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明けの明星が輝く空に 第161回: シン・仮面ライダー③:50年後の継承と刷新

明けの明星が輝く空に 第161回: シン・仮面ライダー③:50年後の継承と刷新
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※今回の記事は、映画の設定に関するネタバレを含みます。ストーリーについては最小限に抑えてありますが、映画鑑賞を検討中の方はご注意ください。
 

『シン・仮面ライダー』には、昭和の人気テレビ番組『仮面ライダー』(1971年~1973年)を元ネタにした場面や台詞が数多くちりばめられている。いわゆるオマージュと呼ばれるものだが、中には相当なこだわりを持って再現されたものも。もちろん、ただ再現するだけではない。そこには、本作ならではの独自性も盛り込まれている。
 

例えば映画冒頭、敵に捕らえられたヒロインを救うところから始まるアクションシーンだ。まず、敵(クモオーグ)が気配に気づいて振り返るカットの後、崖を下から見上げた画に変わる。そこから素早くズームインすると、崖上にライダーの姿。普通なら次の瞬間崖の上からジャンプして・・・となりそうだが、ライダーは無言のまま見下ろすだけだ。一瞬「?」と思ったその瞬間カットが切り替わり、いきなりライダーがアップになる。
 

ここまでは、オリジナルの第1話「怪奇蜘蛛男」をかなり忠実に再現したものだ。崖の見た目も同じになるように、わざわざCGで低木が足されたらしい。しかし、テレビ版ではライダーがアップになったカットで主題歌と同じメロディーのBGMが流れ、華々しくヒーロー登場を演出するのに対し、『シン・仮面ライダー』で使用される曲は重苦しい。それが、カット変わりの前から低く鳴り始め、アップになった瞬間に強く響くのだ。
 

この変更の理由は、続くアクションシーンにつなげるためのものだろう。オリジナルでも数人の戦闘員たちを相手に立ち回りが演じられるのだが、雰囲気は全く違う。あえてショッキングな表現を使えば、ライダーによる“殺戮ショー”だ。パンチやキックで敵を“倒す”のではなく、“命を奪う”。それは、オリジナルの戦闘アクションがただの振り付けに見えてしまうくらい、迫力があって生々しい。(“死”を表現するためオリジナルには無かった流血などの演出があるが、その描写はワンカットを短くすることで最小限にとどめられており、スプラッター映画のように目を背けたくなるようなものではない。)
 

このアクションシーンは迫力があるというだけでなく、映像自体がよりダイナミックになった。まず、たたみかけるようなテンポで短いカットをつないだ編集。そして、極端なクロースアップに時折挟まれるロングショットや、ローアングルからのあおり、真上からのハイアングルショットなど、変化に富んだ画角。カメラが戦闘の真っ只中でアクションを捉えている画が多いため、暴力的なほどすさまじいライダーの戦闘力を、観客にも“体感”させる効果を生んでいる。
 

ただ、勘違いしてはならないのは、こういった暴力性の表現の目的が単なるインパクト狙いなどではないということだ。主人公、本郷猛(仮面ライダー)が感じる辛さに、リアリティを出すのがその狙いだろう。前回の記事でも触れたが、彼は敵を倒した後、自分の行きすぎた力に困惑する。もし従来のような映像表現だったとしたら、本郷の戸惑いは伝わらないだろう。
 

オリジナルの忠実な再現と、大胆な刷新。それを映画冒頭で見せている点に、庵野秀明監督の気概を感じる。この作品で何を見せようとしているのか、高らかに宣言しているのだ。
 

オリジナルの再現に関して、もうひとつだけ触れておこう。主演俳優がライダーのアクションも担当したことだ。50年前に藤岡弘さん(現在の表記は「藤岡弘、」)がしたように、今作では池松壮亮さんがマスクをかぶり立ち回りを演じている。ただこれは当初の予定にはなかったことで、ライダーのアクションはスタントマンで撮影が進められていた。しかし“殺気”を重視していた監督の目に、スタントマンは段取りしか考えていないと映ったらしい。確かに、技をきれいに決めるなど見栄えの良すぎるアクションは、ただの振り付けに見えてしまう可能性がある。スタントマンではない池松さんの場合、動きが決まりすぎていないからこそ、戦いにリアリティが生まれ、殺気も表現できるのだろう。映画冒頭におけるアクションシーンが持つ迫力の背景には、そういった要素もあったのだ。
 

ただし、撮影は相当ハードだったようで、池松さんはいくら食べていても体重が落ちてしまったそうだ。それに加え、アクションの練習中に右足首を負傷。合同記者会見に松葉杖をついて現れる一幕もあった。
 

実を言うと、藤岡弘さんも『仮面ライダー』撮影当時に負傷している。こちらは撮影中のバイク事故による大腿骨粉砕骨折というから、かなりの重傷だ。撮影続行は不可能となり、急遽新たな主人公、一文字隼人(2号ライダー)が“つなぎ役”として登場することになった。そして一文字というキャラクターは、『シン・仮面ライダー』にも登場。彼がいなければ、本作の希望に満ちあふれた爽やかなラストシーンもなかった。この場面が心を打つのは、原作者である石ノ森章太郎氏が描いたコミックス版の再現でもあるからだ。庵野監督はそのロケ地に風光明媚な土地(自身の故郷山口県の景勝地)を選び、心地よい潮風のような音楽をつけ、どこか哀愁を感じさせるコミックス版とは違うイメージで色付けした。
 

50年という時を超えた継承と刷新。そこに思いを巡らせた時の心に染み入るような感動に、いつまでも浸っていたくなる。『シン・仮面ライダー』とは、そんな一面を持った映画だった。
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】自転車で24kmの坂をのぼり続ける”坂バカ”の祭典「Mt.富士ヒルクライム」に、4年ぶりに参加しました。自己ベストからはほど遠かったけれど、短い準備期間の割には急ピッチで体力を戻せたことに満足。(なりふりかまわぬサプリ摂取のおかげという説有り)

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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る 

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