これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第141回 “MARGO’S GOT MONEY TROUBLES”(『マーゴのマネートラブル』)
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第141回“MARGO’S GOT MONEY TROUBLES”(『マーゴのマネートラブル』)
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『マーゴのマネートラブル』 本予告
エル・ファニングの魅力が爆発する必見のドラメディ!
本作は、大御所ミシェル・ファイファーとニコール・キッドマンを尻目に、エル・ファニングの魅力が爆発するリミテッドシリーズ。
“Margo’s Got Money Troubles”はApple TVオリジナル。愉快痛快でセクシー、そしてハートウォーミングな必見ドラメディなのだ!
“I’m a hungry ghost” (“Margo”)
—カリフォルニア州オレンジカウンティ
マーゴ・ミレット(エル・ファニング)は、奔放でいい加減なフラートン・カレッジの新入生だ。小説家志望の彼女は、ピザ店でウェイトレスをして学費と生活費を稼いでいる。
美貌自慢の母親シャイアン(ミシェル・ファイファー)は、メガ教会の理事ケニー(グレッグ・キニア)を陥落させたところ。彼女はプロポーズされるのを待ち構えている。
マーゴの父親ジンクス(ニック・オファーマン)は当時妻子持ちの人気プロレスラーで、シャイアンとは彼女のバイト先フーターズで出会った。
浮気の結果マーゴが生まれると、ジンクスは自分の家族の元へ戻っていった。
マーゴは文学部の教授マークと不倫を始めた。論文を褒められて浮かれたのだ。やがて妊娠が発覚すると、母親とマークは中絶を勧める。だが自分の子供が欲しいという強い欲求が沸き起こった。
彼女は男の子を生んだ。
マーゴはマークとは縁を切ってカレッジも中退した。シャイアンは子育てに無関心だ。ベビーシッターを雇う余裕もなく、マーゴはウェイトレスの仕事を失う。さらに赤ん坊の騒音に耐えられず、3人のルームメイトのうち2人が引っ越してしまった。残ったのはプロレスおたくのスージー(サディア・グレアム)だけだ。
途方に暮れたマーゴは父親に助けを求めたが、返事はない。
2か月後、突然ジンクスが現れた。
父親は背骨を傷めてプロレスラーを引退していた。痛み止めが効かずヘロイン中毒になり、家族にも見放された。リハビリ施設を出たばかりだという。
マーゴとスージーは、ジンクスに同居を許した。
仕事が見つからないマーゴは、“OnlyFans”(実在する成人向けコンテンツ中心の有料SNS)に登録した。
フォロワーの‘投げ銭’がおむつ代の足しになるなら、セックストークやヌードになるくらい何でもない。
ハンドルネームは“hungry ghost”にした。
“I’m just terrible at everything, except being pretty” (“Shyanne”)
エル・ファニングはダコタ・ファニング(アメリカの安達祐実)の妹。「姉はエグいほど演技が達者だけれど、妹も上手いなあ」と感心していたら、何と今年のオスカーにノミネートされていた(『センチメンタル・バリュー』で助演賞候補)。
マーゴ役は天職かと思うほどハマっていて、彼女の魅力が作品全体を支配している。
ジンクス役のニック・オファーマンの代表作はメガヒット・コメディ“Parks and Recreation”。反政府主義者の公園緑地課長ロンを全7シーズン演じた。最近では、ディストピアドラマの傑作“The Last of Us”(本ブログ第101回参照)でエミー賞ゲストアクター賞を受賞。今回は強面だが根は優しい元プロレスラーを熱演する。
スージーを演じたサディア・グレアムは、シャーロック・ホームズ譚に登場する「ベイカー街遊撃隊」をドラマ化した“The Irregulars”に主演した。気のいいルームメイトのスージーは、本作で唯一の癒し系キャラだ。
ベテランアクター3人が、脇に回ったふりをして思い切り自己主張をしているのが笑える。
ミシェル・ファイファーはケバい(死語か)化粧で身勝手なシャイアンを怪演する。
グレッグ・キニアは寛容で信心深くて退屈な堅物のケニーを大真面目に演じる。
さらにニコール・キッドマンがプロレスラー出身のタフな弁護士レースに扮して、ド派手なコスチュームで華麗なるプロレスシーンを披露する!(このシーンはいまだに信じられない。)
「ミシェル・ファイファーの夫」と呼ばれた男
原作はベストセラーとなったルフィ・ソープの同名小説(2024、未訳)。
ショーランナー(兼共同脚本)はデビッド・E・ケリー。かつては‘著名な脚本家’というより、‘ミシェル・ファイファーの夫’のイメージが先行していた。
だが弁護士資格を持つケリーは’86年の“L.A. Law”でブレークすると、硬軟を使い分けた一連のリーガルドラマで一世を風靡。“Ally McBeal”でキャリスタ・フロックハートを見出し、“The Practice”とそのスピンオフ“Boston Legal”ではジェームズ・スペイダーをトップスターに押し上げた。
ケリーはその後も“Big Little Lies”(本ブログ第45回参照)、“Mr. Mercedes”(本ブログ第50回参照)、“The Lyncoln Lawyer”、“Presumed Innocent”などを手掛けている。エミー賞を12回、ゴールデングローブ賞を3回受賞しており、その圧倒的な力量でみれば、ケリーは史上最強のドラマメーカーと言えるだろう。
ドラメディの難しさは、ドラマとコメディが互いに干渉し合い、中途半端に終わり易いことだ。その点本作は、両者の切り替えがシームレスでストレスがない。コメディの比重が絶妙なのだ。
エル・ファニングは数々のヌードシーン、授乳シーンを飄々とこなす。セクシーではあるが、あまりに頻繁なため「またかよ」と思わず笑っちゃう。とどめは“OnlyFans”で披露される愉快なSF風エロティック・コンテンツなのだが、あけっぴろげでまったく嫌味がない。マーゴのしなやかで強く、正直で憎めないキュートなキャラは、本作最大の魅力だ。
さらに、ミシェル・ファイファーとニコール・キッドマンが、ノリノリの演技で狂言回しに徹して楽しませてくれる(2人はファニング姉妹とともに製作総指揮にも名を連ねる)。
全編を通して絶えることのない柔らかなユーモアが心地いい。赤ん坊を巡るマーゴの葛藤と成長、彼女の慌ただしい人生に絡むシャイアン、ジンクス、スージーとの絆には、ちょっぴり感傷的な気分になる。感動と笑いを呼ぶエンディングも申し分なし。
“Margo’s Got Money Troubles”は、愉快痛快でセクシー、そしてハートウォーミングな必見ドラメディなのだ!
原題:Margo’s Got Money Troubles
配信:Apple TV
配信開始日:2026年4月15日~5月20日
話数:8(1話 35-44分)
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。







