明けの明星が輝く空に 第197回:夢幻のヒロインたち8:霧島美穂(仮面ライダーファム)
登場作品:『劇場版 仮面ライダー龍騎 EPISODE FINAL』(2002年)
キャラクター設定:シリーズ初の女性仮面ライダー 姉を生き返らせるために戦う
「真司…真司…。靴の紐ぐらいちゃんと結べよな。」
戦いで傷付いた霧島美穂は、真司と別れた後、そうつぶやいてこの世を去った。瀕死の重傷であることは悟られたくなかった。常にマイペースでつかみどころがなく、あっけらかんとした態度を取っていた彼女らしい最期だ。
この作品の主人公である城戸真司(仮面ライダー龍騎)と美穂の出逢いは偶然だった。ある結婚詐欺師を追っていた見習い記者の真司は、その男が女性をだまそうとしている現場に踏み込む。しかし、男に詰め寄っている間に、女性は姿を消してしまった。それも、男から贈られた結婚指輪とともに。逆に詐欺師をだましたこの女性こそ、霧島美穂だ。無断で拝借した他人の豪邸に男を招き入れて信用させるあたり、相当したたかな人物である。
その美穂が犯罪に手を出すのには、理由があった。姉の遺体の冷凍保存を維持するための費用が必要だったのだ。そして姉を生き返らせるために、彼女は仮面ライダーファムとして戦う。最終的な勝者となれば願いを叶えることができるという、「生き残りゲーム」の参加者として。彼らは鏡の中の異世界に住むミラーモンスターとの契約により、全員仮面ライダーに変身することができる。つまり、本作で繰り広げられるのは、いわば最強ライダー決定戦。ライダー同士によるバトルロイヤルなのだ。
その参加者の顔ぶれは、さまざまだ。TV版『仮面ライダー龍騎』(2002年~2003年)には、学生や弁護士、実業家などが登場する。『劇場版 仮面ライダー龍騎 EPISODE FINAL』は、TV版とは結末が異なる“アナザー龍騎”とも言える内容で、美穂はこちらが初登場。そのほか、まだTV版ライダーバトルから退場していない者たちが存在する。その中に、殺人鬼、浅倉(仮面ライダー王蛇)の姿もあった。この男こそ、美穂の姉を死に追いやった犯人で、美穂にとっては復讐を果たし、勝ち残って姉を生き返らせるという二つのチャンスを手に入れたことになる。
シリーズ初の女性仮面ライダーであるファムは、気品を感じさせる外見が印象的だ。それは、白をメインカラー(ファムのモチーフはハクチョウ)に、部分的に金色をあしらった配色のためだろう。白という色には「清廉」や「純粋」といったイメージがあるが、これは美穂という人物の内面を示しているのだろうか。姉を生き返らせたいという彼女の思いは、純粋で尊い。(その一方で、アクセントカラーの金色が「お金」、つまり美穂が人をだまして調達する金銭を象徴していると考えてみるのも面白い。ただの善人だとするよりも、人物造形として深みが出るだろう。)
ハクチョウというモチーフも、よく考えると示唆的だ。「スワンソング」という言葉は、死を前にハクチョウは美しい声で鳴くという言い伝えから来ているし、バレエの『白鳥の湖』は、演出によってはヒロインが命を絶つ結末もあるという。つまりハクチョウは、「死」のイメージもまとっている。前述したとおり、美穂は結局生き残ることができない。ファムのモチーフにハクチョウが選ばれたのは、それを暗示するためだったのかもしれない。
ファムの武器のひとつは、細長い棒状の剣だ。それを使って、フェンシングのように突き技を繰り出す。また、顔面を覆うフェイスシールドにはスリット状の“覗き穴”があり、背にはマントを装着。まるで西洋の騎士のような出で立ちで、白と金を配したカラーリングと相まって、“王家の女性剣士”とでも呼ぶべき高貴な雰囲気がある。それだけに、大いに活躍が期待されるところだったが、残念なことに戦闘能力は高くなかった。姉の仇である浅倉は戦いの中で“消滅”したが、ファムは浅倉の変身体である王蛇には刃が立たず、自分の力で倒すことはできなかった。美穂には手を血で染めて欲しくないという思いが、作り手にはあったのだろうか。
美穂はその後の戦いで重傷を負ったところを、真司に助けられる。倒れたまま動けない美穂を前に、動揺する真司。すると美穂はゆっくり左手を上げ、真司のおでこを指で軽く弾いた。「また引っかかった」とイタズラっぽい笑みを浮かべる美穂。どこまでも人を食った態度だ。しかし、すでに美穂は自分が助からないことを悟っていた。それでも真司を安心させ、二人は別れる。その直後、道端に倒れ込んだ美穂は空を見上げ、生き返らせることができなかった姉に謝罪した。そして、真司の名をつぶやく。出てくるのは感謝の言葉かと思いきや…。冒頭で紹介した「靴の紐ぐらいちゃんと結べよな」という台詞は、彼女が2回も真司の靴紐を結んでやったことを踏まえてのものだ。最期に「ありがとう」では、はっきり言って平凡な場面になっていたろう。それにどこか湿っぽいし、よそよそしさも感じてしまう。美穂の最期の言葉は、彼女のカラッとした人柄を示すとともに、真司に対する親しみの気持ちも表していたに違いない。そんなことを知る由もない真司は、バイクを運転しながら美穂の結んでくれた靴紐に視線を落とす。そうして嬉しそうな表情を浮かべ、走り去っていった。
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】いつの間にか、腰に不安を抱えるようになってしまいました。運動は問題ないのですが、体がほぐれていない朝はメリメリ音がしそうな感じ。湯治は無理だけど、打たせ湯とか電気風呂のある銭湯通いでもしようかな…。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
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