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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第111回“Rabbit/Hole”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第111回“Rabbit/Hole”
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第111回“Rabbit/Hole”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 

予告編:『ラビット・ホール/指名手配のスパイ』 本予告

キーファー・サザーランド、新年を駆ける!

われわれが夢中になった“24”は、全9シーズン、204エピソードを積み上げた。あれからほぼ10年、キーファー・サザーランドがまたまたやってくれた。

 

“Rabbit/Hole”はParamount+が制作、hulu Japanが独占配信する筆者待望の一作。国家を揺るがす非情な産業スパイ戦の闇、陰謀、迷宮に捕らわれた男の絶望的な戦いを描く、怒涛のスーパー・エンターテインメントなのだ!

 

He calls it “Going down the hole”

—ニューヨーク
ジョン・ウィアー(キーファー・サザーランド)は、ウォール街で成功している自称コンサルタント。と言っても、実態は精鋭の部下4人を使い、顧客のために産業スパイ、株価操作、金融詐欺などをはたらくホワイトカラー犯罪者だ。
FBIは以前からジョンに目をつけているが、尻尾をつかむことができない。

 

ジョンは今日も高級ホテルで、ヘッジファンドの経営者をまんまと引っ掛けた。そのあと、バーで知り合った弁護士ヘイリー(メタ・ゴールディング)と意気投合する。2人は一晩限りの関係を楽しんだ。だが翌朝になるとジョンの態度は豹変し、ヘイリーをFBIの回し者だとなじり始めた。

 

実は、ジョンは幼少期に父親から受けた重いトラウマが原因で、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症していた。断続的にパラノイアが起こり、自分も含めてだれも信用できなくなる。結婚生活もとっくに破綻していた。

 

ジョンは、幼なじみでかつて仲間だった大手IT企業のCEOマイルズ・ヴァランスから仕事の依頼を受ける。財務省の調査官エドワード・ホム(ロブ・ヤン)に、ちょっとしたトリックを仕掛ける簡単なものだった。

 

数日後、ホムが惨殺された。
ジョンは殺人容疑者として指名手配され、全国ニュースで彼の顔が大々的に流れ始めた。
さらに、ジョンのオフィスが爆破されてチームの3人が死亡。
ホンの件で問い詰められたマイルズは、ジョンの目の前で飛び降り自殺をした。

 

いったい何が起こっているのか?
ジョンの絶望的な逃亡生活が始まった。
何者かが、彼をスパイ世界の迷宮へ突き落としたのだ!

 

ジャック・バウアーからジョン・ウィアーへ!

キーファー・サザーランドが最後にジャック・バウアーを演じたのは2014年(“24: Live Another Day”、本ブログ第1回参照)。前後して主演した“Touch”と“Designated Survivor”は、“24”のファンには物足りなかった。今回満を持して臨んだ本作では、敢然と巨悪に立ち向かう一方で、精神に不安を抱えるジョン・ウィアーを見事に演じ分けた。

 

ヘイリー役のメタ・ゴールディングはインド生まれで、今回が初の準主役。複雑なキャラのヘイリーを魅力たっぷりに演じて、サザーランドとの間にはしっとりしたケミストリーが働いた。二人の微妙な関係は本作の見どころの一つだ。

 

エドワード・ホム役のロブ・ヤンは、“Succession”では嫌味な起業家、“The Resident” (本ブログ第58回参照)では傲慢な病院経営者を演じていい味を出していた。今回の情けない財務官僚役も特筆もので、彼のとぼけた味はドラマの絶妙なスパイスとなった。

 

ジョンに協力するベン・ウィルソン役のチャールズ・ダンスは、“Game of Thrones”のタイウィン・ラニスターで日本でも顔なじみだ。強面の悪役専門アクターで、敵か味方が最後まで分からないベンのキャラに見事にはまった。

 

以上のコア4人の演技と存在感は鉄板で死角がない。
また、ゲスト出演のピーター・ウェラーとランス・ヘンリクセンの使い方が贅沢で泣かせる。

 

迫真のスパイ/心理スリラー + スリックなコンゲーム・ドラマ!

ショーランナー(兼共同監督兼共同脚本)は、ヒューマンドラマの名作“This Is Us”(本ブログ第36回参照)を手掛けたグレン・フィカーラ&ジョン・レクア。

 

製作総指揮も兼ねるキーファー・サザーランドは、歯切れのいいセリフ回し、シャープな身のこなしでまったく衰えを見せない。本作は”24”との差別化に成功しているが、部分的にジャック・バウアーを髣髴させる今回のジョン・ウィアーのキャラは本作最高の見どころだ。
また、いったんは仲間を失ったジョンが、パラノイアに悩みながらも他人を信頼し始めた結果、新たなチームが形成されていくプロセスは痛快だ。

 

各エピソードには手掛かりが残されているものの、真相がすっきりと解明されているとは言い難い。突っ込みどころも少なくないが、突っ込まないこと。データ分析、行動心理学、情報操作を巧みに取り入れたプロットは、スピーディに二転三転する。「狩る者と狩られる者」、あるいは「善人と悪人」が、瞬時に入れ替わる構成も鮮やかだ。

 

本作は迫真のスパイ/心理スリラーと同時にスリックなコンゲーム・ドラマでもある。さらに、ツイストの連続技、ドライなユーモア、荒唐無稽寸止めの展開はサービス満点で子気味いい。
“24”同様にノリがよくて圧倒的に“bingeable”、オートパイロットで“roller-coaster ride”を楽しめばいい。

 

“Rabbit/Hole”は、国家を揺るがす非情な産業スパイ戦の闇、陰謀、迷宮に捕らわれた男の絶望的な戦いを描く、怒涛のスーパー・エンターテインメントなのだ!

 

【悲報】
キーファー・サザーランドは復活した。だがParamount+のコストダウンのために、シーズン2はキャンセルされた。せめてこのシーズン1で、彼の雄姿を目に焼き付けておこうではないか。

 

原題:Rabbit/Hole
配信:hulu Japan
配信開始日:2023年11月14日
話数:8(1話 41-55分)

 

<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #83
Title: “Holiday Road”
Artist: Rindsay Buckingham
Movie: “National Lampoon’s Vacation” (1983)

邦題は『ホリデーロード4000キロ』、チェビー・チェイス絶頂期の一作。

 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 

 

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