで、ほかに全49話を通して登場する男性主人公のレッドがいた。

仮面ライダーシリーズに目を転じれば、最近は女性ライダーも登場するのが番組の基本フォーマットとなっている。ただし、主人公は男性のまま。女性ライダーが主人公の作品は、いまだ実現していない。それでも、実力は男性ライダーと拮抗しており、戦闘において、“一歩下がって”といった立ち位置ではないところは、今後に期待を抱かせる点だろう。一方、数自体が少ない女性ウルトラマンのそれは、母親や幼馴染、元恋人、そして妹など。男性主人公の周縁的な位置にとどまり、女性ライダーに比べて壁は高いようだ。

女性が主人公では、男の子の視聴者を引き付けられない。そんな見方が番組制作サイドにあるのだろうか。しかし、僕自身の子供時代を振り返れば、『魔法使いサリー』や『リボンの騎士』など“女の子アニメ”を楽しく観ていた。『キャンディキャンディ』のエンディングソングは、今でもお気に入りの一曲だ。作品が面白ければ、主人公の性別は関係ない。まして、アクションも生き様もカッコいい女性のスーパーヒーローなら、男の子たちの目にも魅力的に映るだろう。近い将来、怪獣や怪人たちより手ごわそうな、特撮界に残るこの高い壁が崩れ去ることを期待しよう。

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。

【最近の私】数十年ぶりに縄跳びをやってみたら、こんなにできなくなるものか!というぐらいできませんでした。タイミングが合わない合わない。二重跳びなんて1回跳んだら足に引っかかって…。ブランクをなめてはいけない。

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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る 

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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第115回 “POKER FACE”

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

 

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第115回“POKER FACE”

 

“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

 

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 

予告編:『ポーカー・フェイス』 本予告

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コロンボ形式の底抜けに楽しいミステリードラマ!

本作は、大手民放NBC傘下のPeacockによる、倒叙形式の一話完結型推理劇。倒叙形式とは、『刑事コロンボ』のように冒頭に犯行が描かれ、その後で探偵役が謎を解くスタイルだ。
筆者が待ち望んでいた一作が、ようやくU-NEXTで視聴可能となった。

 

“Poker Face”は斬新でユニーク、逃亡中の素人探偵が10件の殺人事件に挑む、底抜けに楽しいコメディタッチのミステリードラマなのだ!

 

“Bullshit!” (ウソだね)

—ギャンブルのメッカ、ネバダ州
チャーリー・ケイル(ナターシャ・リオン)には、相手のウソを一瞬で見破る特殊な才能がある(誰かがウソをつくと“Bullshit” とつぶやく)。チャーリーはかつてこの特技を駆使して、ポーカーで中西部のカジノを荒らしていた。だが、フロスト・カジノのオーナーに見破られた。
彼女の名がブラックリストに載ると、誰にも相手にされなくなった。オーナーは、お目こぼしでカクテル・ウェイトレスの仕事をくれた。
チャーリーは、ペイントの剥げたトレーラーハウスに住んでいる。愛車は骨董品の‘69年式プリムス・バラクーダだ。

 

ある日チャーリーは、オーナーの息子スターリング・フロスト・ジュニア(エイドリアン・ブロディ)に取引を持ち掛けられる。2人で組んで、石油王のハイローラー(超高額を賭ける上客)から、ポーカーで大金を巻き上げようというのだ。報酬はキャッシュで150万ドル。
人生を変えるために、チャーリーは引き受けた。

 

フロスト・カジノで働くナタリーが、DVの夫と共に自宅で射殺された。ナタリーはチャーリーの親友だった。警察は役立たずで、チャーリーは独自に犯人を探し始める。

 

犯人はフロスト・ジュニアだった。チャーリーが特異な才能と鋭い観察力で、事件の全容を解明したのだ。
真相がメディアに暴露されると、ジュニアは飛び降り自殺をした。

 

フロスト・カジノのオーナーであるスターリング・フロスト・シニア(ロン・パールマン)は、息子の復讐を誓った。保安主任の殺し屋クリフ(ベンジャミン・ブラット)が、チャーリーを追う。

 

一獲千金の計画も夢に終わり、チャーリーの孤独な逃亡生活が始まった。
だが不思議なことに、彼女は行く先々で殺人事件に巻き込まれる羽目になる!

 

ナターシャ・リオン、一人舞台で輝く!

チャーリーを演じるナターシャ・リオンは、女性刑務所が舞台のドラマディ“Orange Is the New Black”(本ブログ第4回参照本ブログ第4回参照)の準主役ニッキー役でブレーク。さらに無限のタイムループを描いたSci-Fiコメディ“Russian Doll”では主演、クリエーター、製作総指揮、共同監督、共同脚本を務めた。
リオンは本作でも製作総指揮、共同監督、共同脚本を兼務し、3作品でゴールデングローブ賞に2回、エミー賞に5回ノミネートされている。

 

「がさつでウザいが根は優しく、好奇心旺盛でしたたかで、正義感の強い楽天家の人間ウソ発見器」 —そんな複雑なチャーリーを、リオンは何の苦も無く演じているように見える。エピソードが進むにつれて彼女独特のダミ声は魅力的に聞こえ、チャーリーのキャラは深みを増す。

 

リオン以外のキャストはエピソード毎に入れ替わり、準主役と言えるのは、殺し屋クリフ役のベンジャミン・ブラット(“Law and Order”)くらい。本作は文字通りリオンの一人舞台だ。

 

毎回のゲストは多彩で、ムービーアクターではエイドリアン・ブロディ、ロン・パールマンに加えて、エレン・バーキン、ニック・ノルティ、ジョセフ・ゴードン=レヴィット。さらに“The Big Bang Theory”のサイモン・ヘルバーグ、“24”のチェリー・ジョーンズら多くの人気テレビアクターも顔を揃える。

 

「チャーリーのミステリーシアター」へようこそ!

クリエーター&製作総指揮(兼共同監督兼共同脚本)のライアン・ジョンソンは、“Breaking Bad”を3エピソード監督し、『スターウォーズ/最後のジェダイ』(2017)では監督・脚本を手掛けた。だが彼が本領を発揮するのは、監督デビュー作のクールな高校生ノワール『BRICK ブリック』(2005)、ダニエル・クレイグが名探偵ブノア・ブランを演じる『ナイブズ・アウト』シリーズに代表されるミステリー物だ。

 

本作の真骨頂はその構成の妙にある。「逃亡中の主人公」「倒叙形式」「フラッシュバック」「一話完結型」は、個々には何ら新味はない。だがこれらを巧みに組み合わせることで、観る者を全く新しい形式のドラマだと錯覚させてしまう。

 

アクションスリラーに近いパイロット(第1話)を楽しんだ後、第2話以降は完全にトーンが変わる。追手に居場所がばれるので、チャーリーはクレカ、スマホ、ATMを使えない。だから生活費をキャッシュで稼ぐ。彼女が逃亡先で半端仕事を得ると、必ず殺人事件が待ち構えている。この不条理さがとても笑える。
「チャーリーのミステリーシアター」の開演だ。

 

チャーリーのユニークを突き抜けたキャラは本作最大の魅力。彼女は殺人事件を吸い寄せる逃亡者であると同時に、真実を嗅ぎ分けるヒーローでもある。
また、犯人を質問攻めにして、あげくに自分の推理をペラペラと話すので、いつも自らを危険にさらしてしまう。頭脳明晰だがどこか抜けている。これがまた笑える。

 

カジノから始まる殺人の舞台は、ヘビメタバンドのツアー、介護施設、ディナーシアター、カーレース場、雪山のモーテルなど多彩だ。各エピソードは犯人が分かっているとはいえツイストが利いていて、珠玉の短編小説のよう。
シーズンフィナーレは、力技によるどんでん返しとハッピー&アンハッピー・エンディングが鮮やかに決まる。
うまいなあ、ライアン・ジョンソン。

 

めでたくシーズン2の制作も決まった。“Poker Face”は斬新でユニーク、逃亡中の素人探偵が10件の殺人事件に挑む、底抜けに楽しいコメディタッチのミステリードラマなのだ!

 

原題:Poker Face
配信:U-NEXT
配信開始日:2024年3月1日
話数:10(1話 47-67分)

 

<今月のおまけ> 「これは必携、アメリカン・ドラマを楽しむためのお役立ち本!」

●『人気海外ドラマの法則21』(ニール・ランドー著、フィルムアート社、2015)
アメリカン・ドラマ制作の舞台裏がすべてわかる究極のネタ本。“Breaking Bad”のヴィンス・ギリガン、“Scandal”のションダ・ライムズなど、人気ドラマを手掛けた22人のインタビューも豪華だ。

 

●『アメリカ映画の文化副読本』(渡辺将人、日本経済新聞出版、2024)
アメリカン・ドラマの背景となる文化・生活・慣習がすべてわかる究極のガイド。豊富な情報が具体的な映画・ドラマのシーンを使って説明されていて、留学・駐在経験者も含めて誰もが楽しみながら学べる。

 

 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 

 

 

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第114回 “TWISTED METAL”

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

 

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第114回“TWISTED METAL”

 

“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

 

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 

 

予告編:『ツイステッド・メタル』 本予告

 

ゲーム感覚の世紀末スーパーアクション・コメディ!

本作はPlayStationの同名シューティング・カーアクション・ゲームが原作、NBC傘下のPeacockが制作、Hulu Japanが配信する、待ちに待った一作だ。

 

“Twisted Metal”はアドレナリン全開の、まるで『マッドマックス』のコメディ・バージョン。ゲーム感覚で一気観させる、ナンセンスでブッ飛んだ世紀末スーパーアクション・コメディなのだ!

 

“Twenty years ago, the world fell to shit!”

—近未来のカリフォルニア
20年前、あるバグによって地球上の全コンピューターが破壊された。送電網はダウンし、インターネットも消滅。ポルノにアクセスできない連中が暴徒化し、壮絶な物資の奪い合いが始まった。
各都市が壁を築いて犯罪者を締め出した結果、世界は壁の内側と外側に2分化した。

 

ジョン・ドウ(※)(アンソニー・マッキー)は、陽気で気のいい腕利きのミルクマン(運び屋)。孤児だったジョンは、親の顔も自分の名前も思い出せない。愛車のエヴリンは、武装改造してオレンジと黒に塗り分けた2002年式スバル・インプレッサ。ジョンはひとたびステアリングを握ると、したたかで超絶テクのスーパードライバーに変身する(ただし彼は縦列駐車が苦手だ)。

 

ある日、ジョンはニュー・サンフランシスコ市の最高責任者レイヴン(ネーヴ・キャンベル)に招かれ、初めて「内側の世界」を垣間見る。レイヴンはジョンを巧みにもてなし、極秘の仕事を持ちかけた。それは、ニュー・シカゴに行ってある荷物を預かり、戻ってくるというものだった。片道3千マイル以上を走破する過酷な旅で、しかも国内最悪の無法地帯を孤立無援で突破しなければならない。

 

報酬は正式な市民権。自宅を持ち、飢えることもなく、トイレットペーパーが自由に使える生活が保障されるのだ。ジョンはその任務を引き受けた。

 

その頃、犯罪者兄妹のラウドとクワイエット(ステファニー・ベアトリス)は、外側世界の警察組織を率いる非情な捜査官ストーン(トーマス・ヘイデン・チャーチ)に追いつめられていた。ラウドは妹を助けるために命を落とした。

 

ラスベガスに向かう国道で、ジョンは生き残ったクワイエットにカージャックされる。そこへ、重武装した不気味なアイスクリーム・トラックが爆走してきた。サイコパスの殺人ピエロ、スウィート・トゥース(サモア・ジョー&ウィル・アーネット)が現れたのだ。

 

ジョンは任務を達成できるのか?
タイムリミットは10日間だ。

 

(※)ジョン・ドウ(“Jhon Doe”):身元不明の死体などに用いる仮名。女性の場合はジェイン・ドウ(“Jane Doe”)。

 

これがアンソニー・マッキーの代表作!

売れっ子のアンソニー・マッキーは、『アベンジャーズ』のファルコン役で名高い(ファルコンは、今では昇格してキャプテン・アメリカだ)。今回は、マシンガントークを駆使する無邪気だが抜け目ないジョン・ドウを、水を得た魚のように演じている。本作こそがマッキーの代表作だ。

 

ステファニー・ベアトリスは、爆笑ポリス・コメディ“Brooklyn Nine-Nine”で、タフでオフビートな革ジャン刑事ローザ・ディアスを全8シーズン演じた。アクションもコメディもハイレベルでこなすベアトリスは、あつらえたようにクワイエット役にハマった。

 

ラスベガスの殺人ピエロ、スウィート・トゥースを演じたのは、プロレスラーのサモア・ジョー。VC(Voice Cast:声優)は大ヒットコメディ・アニメ“BoJack Horseman”でタイトルロールを吹き替えたウィル・アーネット。2人で一役を怪演する。

 

無双の捜査官ストーン役のトーマス・ヘイデン・チャーチは、『スパイダーマン』シリーズの悪役サンドマンで日本でも顔なじみだ。屈折した強面のストーンを豪快に演じる。

 

策士の最高責任者レイヴンを演じたネーヴ・キャンベルは、かつてメガヒットホラー『スクリーム』シリーズの主役シドニーで一世を風靡した。最近はNetflixのヒット作“The Lincoln Lawyer”でもいい味を出していて、ようやくイメチェンに成功した感がある。

 

娯楽度も満足度も120%、究極のエンターテインメント!

ショーランナーは、『ゾンビランド』 『デッドプール』 『ゴーステッド』(Apple TV+)の脚本家コンビ、レット・リースとポール・ワーニック。原作ゲームの世界観が再現され、ユニークの域を通り越したアウトローたちが縦横無尽に画面を駆け巡る。主役のジョンとクワイエットはオリジナルのキャラで、ゲーム版との差別化にも成功している。

 

実写版で30分の本格的なアクションコメディというスタイルは、今までありそうでなかったのではないか。斬新で軽快、疾走感あふれるアクションとクールで気の利いたギャグを楽しみながらサクサク観られる。
“Rotten Tomatoes”(映画・ドラマの評価サイト)の支持率は、評論家が67%、一般視聴者は94%(本原稿執筆時点)。要するに、本作は理屈抜きで面白いということ。

 

楽観的で人間味豊かなジョンと、辛辣で人間性を失ったクワイエット。共につらい過去を持つ2人のコントラストが鮮やかだ。また、劇中語られるジョンと愛車エヴリンとの出会いと別れは美しくも哀しい。
反目しあう2人の間には次第に信頼と絆が生まれるが、エヴリンを加えた三角関係には笑わされる。

 

最終エピソードでは、敵味方4グループが入り乱れて凄絶なカーバトルがさく裂。さらにツイスト&サプライズの連続技がたたみかける。そして最後の最後で明かされる“Twisted Metal”の意味とは?

 

本作は原作ゲームの経験不問、娯楽度も満足度も120%の、究極のエンターテインメント。
“Twisted Metal”はゲーム感覚で一気観させる、ナンセンスでブッ飛んだ世紀末スーパーアクション・コメディなのだ!

 

シーズン2の制作も決まっている。さらにパワーアップして面白くなりそうな予感がして、待ちきれない。

 

原題:Twisted Metal
配信:Hulu Japan
配信開始日:2024年2月22日
話数:10(1話 23-32分)

 

<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(10月~3月)

●“Lessons in Chemistry”(Apple TV+)
‘50年代、男尊女卑社会で苦悩する科学者志望の女性(ブリー・ラーソン)のサクセスストーリー。

●“Blue Eye Samurai”(Netflix)
白人の血を引く若き剣豪の復讐を描く、スーパークールな時代劇アニメーション。

●“A Murder at the End of the World”(『マーダー・イン・ザ・ワールドエンド』、Disney+)
エマ・コリンの魅力爆発、隔絶された極寒のアイスランドで展開する極上の本格推理ドラマ。

●“Masters of the Air”(Apple TV+)
S・スピルバーグ&T・ハンクス制作、“Band of Brothers”、”The Pacific”に続くWWIIドラマ第3弾。

●“Fargo Season 5”(Amazon Prime)
今が旬のジュノー・テンプル主演、怪しいキャラたちが右往左往する予測不能のダーク・クライムコメディ。

●“Avatar: The Last Airbender”(『アバター:伝説の少年アン』、Netflix)
アニメ版には及ばないものの、世界の救世主となる少年を描く心温まる実写ドラマ。

●“The Walking Dead: The Ones Who Live”(U-NEXT)
TWD印スピンオフのベストドラマは、リックとミショーンの感動的なラブストーリー。

●“Shogun”(Disney+)
真田広之主演でダイナミックな傑作時代劇に仕上がった、1980年リミテッドシリーズのリブート版。

 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 

 

Tipping Point Returns Vol.29 「一歩の粘り」がキャリアを分ける ~GRITを持つ人、持たない人~

今という時代の特徴の一つは「場」を追い求めやすいことだ。

自分にとって一番居心地がいい「場」、自分が認められて輝ける「場」。ネットの世界にはそうした「場」がたくさん存在しているように見える。そして手を伸ばせばリアルな感触を得ることもできる。

ここではないどこかへ――。そんな小説のタイトルのような生き方を誰もが手にできそうな時代になった。

しかし、それは諸刃の剣でもある。危険だなと感じる理由は2つ。まず、そこはほんとうに願望通りの「場」なのか。ネット上で横行する詐欺サイトのようなものは論外としても、その「場」が自分の見立て通りであるという保証はない。もう1つの心配は「現状への否定癖(ぐせ)」がついてしまうことだ。(上手くいかないのは自分のせいじゃない。この環境、この役割、この処遇、この人たちが悪い)。願望通りに見える「場」が他にあると感じることで、現状の違和感に憤り、ストレスに苛まれることが常態化してしまう。

こう書くと「場」を変えることを否定するのかと感じるだろうか。(動くな、我慢しろってこと!)などと怒りの声が聞こえてきそうだ。しかしそうではない。ほんとうにミスマッチだったり理不尽だったりする状況なら、一分一秒でも早く「場」を変えるのは当然だ。

事実、私自身もこれまでの人生で大きく2回、「場」を変えた。ただ、このコラムを読んでいただいている皆さんには正確にこう伝えたい。「40年の仕事人生で、『場』を変えてしまいたいという思いが湧き上がった経験は無数にある。しかし実際に変えたのは2回だけ」。壁にぶつかっても動かずに粘り、やり抜いたことで得られたものは多い。そしてそれらが今の私を形作っているという実感がある。

今は現状に不満を抱くのとほぼ同時に外の世界の‟桃源郷“が視界に入ってくる。この「場」で上手くいかないならあっちへ移ればいい――。それは最後の手段としては有効だと思う。しかし、壁にぶつかり前が見えないながらももう一歩だけ粘る、やり抜くという特別な期間の特別な機会を失うことでもある。

アメリカの心理学者、アンジェラ・ダックワース博士は「社会で成功する人の共通点は高いIQや才能ではなく、目標に向かう情熱と壁にぶつかっても諦めない忍耐力。つまり、<やり抜く力=GRIT(グリット)>をもっていることだ」と言う。私はこの考え方に強く共感する。

あらゆる分野の成功者に共通する特長は「才能」以上に「GRIT=やり抜く力」だという博士の研究は世界で注目され、著書はベストセラーとなった。継続は力なりとも言い換えられるGRIT。かつて日本では広く重んじられていた価値観だが、いつの間にか「古い、意味がない、我慢は美徳ではなく心を痛める一因だ」などと忌み嫌われるようになってしまった。

しかし、それは社会のある一面からの見方にすぎない。一部の成功する人とその他のそうでない人を見分けられる特別なスコープで世界を眺めたとしよう。明暗を分けるのは、才能やもともとのバックグランドなどではなく「情熱とやり抜く力」である。米国で「天才賞」と呼ばれるマッカーサー賞を受賞したダックワース博士は膨大な研究データをもとにそう呼びかける。

「TEDカンファレンス」のサイトで<GRIT>を検索すると、博士自身がGRITについて6分ほどで説明している動画が見つかる。著書もお薦めだ。

現状への不満や違和感、ピンチは成長の好機でもあると考えたい。一定期間でもいい。この「場」にとどまって改善や課題に一心不乱に向かうモード、つまりGRITを発揮するモードに切り替えてほしい。そうすることで苦しかった「場」が違ったものに変わった経験が、私にはある。そこまで力を尽くしたうえで「場」を変えるのは良しとしよう。それなら成功の確率はぐっと高まるはずだから。(了)

今回のコラムで思ったことや感想があれば、ぜひ気軽に教えてください。

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☞JVTAのslackアカウントを持っている方はチャンネルへの書き込みやniira宛てのDMでもOKです。

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Tipping Point Returns by 新楽直樹(JVTAグループ代表)
学校代表・新楽直樹のコラム。映像翻訳者はもちろん、自立したプロフェッショナルはどうあるべきかを自身の経験から綴ります。気になる映画やテレビ番組、お薦めの本などについてのコメントも。ふと出会う小さな発見や気づきが、何かにつながって…。
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Tipping Point Returnsのバックナンバーはコチラ
https://www.jvta.net/blog/tipping-point/returns/
2002-2012年「Tipping Point」のバックナンバーの一部はコチラで読めます↓
https://www.jvtacademy.com/blog/tippingpoint/
 

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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第113回 “mr.&mrs.smith”

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

 

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第113回“mr.&mrs.smith”

 

“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

 

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 

 

予告編:『mr.&mrs.スミス』 本予告

 

スミス夫妻、ドラマになる!

本作の原作は、2005年にメガヒットしたスパイアクション映画『Mr.&Mrs.スミス』。この作品でブラッド・ピット&アンジェリーナ・ジョリー=’ブランジェリーナ’が生まれ、彼らの美しくも醜い黒歴史が始まった。

 

ドラマ版“Mr. & Mrs. Smith” はAmazon Primeオリジナル。フレッシュでスタイリッシュ、優しくて深みがある、ロマンスの効いたスパイアクション・コメディなのだ!

 

スミス夫妻、爆誕する!

アメリカのどこかの都市で、謎に包まれた組織“The Company”の採用面接が粛々と行われていた。

 

その女性(マヤ・アースキン)は無人の部屋で、モニターが示す質問に口頭で答えている。CIA志望だったが不採用となり、結局どこにも雇われなかった。彼女はハイリスクだが高収入の仕事を希望した。

 

その男性(ドナルド・グローヴァー)も同様の面接を受けた。海兵隊を不名誉除隊になったばかりで、経済的に困窮している。彼もハイリスクで高収入の仕事を希望した。

 

—ニューヨーク
例の2人は、多くの候補者の中からめでたく“The Company”に採用された。そして人間関係をすべて断ち切り、マンハッタンに転居してきた。偽装結婚し、今日からジョンとジェーンのスミス夫妻を名乗る。表向きの仕事は、同じ会社のソフトウェア・エンジニアだ。彼らには高給と豪邸に加えて、高級車、潤沢な資金、あらゆる武器、完璧な身分証一式が与えられた。

 

ジョンは社交的だが、感情的で負けず嫌い。海兵隊ではドローンの攻撃部隊として13人を殺害した経験がある。ジェーンは頭脳明晰だが攻撃的で非社交的。人殺しの経験はないが、ジョンよりドライで冷静だ。彼らはともに戦闘訓練を積んでいる。
2人は、結婚していてもセックスはしないで、別々の部屋で眠る協定を結んだ。

 

ジョンとジェーンが「ハイハイ」と呼ぶハンドラーとのやり取りは、テキストメッセージのみで行われる。

 

初めての任務は、マンハッタンで年配の女性からパッケージを奪い、指定場所に届けること。簡単な仕事だった。だが2人が郊外の平凡な家庭に奪ったパッケージを届けると、それは数十秒後に爆発した。

 

任務はより困難で、危険を伴うものになっていく。しかも失敗3回でゲームオーバーだ。
その時2人に何が起こるのかは、知らないほうが幸せだ…。

 

スミス夫妻、ケミストリーが働く!

ジョンを演じたドナルド・グローヴァーの代表作は、南部の黒人社会を舞台にした不条理コメディ“Atlanta”。同作ではショーランナー、主演、共同監督、共同脚本をこなして批評家から大絶賛された。’チャイルディッシュ・ガンビーノ’の名で知られるシンガー&ラッパーでもあり、ゴールデングローブ賞、エミー賞、グラミー賞を合わせて9回受賞している才人だ。

 

マヤ・アースキンは、ジェーン同様に日本人の母親とアメリカ人の父親を持つ。最近では、Netflixによる必見の時代劇アニメ“Blue Eye Samurai”で、主人公Mizuの声を担当した。またhuluのセックスコメディ“PEN15”では、ショーランナー、主演、脚本を共同で務めた。

 

グローヴァーとアースキンのキャスティングは、‘ブランジェリーナ’と比べると華がない。だがこのカップルはとてもチャーミングで、ケミストリーがゆっくりと醸成され、加速度的に高まっていく。

 

もう一組のスミス夫妻を怪演するのは、“Narcos”で実在の麻薬王パブロ・エスコバルを演じたワグネル・モウラと、インディー系ベテランアクターのパーカー・ポージー。

 

また、ゲスト出演のジョン・タトゥーロ(変態のターゲット)、ロン・パールマン(弱虫のターゲット)、サラ・ポールソン(オフビートのセラピスト)、ポール・ダノ(怪しい隣人)が、くせ者アクターぶりを発揮してゆがんだ笑いを提供してくれる。

 

スミス夫妻、シーズン2を期待される!

ショーランナーはドナルド・グローヴァーと、“Atlanta”で共同脚本を担当したフランチェスカ・スローン。2人は共同脚本も務め、グローヴァーはさらにファイナルエピソードを監督した。

 

スパイのカップルが偽装結婚する基本プロットは映画版とは異なる。本作はリブートというより、“The Americans”(本ブログ第6回参照 )のアクションコメディ版と言ったほうが近い。

 

ジョンとジェーンが新米スパイから辣腕スパイへ、偽装夫婦から本物の夫婦へ変貌する姿を、脚本が巧みにシンクロさせる。また、スミス夫妻が複数存在するアイディアが秀逸で、ストーリーの幅をぐっと広げている。

 

アクションシーンは多くはないが、メリハリが利いていて終盤に思い切りエスカレートする。カーチェイス、銃撃戦、素手による格闘、いずれも徹底的にやるので迫力満点だ。

 

ストーリーは1話1ミッションが基本。前半はスローペースで、2人に相互理解が生まれるプロセスが、ユーモアたっぷりに細やかに描かれる。危険な任務を通して思いやりが芽生え、生き延びることで愛情が育まれる。キャラクターアークは盤石だ。

 

“Mr. & Mrs. Smith” には説得力があり、しかもラブストーリーとしても十分成立している。オリジナルとの差別化に成功した、フレッシュでスタイリッシュ、優しくて深みがある、ロマンスの効いたスパイアクション・コメディなのだ!

 

エンディングはクリフハンガーで続きが気になる。Amazonにはシーズン2の制作を早く決めていただきたい。

 

原題:Mr. & Mrs. Smith
配信:Amazon Prime Video
配信開始日:2024年2月2日
話数:8(1話 42-63分)

 

<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #85
Title: “Mondo Bongo”
Artist: Joe Strummer & The Mescaleros
Movie: “Mr. & Mrs. Smith” (2005)

ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーは、冒頭出会いの一瞬でスパークした!
※ 「My Favorite Movie Songs」はこれで終わり。今後<今月のおまけ>は不定期で掲載します。

 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 

 

【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #44 流行歌が教えてくれた●池田明子(広報)

子どもの頃から、歌番組が大好きだった。

令和の今、若い世代や海外で日本の昭和歌謡やシティ・ポップが人気だという。はたち(20歳)の手前まで昭和だった私は、多感な時代をその真っ只中で過ごしていたことになる。映像翻訳者を目指す皆さんには洋楽が好きで英語を学んだ人が多いが、私の場合は日本の流行歌が言葉の道標だったような気がする。まだボキャブラリーが少ない子どもにとって、大好きな歌手の歌には知らない言葉が数多くちりばめられていた。

「バーボン」「横須賀」「乃木坂」「津軽海峡」「ハリウッド」「ポルシェ」「心のこり」「サウスポー」「小春日和」「追憶」「摩天楼」「蜃気楼」「ジェラシー」「未練」「ストロベリーフィールズ」「ドン・ペリニヨン」「シャガール」「マティス」「カム・フラージュ」「ネオンテトラ」「ジョン・ル・カレ」「マンハッタン」「ノーサイド」「条件反射」「北ウイング」「スキャンダル」「カサブランカ」「カンパリ・ソーダ」「ジン」「Ray-ban」「カサノバ」「異邦人」「捜査一課」「鑑識課員」「イミテイション」「ウィドウ」「クリムゾン」「Femme Fatale」「ルビー」「アクアマリン」「鳶色」「ジャンヌ・ダーク」「タブー」「グッド・ラック」「オーデコロン」「エチュード」「カタストロフィ」「コンプレックス」「ブーメラン」「バルセロナ」…。それは外国語だったり、地名だったり、車やお酒の名前だったり、人名だったり、色の名前だったり、映画の題名だったりした。学生時代に使っていた辞書に蛍光ペンでハイライトしていたのは、ほとんどが歌のタイトルや歌詞の一部だったと言っても過言ではない。(※表記は当時聴いていた曲の歌詞より引用)

昭和の歌番組には、歌詞のテロップがないことが多かった。今のようにインターネットでパパっと歌詞を検索することもできず、耳で聴いたままを覚えて意味も分からずにいつも口ずさんでいたものだ。演歌もテレビ番組でよく聴いていたので、子どもなのに「北の宿から」や「長崎は今日も雨だった」、「あずさ2号」、「3年目の浮気」などを歌っているような時代だった。「しらふって何?」と親に聞いたり、「昔の名前で出ています」って何だろう?と、疑問に思ったりしていた。

「公衆電話」や「伝言板」「ダイヤル」「文通」「交換日記」などは、令和の若い世代にとってはある意味ファンタジーなのかもしれない。駅の構内や喫茶店で「〇〇からお越しの〇〇さま、〇〇さまからお電話です」などは、古い映画やドラマの中でしか見たことがないシーンなのだろう。インターネットも携帯電話も、ビデオデッキさえもなかった時代、待ち合わせてもすれ違って会えないことは珍しくなかった。そんなもどかしさが情緒に繋がって名曲が生まれていたのかもしれない。

私は令和の今でもメインに聴くのは、昭和から好きなアーティストの作品だ。ほとんどがファン歴40年以上。子どもの頃からずっと大好きな人のライブに50を超えた今でも行けるなんて、本当に幸せなことだとつくづく思う。CDラジカセも現役。いまだに配信で曲を購入したことはないし、音楽のサブスクも利用していない。歌詞カードやライナーノーツをじっくり読み、作詞、作曲、編曲、演奏者などチェックするのがまた醍醐味なのだ。タイムリーではない若い世代さえも夢中になる“エモい”音楽を物心がついたころから浴びて育ったのだから…。短編映画を観るような余韻に浸りながら、歌詞の世界を堪能する。大人になった今だからこそ、その深さにまたぐっとくる。そんな至福の時間をこれからも大切にしたい。

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Written by 池田明子
いけだ・あきこ●日本映像翻訳アカデミー・コーポレートコミュニケーション部門所属。English Clock、英日映像翻訳科を受講後、JVTAスタッフになる。“JVTA昭和歌謡部”のメンバーとして学校内で昭和の歌の魅力を密かに発信中。
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「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!
 
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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第112回 “TOKYO VICE”

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

 

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第112回“TOKYO VICE”

 

“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

 

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 

 

予告編:『TOKYO VICE』 本予告

 

マイケル・マンによる硬派でスタイリッシュなクライムドラマ!

嬉しいことに、HBO Max(現Max)による2022年度作品で、WOWOWが国内独占放送していた本作が、現在Netflix、U-NEXT、hulu Japanでも視聴可能だ。

 

製作総指揮に名を連ねるのは、“Miami Vice”(1984-1989)や『ヒート』(1995)を生んだマイケル・マン。“Tokyo Vice”は、東京のアンダーワールドを舞台に、若きアメリカ人記者とベテラン刑事による執念の捜査を描く、硬派でスタイリッシュなクライムドラマなのだ!

 

闇社会に飲み込まれていく記者と刑事!

—1999年、東京
ジェイク・アデルスティーン(アンセル・エルゴート)は、野心家の若きジャーナリスト。上智大で日本文学を学び、卒業後に最難関の明調新聞社に合格した。ジェイクは同社初めての外国人社員で、新人への慣例により警視庁記者クラブ担当となった。

 

片桐(渡辺謙)は、家庭では良き夫で娘二人の良き父親。職場の警視庁組織犯罪対策部では、強面の敏腕刑事だ。愛車は赤の2代目フェアレディZ。

 

サマンサ・ポーター(レイチェル・ケラー)は、ユタ州出身の元モルモン教の宣教師。現在は歌舞伎町の高級クラブ「オニキス」の売れっ子ホステスだ。

 

佐藤(笠松将)は暴力団千原会の組員。若手のホープだが、非情になり切れない甘さもある。佐藤はサマンサに惹かれている。

 

ジェイク、サマンサ、佐藤は、オニキスで初めて出会う。

 

ジェイクは早くも明調新聞の保守的な社風に直面していた。外国人嫌いの上司からは「ガイジン」と呼ばれ、差別とパワハラに悩まされる毎日だ。
幸いジェイクのスーパーバイザー丸山詠美(菊地凛子)は厳しいがフェアで、彼を理解してくれる。だがこのまま何ら結果を出せなければ、クビになってしまう。ジェイクは焦っていた。

 

北新宿でジョギング中の中年男性が刺殺された。ほどなくして、歌舞伎町で初老の男が焼身自殺を遂げた。ジェイクは、この二人が同じ金融ローン会社から多額の借金を背負っていた事実をつかみ、独自に調査を始める。
一方片桐は、ジョギング男性刺殺事件の不自然な展開に疑問を持っていた。

 

2つの事件が結びつき、ジェイクと片桐の人生が交錯した。
そして東京の闇社会は、二人を翻弄しながら飲み込んでいく—

 

主役級のインパクトがある笠松将!

ジェイク役のアンセル・エルゴートは、ロマコメの佳作『きっと、星のせいじゃない』(2014)、ユニークなカーアクション&ラブストーリー『ベイビー・ドライバー』(2017)でブレーク。歌手でもあり、『ウェスト・サイド・ストーリー』(2021)では主役のトニーを演じた。
エルゴートは本役のために日本語の特訓をしていたが、新型コロナによる7か月間の撮影中断のおかげで格段に上達したという。

 

片桐役の渡辺謙はさすがの貫禄と迫力で、射貫くような眼光はどう見ても鬼刑事にしか見えない。
丸山役の菊地凛子は、高い演技力・英語力のおかげで、今ではハリウッドでも得難い日本人アクターとなった。

 

レイチェル・ケラーは、FX制作のスーパーヒーロー・ドラマ“Legion”が代表作。サマンサが部屋でWinkの『いつまでも好きでいたくて』を聞くシーンは、妙にフィットしていた。
ジェイクとサマンサのキャラにリアリティがあるのは、エルゴートとケラーのしっかりした日本語による演技に負うところが大きい。

 

筆者は邦画・国内ドラマを観ないので、わき役の日本人俳優をほとんど知らない。
その中で、群を抜く存在感で主役級のインパクトがあったのが、のし上がるヤクザ佐藤をクールに演じた笠松将だ。

 

さらに、型破りな刑事宮本役の伊藤英明、昔気質の千原会組長石井を演じた菅田俊、残虐非情の組長戸澤を演じた谷田歩、打算的な戸澤の愛人美咲を演じた伊藤歩らも忘れがたい。

 

日本が舞台の米国映画・ドラマ史上の最高傑作!

ショーランナー(兼共同脚本)のJ・T・ロジャースは、トニー賞受賞作“Oslo”で知られる劇作家。原作はジェイク・アデルスティーンによる同名の回顧録だ。ロジャースとアデルスティーンは長年の友人だという。

 

製作総指揮に加えてパイロット(第1話)の監督を務めたマイケル・マンは、東京の夜景を駆使して作品のトーンを決定づけた。
(蛇足だが、マンは昨年『ヒート』(1995)の続編となる小説“Heat 2”を共著で書きあげ、小説家としてデビューした。極上の犯罪小説で翻訳も出ているので、『ヒート』ファンにはお勧めだ。)

 

オール日本ロケを敢行した映像は美しくスタイリッシュ。日本の仁侠映画とアメリカのハードボイルド小説をブレンドしたような作風は珍しくはないが、違和感なくまとまった。

 

本作で扱われるのは派手な事件ではない。だが、ジェイクの目を通して描かれる東京のアンダーワールドは、新鮮でエキサイティングだ。

ストーリーは、高いテンションと緊迫感が途切れることなく進行する。アクションシーンは少ないが、どっしりと構えた拳と刃物による戦闘は見ごたえ十分。

 

各エピソードは、真相を追求するジェイクと妥協を許さない片桐との友情を縦糸に、ヤクザ間の熾烈な抗争を横糸に展開する。また、各登場人物の矜持、憎悪、悔恨、友情、恋愛などの心理描写が複雑に絡み合うが、緻密な脚本が絶妙にコントロールしている。

 

天性のジャーナリストゆえに危険を吸い寄せるジェイク、苦悩しながらもヤクザという生き方しかできない佐藤、祖国を捨てて日本で人生をやり直すサマンサ、—この3人をめぐるサイドストーリーも大きな見どころだ。

 

“Tokyo Vice”は、『ザ・ヤクザ』(1974)や『ブラック・レイン』(1989)を凌駕する、日本が舞台の米国映画・ドラマ史上の最高傑作。新聞記者、刑事、極道の生きざまを鮮烈に描く、硬派でスタイリッシュなクライムドラマなのだ!

 

米国では、Maxが2月8日からシーズン2を配信中で評判はいい。日本では4月6日からWOWOWで放送予定なので、今のうちに追いついておこう。

 

原題:Tokyo Vice
配信:Netflix、U-NEXT、WOWOWオンデマンド、hulu Japan
放送開始日:2022年4月24日(WOWOW)
話数:8(1話 54-64分)

 

<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #84
Title: “I’ll Be Holding on”
Artist: Gregg Allman
Movie: “Black Rain” (1989)

松田優作の怪演は、高倉健+マイケル・ダグラス+アンディ・ガルシアを圧倒していた!

 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 

 

【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #43 こだわりのカフェインレス・コーヒー●桜井徹二(学校教育部門)

以前、このコラムで受講生さんからよく聞かれる質問のひとつ、「自分の翻訳原稿を客観的に見直す方法」について書いた。その他によく聞かれる質問としては、「どんな人が映像翻訳者に向いているか?」というのがある。ほとんどの人にとって映像翻訳に取り組むのは初めてなので、「果たして自分は映像翻訳に向いているのだろうか?」と疑問に思ってしまうのはとてもよく理解できる。

この質問には僕はいつも「こだわりがないタイプの人、バランスが取れた人」と答えてきた。映像翻訳では扱う映像のジャンルやテーマもさまざまだし、1つのセリフを翻訳する時にも正しいインプット、アウトプットはもとより、背景情報やトーン、その他多くのルールや決まり事まで意識し、あらゆる点を差配しつつ(もちろん強弱はあるが)訳文にまとめなくてはならない。そういう意味では、1つのことにこだわって視野を狭くせず、いろんなことをバランスよく考えられるクールな視点が必要である――というのが一応の理由だ。

じゃあそういう自分はどうなんだ? と、もし問われたら「まあまあそうかもな」と思う。クールかどうかは別として、あまりこだわりはないほうだ。「大事な日の朝には必ずこれをやる」とか、「玄関の靴はきっちり並べておかないと気が済まない」みたいなこだわりは特に思いつかない。食事なんかでも多少の好き嫌いや好みはあるが、強いこだわりみたいなものはあまりない。

たとえば「こだわりのなさ」で思い出すのは、少し前に4~5人のスタッフと雑談していた時のことだ。何かの流れでコーヒーについての話になった。そこにいたスタッフはみんなコーヒー好きで、銘柄や淹れ方のこだわりについての話で盛り上がっていた。僕は無垢なうさぎのようにふんふんと話を聞いていたのだけど、そこでふと「桜井さんはコーヒーは好きですか?」と聞かれた。僕が「一日に何杯も飲む」と答えると「へえ~! じゃあこだわりはありますか?」と聞かれた。そこで僕は「たくさん飲むからカフェインレスのコーヒーにしてるくらいかな」と答えた。するとどうやら完全にノリが違ったようで、(カフェインレスか…)というあからさまに微妙な空気になった。

今もあの空気を思い出すと無垢なうさぎだった頃に戻りたい気分になるが、あの反応は当然といえば当然だとは思う。総じて言えば味わい深いとはいえないカフェインレス・コーヒーを常飲しているなんて、コーヒー談義を期待した側からすれば思わず呆れてしまうほどのこだわりのなさだと感じるのも無理はない。

ともかくそんなこともあって、自分は特にこだわりのない人間という認識でいた。だけど最近、その認識を覆されることがあった。これもコーヒーがらみの話だが、僕がある人に対して「どうしてもコーヒーを飲みたくなると、ミーティングの5分前でも大急ぎでコーヒーを淹れている」という話をしていた。するとその人から、「すごくこだわりがあるんですね」と言われたのだ。

確かに飲んでいるのはカフェインレス・コーヒーではあるけれど、別の視点で見れば「そうまでしてコーヒーを飲むことにこだわりがある人」と言えなくもない。または別の視点で見れば「カフェインレス・コーヒーを飲むことにこだわりがある人」と言うこともできるかもしれない。どれが正しいわけでもなく、どれも1つの見方に過ぎない。要するに、「自分がどんな人間であるか」という認識は、自分が思っているよりも不確かなものなのだ。

だから、「どんな人が映像翻訳者に向いているか?」という質問に対しての僕なり(他の誰かなり)の答えが、もし自分で認識しているつもりの自分とは違ったとしてもそれはただの一面的な捉え方に過ぎない。別の人から見たら、あなたという人間に対してきっとまた別の捉え方がある。もしかしたら真逆の捉え方かもしれない。だから「自分が向いているかどうかなんてことはあまり気にする必要はない」というのが最近の僕の考えだ。

ある視点から見れば「不向き」となるかもしれないが、少し視点が変われば全くそうではないかもしれない。そもそも「こんな人が映像翻訳者に向いている」なんていう意見自体も、やっぱりどうしたって一面的な見方でしかない。だから映像翻訳者を志している人は、向き不向きなんていうことはあまり考えずにいてくれたらと思うのだ。

ちなみに、僕が普段飲んでいるカフェインレス・コーヒーは実は3種類くらいを飲み比べて一番おいしいと思ったものを選んでいる。だけど(と言っていいかわからないけれど)、銘柄はセブン-イレブンだ。こだわりがあるのかないのか、やっぱり自分でもよくわからない。

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Written by 桜井徹二
日本映像翻訳アカデミー・学校教育部門
さくらい・てつじ●JVTAの映像翻訳ディレクターとして、MTVやBBCのドラマ、ドキュメンタリー、リアリティ番組やMOOC(大規模オンライン公開講座)用字幕などを手がける。本科のほか、明星大学、青山学院大学などの教育機関でも講師を務める。『字幕翻訳とは何か 1枚の字幕に込められた技能と理論』(小社刊)の執筆にも参加。
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「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!
 
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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第111回“Rabbit/Hole”

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第111回“Rabbit/Hole”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 

予告編:『ラビット・ホール/指名手配のスパイ』 本予告

キーファー・サザーランド、新年を駆ける!

われわれが夢中になった“24”は、全9シーズン、204エピソードを積み上げた。あれからほぼ10年、キーファー・サザーランドがまたまたやってくれた。

 

“Rabbit/Hole”はParamount+が制作、hulu Japanが独占配信する筆者待望の一作。国家を揺るがす非情な産業スパイ戦の闇、陰謀、迷宮に捕らわれた男の絶望的な戦いを描く、怒涛のスーパー・エンターテインメントなのだ!

 

He calls it “Going down the hole”

—ニューヨーク
ジョン・ウィアー(キーファー・サザーランド)は、ウォール街で成功している自称コンサルタント。と言っても、実態は精鋭の部下4人を使い、顧客のために産業スパイ、株価操作、金融詐欺などをはたらくホワイトカラー犯罪者だ。
FBIは以前からジョンに目をつけているが、尻尾をつかむことができない。

 

ジョンは今日も高級ホテルで、ヘッジファンドの経営者をまんまと引っ掛けた。そのあと、バーで知り合った弁護士ヘイリー(メタ・ゴールディング)と意気投合する。2人は一晩限りの関係を楽しんだ。だが翌朝になるとジョンの態度は豹変し、ヘイリーをFBIの回し者だとなじり始めた。

 

実は、ジョンは幼少期に父親から受けた重いトラウマが原因で、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症していた。断続的にパラノイアが起こり、自分も含めてだれも信用できなくなる。結婚生活もとっくに破綻していた。

 

ジョンは、幼なじみでかつて仲間だった大手IT企業のCEOマイルズ・ヴァランスから仕事の依頼を受ける。財務省の調査官エドワード・ホム(ロブ・ヤン)に、ちょっとしたトリックを仕掛ける簡単なものだった。

 

数日後、ホムが惨殺された。
ジョンは殺人容疑者として指名手配され、全国ニュースで彼の顔が大々的に流れ始めた。
さらに、ジョンのオフィスが爆破されてチームの3人が死亡。
ホンの件で問い詰められたマイルズは、ジョンの目の前で飛び降り自殺をした。

 

いったい何が起こっているのか?
ジョンの絶望的な逃亡生活が始まった。
何者かが、彼をスパイ世界の迷宮へ突き落としたのだ!

 

ジャック・バウアーからジョン・ウィアーへ!

キーファー・サザーランドが最後にジャック・バウアーを演じたのは2014年(“24: Live Another Day”、本ブログ第1回参照)。前後して主演した“Touch”と“Designated Survivor”は、“24”のファンには物足りなかった。今回満を持して臨んだ本作では、敢然と巨悪に立ち向かう一方で、精神に不安を抱えるジョン・ウィアーを見事に演じ分けた。

 

ヘイリー役のメタ・ゴールディングはインド生まれで、今回が初の準主役。複雑なキャラのヘイリーを魅力たっぷりに演じて、サザーランドとの間にはしっとりしたケミストリーが働いた。二人の微妙な関係は本作の見どころの一つだ。

 

エドワード・ホム役のロブ・ヤンは、“Succession”では嫌味な起業家、“The Resident” (本ブログ第58回参照)では傲慢な病院経営者を演じていい味を出していた。今回の情けない財務官僚役も特筆もので、彼のとぼけた味はドラマの絶妙なスパイスとなった。

 

ジョンに協力するベン・ウィルソン役のチャールズ・ダンスは、“Game of Thrones”のタイウィン・ラニスターで日本でも顔なじみだ。強面の悪役専門アクターで、敵か味方が最後まで分からないベンのキャラに見事にはまった。

 

以上のコア4人の演技と存在感は鉄板で死角がない。
また、ゲスト出演のピーター・ウェラーとランス・ヘンリクセンの使い方が贅沢で泣かせる。

 

迫真のスパイ/心理スリラー + スリックなコンゲーム・ドラマ!

ショーランナー(兼共同監督兼共同脚本)は、ヒューマンドラマの名作“This Is Us”(本ブログ第36回参照)を手掛けたグレン・フィカーラ&ジョン・レクア。

 

製作総指揮も兼ねるキーファー・サザーランドは、歯切れのいいセリフ回し、シャープな身のこなしでまったく衰えを見せない。本作は”24”との差別化に成功しているが、部分的にジャック・バウアーを髣髴させる今回のジョン・ウィアーのキャラは本作最高の見どころだ。
また、いったんは仲間を失ったジョンが、パラノイアに悩みながらも他人を信頼し始めた結果、新たなチームが形成されていくプロセスは痛快だ。

 

各エピソードには手掛かりが残されているものの、真相がすっきりと解明されているとは言い難い。突っ込みどころも少なくないが、突っ込まないこと。データ分析、行動心理学、情報操作を巧みに取り入れたプロットは、スピーディに二転三転する。「狩る者と狩られる者」、あるいは「善人と悪人」が、瞬時に入れ替わる構成も鮮やかだ。

 

本作は迫真のスパイ/心理スリラーと同時にスリックなコンゲーム・ドラマでもある。さらに、ツイストの連続技、ドライなユーモア、荒唐無稽寸止めの展開はサービス満点で子気味いい。
“24”同様にノリがよくて圧倒的に“bingeable”、オートパイロットで“roller-coaster ride”を楽しめばいい。

 

“Rabbit/Hole”は、国家を揺るがす非情な産業スパイ戦の闇、陰謀、迷宮に捕らわれた男の絶望的な戦いを描く、怒涛のスーパー・エンターテインメントなのだ!

 

【悲報】
キーファー・サザーランドは復活した。だがParamount+のコストダウンのために、シーズン2はキャンセルされた。せめてこのシーズン1で、彼の雄姿を目に焼き付けておこうではないか。

 

原題:Rabbit/Hole
配信:hulu Japan
配信開始日:2023年11月14日
話数:8(1話 41-55分)

 

<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #83
Title: “Holiday Road”
Artist: Rindsay Buckingham
Movie: “National Lampoon’s Vacation” (1983)

邦題は『ホリデーロード4000キロ』、チェビー・チェイス絶頂期の一作。

 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 

 

Tipping Point Returns Vol.28 「先生」になろう ~学び取る力を伸ばす、意外な方法

2024年の目標にまだすき間があるなら「先生を目指し、先生になる」ことを加えてほしい。もちろん職業としての先生ではない。先生と呼ばれるような肩書を目指すことでもない。人間という生き物は、自分の中で育んでいる知識や気づきで心の器がいっぱいになると、誰かに伝えたいという思いが溢れ出す。そこに共有が生まれると自分の人生が少し豊かになった、成長できたという充実感に包まれる。それこそが「先生」になった瞬間だ。このコラムを読んでいる皆さんなら、強く意識すれば必ず叶う目標なのだ。

部下に指導したりプレゼンしたり、学校の後輩や子供にお説教したり勉強を教えたり、昨日観た映画の魅力を友人に説いたり……。日々人と接する場には、常にそのチャンスがある。しかし現実には、多くの人が「先生」にはなれていない。実際に教鞭をとる教師や講師であっても、やっていることは単なるタスクで「先生」とは呼びたくないケースが多々ある。

私には譲れない考え方がある。「良き先生は良き生徒である」ということだ。

「学びたいスイッチ」がいつもオンの状態の人がいる。誰もが認める立派な肩書と地位を手にしていても「学びたいスイッチ」が入りっぱなしで何かを学ぼうとしているのだ。そんな人に出会うと私はうれしくて、心の中で(先生!よろしくお願いします!)と叫んでいる。私自身も(この人から少しでも何かを学び取りたい)という欲求がこみ上げてくるのだ。

お互いが「良き先生」であり「良き生徒」であろうと努力する。私が理想とする人間関係だ。

「先生=生徒」なんて、矛盾しているように聞こえるかもしれない。自分の知識や経験は特別な高みにあるから、それを君らに教えてやるよという姿勢の人が先生で、そうでない人が生徒。それが常識のように感じているなら、今、改めよう。先生と呼ばれていばりくさっている人、目の前の生徒から自分が学ぶことなんてないとうそぶく人には何の魅力もない。この人から何か教わるのも、生成AIで知るのも同じだなと私は思う。つまり、そんな人はほんとうの「先生」ではない。

「自分はまだ生徒で道半ば」という自己評価であっても、その立ち位置だからこそ気づいたり学び取れたりすることがある。それらを整理して準備し、人に伝えようと踏み出せば、その人こそ立派な「先生」なのだ。

JVTAで講師を採用する際に、私が何よりも重視しているのはその点だ。優秀で評価の高いプロであっても「生徒」であろうと努力しているか。つまり「学びたいスイッチ」が常にオンの人であることが第一条件だ。「私にはこんな実績がある。本も書いている。教えたいことも決まっている」」という人は、丁寧にお断りする。それならあなたの本を読めば十分ですというのが私の本音だ。

一方、「講師なんて考えたこともなかった。自分がまだ知りたいことばかりなのに、人に教えることなんてできるのかな」と戸惑う人に対しては、(そんなあなただからこそ「先生」にふさわしいのですよ。受講生に多くのことを伝えながら、あなた自身も授業から多くのことを学び続けて成長してください。一緒に成長しましょう)と心でつぶやき、「ぜひやってみましょうよ!」と背中を押す。

先日、大学生に限定して映像翻訳を指導するコースがあり、3人のJVTAスタッフが講師デビューした。バリアフリー字幕を指導するコースでも、初めての講師にチャレンジしているスタッフがいる。最近まで本科で学んでいたスタッフは「まさか自分が講師になるなんて思わなかった」。

おそらく、慣れた講師の何倍、否、何十倍の時間をかけて準備をし、シミュレーションを重ねたことだろう。立派な講師だった。それでも自分自身は満足することなく、もっと調べればよかった、次はもっと練り上げたいという感想をもらしていた。「先生」を経験したことで、映像翻訳者、ディレクター、バリアフリー字幕ライターとしての自らの成長を実感できたはずだ。

実際に教壇に立つ機会がなくても「先生」になれる機会はたくさんある。会社や学校での発表、スピーチ、誰かに届ける1通のメールでも、考え方しだいで「先生」になれる。私自身そのように努めているし、逆に受講生や修了生から届いたメールから何かを学び、心の中で(ありがとう、先生!)とつぶやくこともある。

JVTAで出会った皆さんが「良き生徒」であることは間違いない。それだけでも得難い資質なのだが、だからこそさらなる成長を期待したい。来年はぜひ意識的に「良き先生」となる時間をつくってほしい。(了)

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Tipping Point Returns by 新楽直樹(JVTAグループ代表)
学校代表・新楽直樹のコラム。映像翻訳者はもちろん、自立したプロフェッショナルはどうあるべきかを自身の経験から綴ります。気になる映画やテレビ番組、お薦めの本などについてのコメントも。ふと出会う小さな発見や気づきが、何かにつながって…。
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