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明けの明星が輝く空に 第142回:ウルトラ名作探訪10「侵略者を撃て」

明けの明星が輝く空に  第142回:ウルトラ名作探訪10「侵略者を撃て」
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「ウルトラ名作探訪」は今回から『ウルトラマン』(1966年)編に入るが、その第1弾としてこれ以上ふさわしい作品はないだろう。ウルトラシリーズが生んだ最大の敵キャラ、バルタン星人が初登場を果たした「侵略者を撃て」である。
 

「侵略者を撃て」で出色なのは、バルタン星人に占拠された夜のビルでのシーンだ。子どもの頃の僕にとっては、ホラー映画のように怖かったのを覚えている。目の前に現れたかと思えば姿を消し、背後に現れては、怪光線を浴びせて人間を硬直させてしまう。そして妙に響き渡る、あのくぐもった笑い声。
 

そのバルタン星人に、科学特捜隊のイデ隊員がコンタクトを試みる。科学特捜隊とは、主人公ハヤタ(ウルトラマン)が所属する、怪事件専門の国際組織だ。日本支部の一員であるイデの役柄はコメディリリーフといったところで、おっかなびっくりビルの中を進む姿はユーモラスだったが、彼の感じる恐怖がストレートに伝わってきた。
 

どこかにひそむ相手に向かい、怪しげな“宇宙語”を駆使して呼びかけるイデ。ついに目の前にバルタン星人が現れるが、最初に現れた個体は囮だ。それを知っていた彼が後ろを振り向く。すると、人間の浅はかな知識をあざ笑うかのように、何体にも分裂を続けるバルタン星人の姿があった!CGのない時代に作られたこの特撮映像は驚異的と言ってよい。まず1体のバルタン星人の映像を二重露光の要領で何重にも重ね、慌てるイデの映像と合成する。合成の境目であるイデの輪郭は、フィルムの1枚1枚手作業で切り抜く必要があり、この作業が雑だと境目が目立ってしまうのだが、完成映像はそんなところが微塵もない見事な仕上がりだ。まさに職人技だ。
 

バルタン星人はなぜ地球にやって来たのか。意外なことに、侵略目的ではなかった。故郷の星が爆発したため宇宙の放浪者となり、たまたま地球に立ち寄ったのだ。そして人類に対し地球移住の意思を示すが、その人口は20億以上。とても受け入れられる数ではない。そうとわかったバルタン星人は、地球をもらうと一方的に宣言する。地球のことを考えない傲慢さはさておき、注目すべきは、彼らが故郷を失った爆発の原因が、発狂した科学者による核実験だったことだ。昭和の特撮映画、特に本多猪四郎監督が手がけた多くの作品に共通するテーマが、ここにも見られる。『ゴジラ』(1954年)で知られる本多監督は、「科学のありよう」が自分の作品のテーマだと語っていたそうだ(https://www.jvta.net/co/akenomyojo108/)。幸福に役立つ科学技術も、使い方を誤れば大変な不幸をもたらす。バルタン星人は、いわば人類の反面教師なのである。
 

「侵略者を撃て」の脚本を書いたのは千束北男。実は、この作品を撮った飯島敏宏監督のペンネームだ。飯島監督は、『ウルトラQ』の第19話「2020年の挑戦」(https://www.jvta.net/co/akenomyojo125/)でも千束北男名義で脚本を書き、やはり人類の反面教師とも言えるケムール人を登場させている。
 

また“天性の娯楽派”とも評される飯島監督は、「侵略者を撃て」の冒頭からイデを巧みに使った。基地内で仕事中の彼にカメラが寄ると、なぜか右目のまわりに青アザができている。ふいにカメラ目線となったイデが、「そんなに目立ちます?ウヒヒ」と笑い、続けてその理由を「君にだけ話してあげよう。友だちには内緒だぜ」と視聴者に語りかけるのだ。そして話は38時間前に遡り、バルタン星人襲来事件の顛末が描かれる。
 

このプロローグを受ける形で用意されたエピローグも、不条理で興味深い。平穏が戻ったあと、イビキをかいて寝ていたイデが二段ベッドの上段から転落し、顔に青アザをこしらえてしまう。なんと青アザは、バルタン星人とはまったく関係なかったのだ!なんとも人を食ったような脚本だが、注目すべきはそこではない。転落したイデは、ここでもカメラ目線となり、青アザを指さして「ね?」と言う。番組冒頭でアザの理由を「話してあげよう」と言ったのは、時系列で見ればこれより後のことなので、話の順序が逆だ。まるでプロローグに登場したイデが過去に戻り、エピローグの世界に現れたかのようだ。そう考えると、クリストファー・ノーラン監督の『TENETテネット』(2020年)が思い出されるが、飯島監督は時代の先を行っていたということなのだろうか。それはともかく、こういった不条理さも飯島監督の好むところだったのである。
 

当時、テレビ業界は映画界から下に見られており、映画人に対する反骨心があったという。TBSのディレクターだった飯島監督も、映画人がやらないことをやろうと考えていたそうだ。それが原動力となり、名作や力作が生み出されていく。ウルトラシリーズの成功の裏には、そんな事情もあったのである。
 

最後に触れておきたい。残念なことに、イデ隊員を演じた二瓶正也さんが今年の8月、飯島監督が10月に亡くなられた。飯島監督考案のエンディングで「ね?」と言ったイデ隊員の、最高に明るくて楽しそうな笑顔。それが訃報を聞いた後では、深く胸に染み入る。謹んで、お2人のご冥福をお祈りいたします。
 

「侵略者を撃て」(『ウルトラマン』第2話)
監督:飯島敏宏、脚本:千束北男、特殊技術:的場徹
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】MLBの記事に、”ode”という野球記事ではおよそ目にすることのない単語があった。調べてみると「頌歌」。恥ずかしながら読み方も意味も知らなかったが、”Ode to Joy”でベートーベンの第九の『歓喜の歌』となる。英語も日本語も、勉強には終わりがない。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
 
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