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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第142回 “Ride or Die”(『ライド・オア・ダイ ~親友は暗殺者~』)

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第142回“Ride or Die”(『ライド・オア・ダイ ~親友は暗殺者~』)
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『ライド・オア・ダイ ~親友は暗殺者~』 本予告

 
極上のバディ・アクションアドベンチャー・コメディ!
本作を観たら、『テルマ&ルイーズ』(1991)が懐かしくなった。スーザン・サランドン&ジーナ・デイヴィス主演、リドリー・スコットの代表作のひとつで、親友同士の女性の破滅を描くクライムドラメディだ(ブラピの出世作でもある)。
“Ride or Die”はAmazon Prime Videoのリミテッドシリーズ。ヨーロッパを舞台に女暗殺者と下院議員の妻が繰り広げる、底抜けに楽しくスリリングで深い感動を呼ぶ、極上のバディ・アクションアドベンチャー・コメディなのだ!
 
“No more lying. No more killing”
—ロンドン
デビー(オクタヴィア・スペンサー)は、下院議員デヴィッド・クレイボーン(ジェイミー・パーカー)の妻だ。アメリカ人のデビーは名門イェール大出身の弁護士だったが、キャリアを捨ててロンドンに移住してきた。結婚し、2度の出産を経て、25年間無能の夫を支え続けている。
子供たちは既に親離れした。首相を目指すデヴィッドのブレインとして、デビーは多忙な日々を送っている。
 
ジュディス・バートン(ハンナ・ワディンガム)は法廷会計士(“forensic accountant”)で、デビーとは20年来の親友だ。だがジュディスには秘密があった。彼女のコードネームは“Whiptail”、謎の組織“The Agency”の元で30年近く暗躍してきたエリート暗殺者なのだ。
 
最近加齢のせいか暴走気味のジュディスは、組織からやんわりと引退勧告を受けていた。
最新のターゲットは犯罪シンジケートの幹部ビリー・ドノヴァン(エド・スクライン)。失敗すれば引退させられるだろう。
 
デビーはデヴィッド主催の慈善パーティに向かう車の中で、突然夫から離婚を言い渡されてショックを受ける。所詮政治的に利用されただけだったのだ。
 
その頃ジュディスは、偶然にもこのパーティにゲストとして紛れ込んでいた。標的のビリー・ドノヴァンが支援者として出席するためだ。
 
ジュディスはビリーを追ってパーティ会場の空き部屋へ忍び込む。だがビリーは姿を消していて、そこにはデヴィッドを含む3つの惨殺死体が横たわっていた。
 
さらに、ヤケ酒を飲んで酔っ払っていたデビーまでもが暗殺グループに狙われる。ジュディスはデビーを救い出し、奪った車で逃走する。ロンドン市街で追手との激しいカーチェイスと銃撃戦が始まった!
 
デビーはジュディスの正体を知ってしまった。2人の友情に亀裂が入りかけていた。
だがその前にやることがあった。
生き延びることだ。
 
‘陰’のデビーと‘陽’のジュディスを体現する2大アクター!
ジュディスを演じたハンナ・ワディンガムはスポーツコメディの傑作“Ted Lasso”(本ブログ第76回参照)で大ブレークし、エミー賞助演女優賞に輝いた。ミュージカル&舞台アクターとして長いキャリアを持つ彼女だが、今回はコメディドラマの暗殺者役で視聴者を感動させるという離れ業を演じた。
 
デビー役のオクタヴィア・スペンサーは、’60年代の黒人家政婦への差別を描いた『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』(2011)で、アカデミー&ゴールデングローブ賞の助演女優賞をダブル受賞している。
スペンサーとワディンガムとの間には磁力のようなケミストリーが働き、2人は‘陰’のデビーと‘陽’のジュディスを鮮やかに体現した。
 
ビリー・ドノヴァン役のエド・スクラインは、大ヒットしたアクション・コメディ『デッドプール』(2016)のサイコ・ミュータント、エイジャックスが当たり役だ。
 
舞台経験が豊富なジェイミー・パーカーは、2016年に舞台で成人となったハリー・ポッターを演じた。本作では、デビーのダメダメ夫デヴィッドを生き生きと演じている。
 
多彩なキャラを演じるわき役陣は力強い。
“The Agency”の局長を演じた名優ビル・ナイ、ジュディスのハンドラーであるサム役のカラム・リンチ、“The Agency”の暗殺者“Redback”役のシルヴィア・フークス、ジュディスの武器サプライヤーのクイニ―を演じたサヴァンナ・スタイン、インターポール捜査官ブーシェ役のジャッキー・イドらが、激しく存在感を競い合う。
 
『テルマ&ルイーズ』の完全エンタメバージョン!
クリエーターのテッサ・コーテスにとって本作は初の製作総指揮作品。ショーランナーは“Chuck”、“Lethal Weapon”(本ブログ第37回参照)、“Peacemaker”を手掛けたマット・ミラーで、2人は共同脚本も担当している。
 
パイロットはオーストリアのスキーリゾートを舞台に007風のギャンビットで始まる。その後はロンドンを中心に、バルセロナ、モナコ、ジュネーブと舞台を移して国際色豊かなドラマが繰り広げられる。
 
ストーリーは、消えた政治資金を巡って命を狙われるジュディスとデビーの逃避行を中心に展開する。アルバニアン・マフィア、謎の暗殺者、“The Agency”、インターポールが入り乱れて予測不能、加速度的に面白くなる。ギャグは抑え目だが、ピンポイントでビシバシ決まる。
 
「完全無欠な殺人マシーン」だったはずのジュディスにとって、デビーという「守るべきもの」の出現が致命的な弱みとなる。孤児で家族を持たずに生きてきたジュディスにとって、デビーとの友情は心の糧だった。一方受け身で自分を偽って生きてきたデビーは、窮地に陥って初めて生来の強靭さを発揮し、自ら活路を見出していく。
互いを支え、高め合いながら絆を深めていく2人のキャラクターアークはコントラストが鮮やかで、強い説得力を持つ。
そしてエンディングは、実力派アクター2人のおかげでエンタメ作品に収まらない感動を呼ぶ。
 
“Ride or Die”は、『テルマ&ルイーズ』の完全エンタメバージョン。底抜けに楽しくてスリリングで深い感動を呼ぶ、極上のバディ・アクションアドベンチャー・コメディなのだ!
(一応リミッテッドシリーズだが、シーズン2の制作に期待したい。)
 
原題:Ride or Die
配信:Amazon Prime Video
配信開始日:2026年7月15日
話数:8(1話 48-55分)
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第141回 “MARGO’S GOT MONEY TROUBLES”(『マーゴのマネートラブル』)

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第141回“MARGO’S GOT MONEY TROUBLES”(『マーゴのマネートラブル』)
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『マーゴのマネートラブル』 本予告

 
エル・ファニングの魅力が爆発する必見のドラメディ!
本作は、大御所ミシェル・ファイファーとニコール・キッドマンを尻目に、エル・ファニングの魅力が爆発するリミテッドシリーズ。
“Margo’s Got Money Troubles”はApple TVオリジナル。愉快痛快でセクシー、そしてハートウォーミングな必見ドラメディなのだ!
 
“I’m a hungry ghost” (“Margo”)
—カリフォルニア州オレンジカウンティ
マーゴ・ミレット(エル・ファニング)は、奔放でいい加減なフラートン・カレッジの新入生だ。小説家志望の彼女は、ピザ店でウェイトレスをして学費と生活費を稼いでいる。
 
美貌自慢の母親シャイアン(ミシェル・ファイファー)は、メガ教会の理事ケニー(グレッグ・キニア)を陥落させたところ。彼女はプロポーズされるのを待ち構えている。
マーゴの父親ジンクス(ニック・オファーマン)は当時妻子持ちの人気プロレスラーで、シャイアンとは彼女のバイト先フーターズで出会った。
浮気の結果マーゴが生まれると、ジンクスは自分の家族の元へ戻っていった。
 
マーゴは文学部の教授マークと不倫を始めた。論文を褒められて浮かれたのだ。やがて妊娠が発覚すると、母親とマークは中絶を勧める。だが自分の子供が欲しいという強い欲求が沸き起こった。
彼女は男の子を生んだ。
 
マーゴはマークとは縁を切ってカレッジも中退した。シャイアンは子育てに無関心だ。ベビーシッターを雇う余裕もなく、マーゴはウェイトレスの仕事を失う。さらに赤ん坊の騒音に耐えられず、3人のルームメイトのうち2人が引っ越してしまった。残ったのはプロレスおたくのスージー(サディア・グレアム)だけだ。
 
途方に暮れたマーゴは父親に助けを求めたが、返事はない。
 
2か月後、突然ジンクスが現れた。
父親は背骨を傷めてプロレスラーを引退していた。痛み止めが効かずヘロイン中毒になり、家族にも見放された。リハビリ施設を出たばかりだという。
マーゴとスージーは、ジンクスに同居を許した。
 
仕事が見つからないマーゴは、“OnlyFans”(実在する成人向けコンテンツ中心の有料SNS)に登録した。
フォロワーの‘投げ銭’がおむつ代の足しになるなら、セックストークやヌードになるくらい何でもない。
ハンドルネームは“hungry ghost”にした。
 
“I’m just terrible at everything, except being pretty” (“Shyanne”)
エル・ファニングはダコタ・ファニング(アメリカの安達祐実)の妹。「姉はエグいほど演技が達者だけれど、妹も上手いなあ」と感心していたら、何と今年のオスカーにノミネートされていた(『センチメンタル・バリュー』で助演賞候補)。
マーゴ役は天職かと思うほどハマっていて、彼女の魅力が作品全体を支配している。
 
ジンクス役のニック・オファーマンの代表作はメガヒット・コメディ“Parks and Recreation”。反政府主義者の公園緑地課長ロンを全7シーズン演じた。最近では、ディストピアドラマの傑作“The Last of Us”(本ブログ第101回参照)でエミー賞ゲストアクター賞を受賞。今回は強面だが根は優しい元プロレスラーを熱演する。
 
スージーを演じたサディア・グレアムは、シャーロック・ホームズ譚に登場する「ベイカー街遊撃隊」をドラマ化した“The Irregulars”に主演した。気のいいルームメイトのスージーは、本作で唯一の癒し系キャラだ。
 
ベテランアクター3人が、脇に回ったふりをして思い切り自己主張をしているのが笑える。
ミシェル・ファイファーはケバい(死語か)化粧で身勝手なシャイアンを怪演する。
グレッグ・キニアは寛容で信心深くて退屈な堅物のケニーを大真面目に演じる。
さらにニコール・キッドマンがプロレスラー出身のタフな弁護士レースに扮して、ド派手なコスチュームで華麗なるプロレスシーンを披露する!(このシーンはいまだに信じられない。)
 
「ミシェル・ファイファーの夫」と呼ばれた男
原作はベストセラーとなったルフィ・ソープの同名小説(2024、未訳)。
ショーランナー(兼共同脚本)はデビッド・E・ケリー。かつては‘著名な脚本家’というより、‘ミシェル・ファイファーの夫’のイメージが先行していた。
だが弁護士資格を持つケリーは’86年の“L.A. Law”でブレークすると、硬軟を使い分けた一連のリーガルドラマで一世を風靡。“Ally McBeal”でキャリスタ・フロックハートを見出し、“The Practice”とそのスピンオフ“Boston Legal”ではジェームズ・スペイダーをトップスターに押し上げた。
 
ケリーはその後も“Big Little Lies”(本ブログ第45回参照)、“Mr. Mercedes”(本ブログ第50回参照)、“The Lyncoln Lawyer”、“Presumed Innocent”などを手掛けている。エミー賞を12回、ゴールデングローブ賞を3回受賞しており、その圧倒的な力量でみれば、ケリーは史上最強のドラマメーカーと言えるだろう。
 
ドラメディの難しさは、ドラマとコメディが互いに干渉し合い、中途半端に終わり易いことだ。その点本作は、両者の切り替えがシームレスでストレスがない。コメディの比重が絶妙なのだ。
 
エル・ファニングは数々のヌードシーン、授乳シーンを飄々とこなす。セクシーではあるが、あまりに頻繁なため「またかよ」と思わず笑っちゃう。とどめは“OnlyFans”で披露される愉快なSF風エロティック・コンテンツなのだが、あけっぴろげでまったく嫌味がない。マーゴのしなやかで強く、正直で憎めないキュートなキャラは、本作最大の魅力だ。
 
さらに、ミシェル・ファイファーとニコール・キッドマンが、ノリノリの演技で狂言回しに徹して楽しませてくれる(2人はファニング姉妹とともに製作総指揮にも名を連ねる)。
 
全編を通して絶えることのない柔らかなユーモアが心地いい。赤ん坊を巡るマーゴの葛藤と成長、彼女の慌ただしい人生に絡むシャイアン、ジンクス、スージーとの絆には、ちょっぴり感傷的な気分になる。感動と笑いを呼ぶエンディングも申し分なし。
“Margo’s Got Money Troubles”は、愉快痛快でセクシー、そしてハートウォーミングな必見ドラメディなのだ!
 
原題:Margo’s Got Money Troubles
配信:Apple TV
配信開始日:2026年4月15日~5月20日
話数:8(1話 35-44分)
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第140回 “Off Campus”

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第140回“Off Campus”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『オフキャンパス』 本予告

 
これが上半期のベストドラマ!
この一見退屈そうなタイトルの青春ドラマが、疑いなく本年度上半期のベストワン。
“Off Campus”は、Amazon Prime Video史上最大級のヒット作。真摯で優しく、可笑しくてハートウォーミング、新鮮で爽快、セクシーでスティーミー、悲痛で胸キュン、キュートでチャーミングな、カレッジロマンス・ミュージック&スポーツ・ドラメディなのだ!(形容詞多すぎか)
 
“I’m not your girl, Graham” (Hannah)
—ボストン近郊の町ヘイスティングス
ハンナ・ウェルズ(エラ・ブライト)は、奨学金を得てブライアー大学で音楽を専攻する新入生。母親が歌手だったこともあり、高校の頃はシンガーソング・ライターを目指していた。今は3つのアルバイトを掛け持ちして何とか生活している。ハンナは同大学のバンド・ヴォーカルのジャスティンに思いを抱いている。
彼女は、①パーティーではアルコールを飲まない、②『ダーティー・ダンシング』の大ファン、③アイスホッケーを嫌悪している。
そして誰にも言えない秘密があった。
 
ギャレット・グレアム(ベルモント・カメリ)はブライアー大の3年生で、アイスホッケーチームの新キャプテン。既にNHL(“National Hockey League”)のボストン・ブルーインズから指名を受けている。父親のフィルはNHLで活躍した伝説的プレイヤーで、ギャレットは幼いころからスパルタ的英才教育を受けてきた。
彼は、①試合前日はアルコールを1杯しか飲まない、②彼女は作らない、③父親を嫌悪している。
そして誰にも言えない秘密があった。
 
ギャレットは哲学の授業に苦労していた。単位を落とすと試合に出られない。
彼は成績優秀なハンナに助けを求めたが、秒殺される。
 
大学側の予算削減で、ハンナの奨学金が突然反故にされた。このままでは来期は在学できない。彼女は賞金目当てで、大学主催のポップス・コンテストに応募することにした。
 
ハンナがジャスティンに気があることを嗅ぎつけたギャレットは、取引を申し出る。彼女が哲学の家庭教師を引き受ければ月謝を払い、さらにジャスティンとの恋に協力するというのだ。
ハンナは渋々了承した。
 
ハンナとギャレットは、ジャスティンの気を引くために熱々のカップルを演じ始めた。
もちろんこの2人は恋に落ちる(ロマコメだからね)。
 
“You make me want to be better” (Garrett)
ハンナを演じたエラ・ブライトはまだ19歳。’40年代の英国を舞台にした学園ドラマ“Malory Towers”に13歳で主演し、全7シーズン演じた。本作では驚くほどの演技力で、過去のトラウマに縛られて才能を発揮できないハンナを瑞々しくかつ切々と演じきった。(ブライトは若いころのレイチェル・ワイズによく似ている。)
 
ギャレット役のベルモント・カメリはこれが初の主役で、しかもアイススケート未経験。(28歳とちょっと老けてるが)父親との確執に悩む将来のNHLプレイヤーを好演する。エラ・ブライトとの間には磁力のようなケミストリーが働き、とてもキュートなカップルが誕生した。(カメリは最近のマイルズ・テラーによく似ている。)
 
ハンナの奔放なルームメイトで役者志望のアリーと、ギャレットのチームメイトでスーパープレイボーイのディーン。2人のロマンスはシーズン後半でスパークする。アリー役のミカ・アブダラと、ディーン役のスティーヴン・カリンの間にも強烈なケミストリーが働く。
既に制作が決まっているシーズン2では、アリー&ディーンが主役になるようだ。
 
ギャレットの親友でチームメイトのローガンを演じたのはアントニオ・チプリアーノ。ミュージカルもこなす実力派で、ハンナに片想いをするナイスガイを繊細に演じた。
 
もう一人のチームメイト、気のいい料理人タッカー役がジェイレン・トーマス・ブルックス。医療ドラマの傑作“The Pitt”(本ブログ第127回参照)でもいい味を出していた。
 
上記わき役4人にも成長ドラマが用意されていて、アンサンブルドラマとしての厚みがグッと増している。
 
ロマコメ/青春ドラマの理想形!
ショーランナーはルイーザ・レヴィとジーナ・ファットーレ。クリエーター兼共同脚本も務めるレヴィは、“The Fright Attendant”(本ブログ第81回参照)、“Stumptown”(本ブログ第89回参照)に脚本スタッフとして参加している。ファットーレは、“Dawson’s Creek”、“Gilmore Girls”、“Californication”など2000年代にヒット作を連発したベテランプロデューサーだ。
 
原作は、全米ベストセラーとなったエル・ケネディによる“Off-Campus”シリーズの第1作“The Deal”(2015、未訳)。いわゆる“hockey romance”の代表作で、読んでみたらこれがメチャクチャ面白い。このシリーズは各巻ごとに主人公となるカップルを替えながら、これまで5冊が出版されている。
 
レヴィとファットーレは、原作をものの見事に映像化して見せた。
最大の魅力は、ハンナとギャレットの確かなキャラクターアークだ。「恋愛不器用な眠れる才媛」と「チャラ男に見えるキャンパスのスーパースター」が初めて自分をさらけ出し、お互いを気遣うようになる。そして支え合い、困難を克服しながら、深みのある大人のカップルへと変貌していく。
 
また‘偽装カップル’というロマコメのテンプレート上に、三種の神器:「すれ違い」「恋のライバル」「主役の頼れる親友」をしっかりと配置する。
 
「真摯な恋愛ドラマ」と「セクシーな恋愛ドラマ」の両立はかなりハードルが高い。だが、原作の巧みなストーリーテリングのおかげで難なくクリアされた。大胆なセックスシーンも、ありがちな‘露骨な視聴率稼ぎ’のあざとさがない。キャラクターの誠実さ、感情表現と矛盾していないのだ。
 
各エピソードは飛び切りのユーモアと粋なBGMに乗せて、加速度的に面白くなる。後半は白熱のホッケーシーンに加えて、ヒューマンドラマとしての奥行きを見せる。エンディングは説得力があり感動的で、次シーズンが待ちきれない。
 
本作はロマコメ/青春ドラマの正に理想形、断トツで上半期のベストドラマ。
“Off Campus”は真摯で優しく、可笑しくてハートウォーミング、新鮮で爽快、セクシーでスティーミー、悲痛で胸キュン、キュートでチャーミングなカレッジロマンス・ミュージック&スポーツ・ドラメディなのだ!
 
原題:Off Campus
配信:Amazon Prime Video
配信開始日:2026年5月13日
話数:8(1話 46-56分)
 
<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(4月~6月)
※過去に本ブログ(<今月のおまけ>を含む)で紹介した作品の新シーズンは除きます。

 
●“The Beauty”(『ザ・ビューティー 美の代償』、Disney+)
“Glee”、“American Horror Story”、“Pose”(本ブログ第67回参照)を生んだライアン・マーフィーの最新作は、とんでもない副作用のある若返り薬を巡るグロキモいハイテクホラー!
 
●“The Boroughs”(『ザ・ボローズ』、Netflix)
“Stranger Things”のダファー兄弟による、砂漠の高齢者施設を舞台に老人とモンスターとの密かな闘いを描く心温まる冒険ホラー・コメディ!
 
●“Star Wars: Maul – Shadow Lord”(『スター・ウォーズ:モール/シャドウ・ロード』、Disney+)
“The Mandalorian”(本ブログ第65回参照)以来の傑作はクローン戦争終焉後の世界が舞台、ダース・モールの復讐と2人のジェダイの活躍を描くダークなアクションアニメ!
 
●“Spider-Noir”(『スパイダー・ノワール』、Amazon Prime Video)
マーベルコミック原作、1930年代のNYを舞台に元スパイダーの私立探偵(ニコラス・ケイジ)の贖いと再生を描くノワールドラマ!(モノクロとカラーが選べるが絶対モノクロがお勧め)
 
●“R.J. Decker”(『探偵R・J・デッカー』、Disney+)
クセ者作家カール・ハイアセン原作、“Animal Kingdom”(本ブログ第138回参照)のスコット・スピードマン主演、南フロリダを舞台にしたチャーミングな私立探偵ドラマ!
 
●“Widow’s Bay”(『ウィドウズ・ベイ』、Apple TV)
“Perry Mason”のマシュー・リス主演、ニューイングランドの呪われた小島を舞台に、観光客を呼び込もうと奮闘する町長の絶望的な戦いを描くコメディ・ホラー!
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第139回 “DTF St. Louis”(『欲望のセントルイス』)

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第139回“DTF St. Louis”(『欲望のセントルイス』)
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『欲望のセントルイス』 本予告

 
カルト化必至のダークミステリー・コメディ!
本作は‘ドラマ界のレクサス’ことHBOによる、不条理で不謹慎でちょっぴり心温まるリミテッドシリーズ(配信はU-NEXT)。
“DTF St. Louis” は予測不能でクセになる、カルト化必至のダークミステリー・コメディなのだ!
 
“HEY ST. LOUIS, LET THE SUNSHINE IN!”
—ミズーリ州セントルイス郊外の町トワイラ、2018年
クラーク・フォレスト(ジェイソン・ベイトマン)は、地元の放送局WTGKの気象予報士だ。妻のエイミーと2人の娘とともに、裕福な生活をしている。仕事柄早起きのクラークは、ボランティア活動に忙しい妻とはすれ違いが多い。クラークは正直で穏やかな性格だが、ときどき言動がおかしくなる。
 
フロイド・スマーニッチ(デヴィッド・ハーバー)はWTGKの新人手話通訳で、クラークの友人だ。元妻は占い師で、今は妻のキャロル(リンダ・カーデリーニ)、連れ子の高校生リチャードと3人暮らし。リチャードには精神疾患があり、しかも義父のフロイドを嫌っている。
フロイドは優しい善良な夫/父親だが、ぺロニー病(気になる人は自分で検索してね)で自信を失い、自己嫌悪に陥っている。
家計は借金で火の車だ。キャロルは野球に興味がないが、なぜかリトルリーグの審判のバイトを始めた。
 
クラークとキャロルは、フロイド主催のパーティで初めて知り合った。キャロルはクラークを誘惑し、2人は不倫関係を続けている。
 
ある日クラークは、フロイドに‘DTFセントルイス’というセックス目的のデートアプリを勧めた(DTFは自分で検索してね)。フロイドは迷った末にそのアプリに登録した。
 
8週間後、閉鎖中の公営プール近くの小屋でフロイドの死体が発見された。現場には男性ポルノが残されていた。
 
群保安局の捜査官ホーマー(リチャード・ジェンキンス)と、トワイラ市警特殊犯罪課のジョディ(ジョイ・サンデー)が、合同捜査を始めた。やがてフロイドの死因は毒殺と判明する。
 
あらゆる証拠はクラークを指していた。
クラークは生放送中に殺人容疑で逮捕された。
 
“You are full of love”
クラークを演じたジェイソン・ベイトマンは、大ヒットシットコム“Arrested Development”と、クライムドラマの傑作“Ozark”(本ブログ第70回参照)が代表作。最近では“Black Rabbit”でジュード・ロウと共演した。ベイトマンの持ち味は飄々とした面白さで、このとぼけたドラマに彼ほど打ってつけのアクターはいない。
これまでエミー賞に14回(受賞1回)、ゴールデングローブ賞に5回(受賞1回)ノミネートされている。
 
フロイド役のデヴィッド・ハーバーは、Netflixのメガヒットドラマ“Stranger Things”(本ブログ第32回参照)で警察署長ジム・ホッパーを演じて遅咲きブレーク。同役でエミー賞に2度、ゴールデングローブ賞に1度ノミネートされた。今回は複雑でかなり恥ずかしい役柄に果敢に挑戦し、視聴者に笑撃と感動を与えた。
 
キャロル役のリンダ・カーデリーニは、クライムコメディ“Dead to Me”(本ブログ第60回参照)が代表作。『アベンジャーズ・シリーズ』で演じたホークアイの妻ローラを観て癒された人も多いだろう。本作では優しい悪女(?)を達者に演じている。カーデリーニはエミー賞に3度ノミネートされている。
 
ベイトマン、ハーバー、カーデリーニの3人には磁力のようなケミストリーが働き、互いの魅力を最大限に引き出した。
 
‘DTFセントルイス’の創業者‘モダンラブ’を演じたのはピーター・サースガード。ひねくれたユーモアのセンスを持つ、低予算映画好きの名わき役アクターだ。真摯だが変人の金持ちを大真面目に演じて笑いを誘う。
(サースガードの妻はマギー・ギレンホール、義弟はジェイク・ギレンホールだ。)
 
フロイドの死の真相に迫っていく凸凹捜査官――思い込みの強いベテランのホーマーを演じたリチャード・ジェンキンス、私生活ではセックス探究者のジョディを演じたジョイ・サンデーが、全編を流れるダークユーモアを増幅させている。
 
S・コンラッドはやりたいことをすべてやった
クリエーター&ショーランナーのスティーヴン・コンラッドは、『ニコラス・ケイジのウェザーマン』(2005)、ウィル・スミス主演の『幸せのちから』(2006)などで知られる脚本家。本作では製作総指揮、全エピソードの監督・脚本まで担当し、ほぼワンオペで作品を作り上げてしまった。
 
本作の真骨頂は、シリアスな殺人事件の捜査劇を装いながら、実際はナンセンスなホラ話を描いている点にある。その核となるのは、オフビートなトーン、脱力感のあるストーリー、人を食ったような会話、そして絶妙なキャスティングだ。
 
とにかくこの作品、すべてがうさん臭くて怪しい。
舞台はセントルイス郊外とされているが、ロケ地はなぜかアトランタ。オープニングクレジットと主題歌(The 5th Dimensionの“Let the Sunshine In”)も、どこか作品のイメージとズレている。キャラたちは一見まともに見えるが、誰一人としてフツーではない。そもそも‘フロイド・スマーニッチ’なんて名前のアメリカ人がいるとは思えない。
そのくせ、タイトルだけは妙にしっくりくる。
 
キャロルとクラークの変態的なセックス、クラークとフロイドの歪んだ愛情、頻出する不必要な手話での会話、そしてキャロルの滑稽な主審姿――ストーリーから可笑しさがじわじわとしみ出してくる感じだ。
スティーヴン・コンラッドは、確信犯的にやりたいことをすべてやっている。
 
一方で、ミステリーの構成は意外に緻密だ。大小のツイスト&ターンが用意され、馬鹿げた真相にはそれなりに説得力があり、推理ドラマとしても十分成立している。
 
こうして、スローペースだが観るのを止められない、不条理で不謹慎でちょっぴり温かいドラマが誕生した。
“DTF St. Louis” は予測不能でクセになる、カルト化必至のダークミステリー・コメディなのだ!
 
原題:DTF St. Louis
配信:U-NEXT
配信開始日:2026年3月2日~4月13日
話数:7(1話 46-57分)
 
<今月のおまけ> 「これは必携、アメリカン・ドラマを楽しむためのお役立ち本!」⑥
●『懐に入る英語』(大野和基、集英社、2026)
著者はFBIから勧誘されたこともある敏腕ジャーナリスト/インタビュアー。包括的ではないが、知的で大人のアメリカ英語の習得に必要不可欠な語彙、表現、知識、文化的背景を具体例で学べる好著!
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第138回 “ANIMAL KINGDOM”

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第138回“ANIMAL KINGDOM”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『アニマル・キングダム』 本予告

 
エレン・バーキン率いるアウトロー家族の“heist”ドラマ!
本作はドラマの老舗TNTによるクライムドラマの傑作で、2022年にシーズン6をもって完結している。ようやくNetflixのラインアップに加わり、筆者は全75話を12日で完走した。
 
“Animal Kingdom”は、エレン・バーキン率いる機能不全のアウトロー家族を鮮烈に描く、必見の“heist”(強奪)ドラマなのだ!
 
“May we all get what we want…and never what we deserve” (“Smurf”)
—カリフォルニア州の海辺の街オーシャンサイド
ジョシュア・‘ジェイ’・コディ(フィン・コール)が目を覚ますと、母親のジュリアがカウチで死んでいた。ヘロインの過剰摂取だった。17歳のジェイはまったく感情を見せずに、祖母のジャニーン・‘スマーフ’・コディ(エレン・バーキン)に連絡を取った。
 
スマーフはジェイを家族として温かく迎え入れた。家は豪奢ではないが、ゲートとプール付きで大きい。
スマーフには娘のジュリア以外に4人の息子がいる。
リーダー格の養子‘バズ’(スコット・スピードマン)には、同棲相手との間に幼い娘がいる。次男クレイグ(ベン・ロブソン)はアルコールとドラッグに溺れている。元プロ級サーファーの三男デラン(ジェイク・ウィアリー)は、ゲイであることを母親に隠していた。長男の‘ポープ’(ショーン・ハトシー)は服役中だ。
 
コディ一家は強盗で生計を立てている。
支配的な家長スマーフが、子供の頃から息子4人に戦い方、嘘のつき方、騙し方、そして盗み方を教えてきたのだ。この機能不全の家族は一枚岩ではないが、‘犯罪’という大義の元では見事に結束する。
 
突然ポープが仮出所してきた。3年前、バズとポープは銀行強盗を試みるも失敗。ポープが一人で罪をかぶって懲役6年の実刑判決を受けた。
ポープはメンタルが不安定なために、家族の面々は彼の不意の出現にとまどった。
 
次のヤマは宝石商の襲撃だった。
ポープが加わり、ジェイも逃走車の調達で強盗デビューを果たした。
 
ジェイは家族を失ったが、代わりに犯罪者の家族ができた。
彼は若くて聡明で腹が据わっている…。
 
“Some people just aren’t meant to be parents” (“Smurf”)
エレン・バーキンは、ニューオーリンズが舞台の『ビッグ・イージー』(1986)、アル・パチーノと共演した『シー・オブ・ラブ』(1989)など、いわゆるネオ・ノワール作品で忘れがたい演技を残した。本作では、絶対的なカリスマを持つ妖艶なスマーフを貫禄で演じ、ドラマをも支配する。
 
破天荒でセクシーな若き日のスマーフを演じたのがレイラ・ジョージ。ヴィンセント・ドノフリオ(“Law & Order: Criminal Intent”)とグレタ・スカッキの娘で、シリーズ後半では準主役級の活躍ぶりで目が離せない。
 
(※)ニックネーム“Smurf”の由来は、’80年代の人気アニメキャラからきている。(「資金洗浄者」を意味する“smurf”からではない。)
 
ロンドン生まれのフィン・コールは、兄のジョーと共演したギャングドラマの金字塔“Peaky Blinders”のマイケル・グレイ役でブレークした。冷徹で抜け目のない‘ジェイ’役は本作のキー・ロールで、熱しやすい4人兄弟とのコントラストが鮮やかだ。
 
スタイリッシュなバズ役のスコット・スピードマンは、社会現象となった“Felicity”が懐かしい。最新作は、タイトルロールを演じたチャーミングな私立探偵ドラマ“R.J. Decker”(Disney+)。バズとスマーフの確執は、シリーズ前半のハイライトだ。
 
長男ポープを演じたショーン・ハトシーは、硬派の警察ドラマ“Southland”でブレーク。最近では、大ヒット中の医療ドラマ“The Pitt”(本ブログ第127回参照)で元軍医のER医師アボットを演じ、エミー賞ゲストアクター賞に輝いた。ハトシーは、地雷のような‘キモやばい’ポープ役に見事にハマった。
 
これに怖いもの知らずの次男クレイグを演じたベン・ロブソン、ナイーブな三男デラン役のジェイク・ウィアリー、さらにジェイの奔放なガールフレンドのニッキーを演じたモリー・ゴードンが加わり、見事なアンサンブルキャストを形成する。
 
“Everything is fine. Bring your gun” (“Smurf”)
原作は実話ベースの同名オーストラリア映画(2010)。映画版で監督・脚本を務めたデヴィッド・ミショッドが、本作の製作総指揮に名を連ねる。
オリジナルのショーランナー(兼共同脚本)は、高評価のサバイバル・スリラー“Yellowjackets”を手掛けたジョナサン・リスコ。また“ER”、“The West Wing”(本ブログ第33回参照)、“Shameless”、“The Pitt”等のヒット作を生んだジョン・ウェルズが、製作総指揮・共同監督・共同脚本を務めた。
 
眩しい太陽、白くきらめく波頭—オーシャンサイドの舞台効果は絶大だ。強盗がメインディッシュ、セックス、ドラッグ、殴り合いがアペタイザー、サーフィンがデザートという構成。
 
ハイテクとは無縁のクラシックで多種多様な強盗・強奪シーンは新鮮で爽快。最大の見どころは、マインドゲームで一家を支配し続けるスマーフと、母親への愛憎が複雑に絡み合うクセのある息子たちとの対立だ。さらに、触媒的なジェイの存在が、緊張感を高める。
 
マフィアでもギャングでもない、自由を謳歌する歪んだ絆で結ばれた犯罪一家。彼らが奏でる物語には抗いがたい強烈な中毒性がある。キャラクターアークは強固で深堀りされ、兄弟間のヒューマンドラマとしても見ごたえ十分。キャラたちの行動は粗暴だがアクターたちの演技は繊細で、本作を荒っぽいだけのアクション/バイオレンスドラマと差別化している。
 
暴走し仲間割れする息子たち、敵も味方も手玉に取るスマーフ、母親に挑むバズ、犯罪の才能を開花させていくジェイ。より大胆により洗練されていく強奪計画、裏切りと試される兄弟愛、積みあがる死体。そして、『俺たちに明日はない』を髣髴させるスマーフの回想シーンが、見事に現実と交錯していく。
常に動き続けるストーリーはシーズン2から指数関数的に面白くなり、アドレナリン全開、凄絶で宿命的なエンディングに向かって疾走し続ける。
 
本作が、エミー賞・ゴールデングローブ賞にノミネートすらされたことがないという事実はちょっと受け入れがたい。
(映画データサイトIMDbの評価は8.2だ。)
“Animal Kingdom”は機能不全のアウトロー家族を鮮烈に描く、必見の“heist”(強奪)ドラマ。
生き残るのは誰だ!
 
原題:Animal Kingdom
配信:Netflix
配信開始日:2026年2月3日
話数:75(全6シーズン、1話 43-60分)
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第137回  “PLURIBUS”  

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第137回“PLURIBUS”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『プルリブス』 本予告

 
“BrBa”のクリエーターによるSci-Fiスリラー!
「史上最高のテレビドラマ」との誉れ高い“Breaking Bad”(“BrBa”)。この至高のクライムドラマを生んだヴィンス・ギリガンの最新作が本作だ(舞台も再びアルバカーキ!)。
 
“Pluribus”はApple TV(旧Apple TV+)オリジナル。癇癪もちのロマンス小説作家が人類救出の任務を担う、予測不能なポストアポカリプスSci-Fiスリラーなのだ!
 
(※)pluribus:多数、多数から。語源はアメリカ合衆国を表すラテン語「E pluribus unum(多数からひとつへ)」。
 
“We Is Us”
—14か月前
天文学者たちが、600光年先の深宇宙から発信されたシグナルを発見した。おそらく人類誕生時から送られ続けていたものだ。ようやく解読すると、それはコード化されたRNAの配列データで、生物というよりウイルスに近いものだった。
 
—29日前、米国陸軍感染症医学研究所
政府の極秘プロジェクトに携わる研究者が、実験用マウスに噛まれて溶原性ウイルスに感染。所内で集団感染が発生した。
 
—現在、ニューメキシコ州アルバカーキ
キャロル・スターカ(レイ・シーホーン)は新作発表ツアーを終えて、マネージャーで妻のヘレンと共にアルバカーキ空港に到着した。キャロルは、官能歴史ロマンス『ワイカロの風シリーズ』を大ヒットさせたベストセラー作家だ。だが皮肉屋で気難しく、自分の低俗な作品にうんざりしている。
 
深夜になって、2人は空港近くのバーを出た。
突然、キャロルを除く街中の人々が、全身を硬直させながら痙攣し始めた。特にヘレンは症状がひどく、呼吸をしていない。
人々の痙攣は数分で収まり、次々と立ち上がった。みんなフレンドリーで、心配そうにヘレンの周りに集まってくる。だが様子がおかしい。
 
ヘレンは死んだ。体が痙攣のショックに耐えられなかったようだ。茫然自失のキャロルは何とか彼女の死体をトラックで自宅まで運び、家に立てこもった。
 
唯一放送しているテレビ局の緊急連絡先に電話をすると、画面に映っているホワイトハウスの閣僚につながった。その閣僚は‘彼ら’の代表で、大統領は死亡し、パンデミックは地球を席巻しているという。今や世界中で人々がウイルスに感染して意識を同化させ、「幸福」を感じている。免疫があるのはキャロルを含めて世界でわずか12人。
代表は、彼女にも‘彼ら’の仲間になって欲しいという。
 
翌朝、キャロルの‘付き添い’となるゾーシャ(カロリーナ・ヴィドラ)が現れた。
 
レイ・シーホーンの一人舞台!
レイ・シーホーンは、“BrBa”の前日譚“Better Call Saul”(本ブログ第19回参照)の弁護士キム役でブレーク、エミー賞助演女優賞に2度ノミネートされた。今回は、最後まで「幸福」を拒絶するキャロルを壮絶に演じて、本年度のゴールデングローブ賞の最難関だった主演女優賞を勝ち取った。
本作はシーホーンの一人舞台だ。
 
ゾーシャ役のカロリーナ・ヴィドラはポーランド出身で、これが初の準主役級。シーホーンとの間には磁力のようなケミストリーが働き、キャロルとゾーシャの微妙な関係を刺激的なものにしている。
 
‘パラグアイの謎の男’マヌッソスを演じたカルロス・マヌエル・ベスガは、コロンビア生まれのベテランアクター。アメリカン・ドラマは初出演ながら重要な脇役を熱演した。
 
「‘彼ら’は幸福になったのではない。幸福に感染したのだ。」
ショーランナー(兼共同監督兼共同脚本)のヴィンス・ギリガンは、社会現象となった懐かしいSci-Fiドラマ“The X-Files”の制作・脚本に関わり頭角を現した。2008年以降、“BrBa”、“Better Call Saul”、さらに後日譚となるTVムービー“El Camino”を送り出し、“BrBa”フランチャイズを不動のものとした。
 
ギリガンは実にエミー賞に23回(受賞4回)、ゴールデングローブ賞に4回(受賞1回)ノミネートされている。
 
人々がすべての知識・経験・スキルを共有し、戦争・犯罪もあらゆる差別もない世界。個人という概念は存在せず、そこにあるのは平和・愛・理解、そして完全な公平と平等。つまり、理屈の上では100%幸福な世界だ。
これは果たしてユートピアか、ディストピアか?
 
本作はSci-Fiドラマと言っても、スペースシップやエイリアンが登場するわけではない。B級感が漂う、ブラックユーモアに満ちた心理スリラーだ。
 
劇中キャロルが一連の出来事に例えて言及するのは、SF映画の古典『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(1956)。人々の意識が同化する“hive mind”の概念は、“Star Trek: The Next Generation”のボーグを連想させる。もっとも、本作における‘彼ら’の実態は「ヒューマノイド型生成AI」に近い。
エンドクレジットに“This show was made by humans”とメッセージが出るが、いかにもAI嫌いのギリガンらしい。
 
‘彼ら’は幸福になったのではない。幸福に感染したのだ。そして主人公の使命は、世界中の「幸福な人々」を元の生活に戻すこと。確固たる世界観に裏付けられた、この笑えないほど皮肉な設定は強烈に効いている。
 
欠点は幾つかある。中盤にダレるストーリー、クセの強いキャロルのキャラ、消化不良気味のエンディングなど。
だがスリリングなパイロット(第1話)、オリジナリティのあるプロット、シーホーンの圧巻の演技、ギリガン流の奥行きのある映像美、そして次シーズンへの期待感(シーズン2まで契約済み)が欠点を補って余りある。
 
“Pluribus”は、癇癪もちのロマンス小説作家が人類救出の任務を担う、予測不能なポストアポカリプスSci-Fiスリラーなのだ!
 
原題:Pluribus
配信:Apple TV
配信開始日:2025年11月7日~12月24日
話数:9(1話 42-62分)
 
<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(1月~3月)
※過去に本ブログ(<今月のおまけ>を含む)で紹介した作品の新シーズンは除きます。
 
●“Hacks: S1-S3”(日本未公開)
エミー賞主演女優賞4連覇!74歳のジーン・スマートが伝説的な女性スタンダップ・コメディアンに扮する、辛辣な笑いと苦い感動に包まれたHBOの看板ドラマ!
(U-NEXTが配信してくれないのでUSA版DVDで観た。)
 
●“SEAL Team”(『SEAL Team シール・チーム』、U-NEXT)
“Angel”、“Bones”のデヴィッド・ボレアナズ主演、SEALs(米国海軍特殊部隊)の過酷な任務と葛藤をリアルに描き切った傑作アクションシリーズの最終シーズン(S7)!
 
●“The Lowdown”(『ローダウン 独自調査ファイル』、Disney+)
ハードボイルド・ファンにお勧め、イーサン・ホークが不屈の二流ジャーナリストを渋く演じるコメディタッチのクライムドラマ!(この副題は何とかならないか?)
 
●“The Hunting Wives”(『ハンティング・ワイブス』、Netflix)
テキサスのセレブ妻たちの醜聞・欺瞞・秘密が乱れ飛ぶ、低俗でお下劣で強烈な中毒性のあるエロティック・クライムスリラー!(これぞ“guilty pleasure”!)
 
●“Star Trek: Starfleet Academy”(『スター・トレック:スターフリート・アカデミー』、Paramount+)
シリーズ生誕60周年記念の最新作は、若き士官候補生たちの夢、友情、成長を活写する青春Sci-Fiドラマ!(67歳〈撮影時〉のホリー・ハンターの魅力爆発!)
 
●“Wonder Man”(『ワンダーマン』、Disney+)
スーパーパワーを隠して役者として生きる若者と落ちぶれたベテランアクターとの友情を描く、マーベル・ユニバースの愛すべき小品!(トレヴァー役で再出演のベン・キングズレーが唸るほど上手い!)
 
●“A Knight of the Seven Kingdoms”(『ナイト・オブ・ザ・セブン・キングダムズ』、U-NEXT)
“Game of Throns”の100年前を舞台に、根無し草の気のいい騎士と聡明な少年従士との絆を描く小粒なスピンオフドラマ!
 
●“F.B.I.”(『FBI:特別捜査班』、hulu)
FBIニューヨーク支局の現場捜査員とハイテク分析チームが、テロリスト、暗殺者、シリアルキラー、誘拐犯等を追い詰める現在最高の警察ドラマ、充実のS7!
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第136回 “IT: WELCOME TO DERRY”

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第136回“IT: WELCOME TO DERRY”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『IT / イット ウェルカム・トゥ・デリー“それ”が見えたら、終わり。』 本予告

 
“Pennywise, the Dancing Clown returns!”
本作はスティーヴン・キング原作の『IT/イット』シリーズ(2017&2019)の前日譚で、‘踊る殺人ピエロ’ことペニーワイズの誕生秘話が描かれる。
“IT: Welcome to Derry”は‘ドラマ界のレクサス’ことHBOによるオリジナル(配信はU-NEXT)。完璧に映画版を補完する、学園友情ホラーに軍事スリラーを掛け合わせた極上のスーパーエンタメ・ドラマなのだ!
 
“This is not America, this is Derry”
—メイン州デリー、1962年
雪の降る夜。なぜかおしゃぶりを咥えている男の子が、町の映画館に忍び込んだ。上映されているのは『ザ・ミュージックマン』。彼はほどなくマネージャーに追い出され、仕方なく国道でヒッチハイクを始めた。
 
その子の名前はマティ、デリー学園の生徒だ。彼を拾ってくれたのは、子連れの優しそうな中年夫婦だった。暖かい車内では、ラジオがソ連の核実験を伝えている。夫婦が卑猥なジョークを飛ばし始めた。弟はひたすら単語のスペルを唱え、姉はタッパーウェアに入った生レバーの臭いをかいでいる。何かがおかしい。
その夜、マティは行方不明になった。
 
—4か月後
デリー空軍基地に、リロイ・ハンロン少佐(ジョヴァン・アデポ)が赴任してきた。国防総省の極秘プロジェクト「プリセプト作戦」に参加するためだ。妻のシャーロット(テイラー・ペイジ)と12歳の息子ウィルもほどなく合流する。
黒人のハンロン少佐は、初日から基地内で差別を受けた。
 
リリーは1年前に父親を事故で失った。ピクルスの瓶詰工場で機械に挟まれたのだ。彼女はデリー学園のクラスメートにいじめられ、‘変人リリー’と呼ばれている。
実は、マティはリリーの秘密の友人だった。
 
デリーでは、マティだけでなく子供たちが次々と行方不明になっていた。
ある日、リリーは自宅の排水口からマティの声を聞いた。『ザ・ミュージックマン』の劇中歌だ。彼女はマティの友人2人を誘って捜索を始める。マティが最後に目撃された映画館に行く。そこで働くロニーも協力してくれた。
 
無人の館内で、ロニーは『ザ・ミュージックマン』を上映し始めた。すると、スクリーンにマティが映っているではないか。だがマティの顔はピエロに変わり、そいつは布でくるんでいた小さな怪物を解き放った。
怪物はスクリーンを突き破り、リリーたちを襲い始めた!
 
‘踊る殺人ピエロ’ことペニーワイズが27年ぶりに覚醒したことを、デリーの人々は知る由もない…。
 
“We’re losers and always will be”
本作の主役は、いじめられっ子5人組。
精神を病みながらも友人の救出を諦めないリリー(クララ・スタック)、軍人の父親からのプレッシャーに悩む理系の秀才ウィル(ブレイク・キャメロン・ジェームス)、父親の冤罪を晴らそうと奮闘するロニー(アマンダ・クリスティーン)、ちょっとズレてるリリーの親友マージ(マチルダ・ローラー)がドラマをけん引する。
そして、マージへの愛を貫き通す粋な気取り屋リッチ(アリアン・S・カルタヤ)には、不覚にも泣かされる。
彼らの合言葉は「勇気」だ。
 
映画版に続いてペニーワイズを演じたビル・スカルスガルドはスウェーデン出身。やはりS・キング原作の“Castle Rock”にも主演している。父親は“Star Wars: Andor”のステラン・スカルスガルド、兄は“Murderbot”(本ブログ第131回参照)で主演したアレクサンダー・スカルスガルドだ。
 
リロイ・ハンロン少佐役のジョヴァン・アデポは、“Jack Ryan”(本ブログ第55回参照)、“When They See Us”(本ブログ第57回参照)で準主役を演じた。
 
“Thank you for visiting Derry”
立案および製作総指揮は、アンディ&バーバラ・ムスキエティの弟姉コンビ。映画版2作ではバーバラが製作、アンディが監督を務め、ドラマ版ではアンディは共同監督に名を連ねる。
 
エンタメ作家を「質x量」で評価すると、スティーヴン・キングは文句なしに史上最強だ。原作小説『IT』(1986)は、膨大なキング作品の中でもトップ3に入る屈指の名作。この一作がなければ、超人気の“Stranger Things”(本ブログ第32回参照)も生まれなかった。
 
ムスキエティ弟姉は、その唸りを上げる‘キング節’を原作の雰囲気そのままに見事に映像化した。
 
本作は、『スタンド・バイ・ミー』(1986、これもキング原作)の美しいホラーバージョン。軍事スリラーの要素がスパイスとして効いている。
ストーリーは原作と映画版からインスピレーションを得たオリジナル。ジョン・F・ケネディが大統領で、ソ連との冷戦下にある時代。舞台は、警察の腐敗と黒人差別が未だ色濃く残る、メイン州の廃れた町。
 
レトロ調のオープニング・クレジットが秀逸。パイロット(第1話)の冒頭約10分間の‘キモ怖さ’は別格で、観る者を一気にこの数奇な物語に引きずり込む。現前の超常現象と登場人物の空想が混然一体となり、キングの世界観が広がってゆく。
 
エピソードが進むにつれ、リリーを中心とした5人の仲間は絆を深めていく。警察に助けを求めても、信じるはずがない。一方でハンロン少佐は、「プリセプト作戦」に深く係わっていく。彼らの運命が交錯するとき、ペニーワイズ誕生の謎が明らかになり、デリーの町は恐怖に支配される。
戦慄と感動の最終話は文句なしの出来栄えで、68分間がアッという間だ。
 
“IT”ユニバースは映画、ドラマ、小説、どれから入っても楽しめるが、できればセットですべて堪能して欲しい。
“IT: Welcome to Derry”は完璧に映画版を補完する、学園友情ホラーに軍事スリラーを掛け合わせた極上のスーパーエンタメ・ドラマなのだ!
 
ペニーワイズのあの高笑いはシーズン2で戻ってくるはずだ。(本稿執筆時点では、HBOによるシーズン2の制作発表はない。)
 
原題:IT Welcome to Derry
配信:U-NEXT
配信開始日:2025年10月27日~12月15日
話数:8(1話 53-68分)
 
<今月のおまけ> 「これもお勧め、S・キング原作の非ホラー系ドラマ!」
S・キング原作のドラマは「非ホラー系」も傑作ぞろいなので、この機会に押さえておこう。
 
●“The Dead Zone”(2002-2007):A
●“Under the Dome”(2013-2015):B+
●“11.22.63”(リミテッド・シリーズ、2016、本ブログ第25回参照):A+
●“Mr. Mercedes”(2017-2019、本ブログ第50回参照):A
●“The Outsider”(リミテッド・シリーズ、2020):B+
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第135回 “THE BEAST IN ME”(『BEAST ー私のなかの獣ー』)

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第135回“THE BEAST IN ME”(『BEAST ー私のなかの獣ー』)
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『BEAST -私のなかの獣-』 本予告

 
スパイスリラーのエース対決が楽しめる極上のサイコスリラー!
年頭を飾る本作は、傑作スパイスリラーの主役2人“Homeland”のクレア・デインズと、“The Americans”のマシュー・リスが激突するNetflixのリミテッドシリーズ。本年度のゴールデングローブ賞作品賞、主演女優賞(デインズ)、主演男優賞(リス)にノミネートされた。
“The Beast in Me”は、引きこもりの作家とサイコパスの実業家による極限の頭脳戦・心理戦が展開する極上のサイコスリラーなのだ!
 
“What did you do?”
—ニューヨーク州郊外の町オイスターベイコーブ
アギー・ウィッグス(クレア・デインズ)は、7年前に自叙伝『病める子犬 父への手紙』でピューリッツァー賞を取ったベストセラー作家だ。彼女の父親はサイコパスの詐欺師だった。
 
4年前、アギーの人生は一変した。8歳の息子クーパーを交通事故で失ったのだ。彼女は精神的に追い詰められ、やがて妻のシェリー(ナタリー・モラレス)とも離婚した(アギーはゲイだ)。
今は修理の必要な屋敷に引きこもって、トイプードルと暮らす毎日だ。執筆は進まず、常に怒りを抱え、経済的にも困窮している。
 
ナイル&ニーナのジャーヴィス夫婦(マシュー・リス&ブリタニー・スノウ)が隣に引っ越してきた。ナイルは世間を騒がせている不動産王で、失踪した前妻の殺人容疑が不起訴になったばかりだ。
アギーとナイルは初対面で衝突した。ジャーヴィス家の2匹の大型番犬とセキュリティシステムの騒音がアギーをいらつかせ、さらにナイルが提案している地域のジョギングコース建設に彼女が反対したからだ。
 
ナイルは仲直りのためにアギーを強引にランチに誘った。席上でナイルは次作が行き詰ったアギーに、「僕の本を書けばいい」と持ちかけた。
多少打ち解けたアギーは、「息子を殺した若者テディ・フェニグを苦しめてやりたい」と本音を吐露した。テディは飲酒運転を疑われたが無実となっていた。激高してテディをストーキングしたアギーは、接近禁止令を言い渡されていた。
 
その夜、アギーの自宅に雨に濡れて酔っ払ったFBI捜査官ブライアン・アボット(デヴィッド・ライオンズ)が突然現れる。アボットは「ナイルには用心しろ」と伝えると去っていった。彼は、ナイルの元妻マディソン失踪事件の主任捜査官だった。
 
翌朝、テディ・フェニグの自殺が報じられた。
そして、アギーはナイルについての本を書く決心をする…。
 
“BrBa”のジョナサン・バンクスが参戦!
クレア・デインズは、17歳の時にレオナルド・ディカプリオと共演した『ロミオ+ジュリエット』(1996)で一躍アイドルとなった。8シーズン続いた傑作スパイスリラー“Homeland”では、双極性障害の辣腕CIAエージェント、キャリー・マトソンを演じてエミー賞&ゴールデングローブ賞に輝いた。主演・助演賞ノミネートはエミー賞8回(受賞3回)、ゴールデングローブ賞7回(受賞4回)を数え、今や大女優の風格だ。デインズはキャリーを髣髴させる今回のアギー役でも、鬼気迫る演技力で観る者を圧倒する。(得意の「顔芸」も健在。)
 
英国出身のマシュー・リスは、ケリー・ラッセル(!)と共演した冷戦下のスパイスリラー“The Americans”(本ブログ第6回参照)で、ソ連のスリーパーエージェントを演じて大ブレークした。タイトルロールを演じた“Perry Mason”も見応え十分で、両作品を中心にエミー賞5回(受賞1回)、ゴールデングローブ賞には4回ノミネートされている演技派だ。今回は、カリスマのあるナルシストでサイコパスの実業家ナイルを気持ちよさそうに演じている。(メーク強め。)
 
ワイルドカードとなるナイルの妻ニーナ役のブリタニー・スノウ、唯一正常に見えるアギーの元妻シェリー役のナタリー・モラレス、自己破滅型FBI捜査官アボット役のデヴィッド・ライオンズ、そして汚い仕事を一手に引き受けるナイルの叔父リックを演じるティム・ギニー。いずれも適材適所で、各役柄はエピソードが進むにつれて重要度が増す。
 
観逃せないのが78歳のジョナサン・バンクス。“Breaking Bad”およびスピンオフの“Better Call Saul”(本ブログ第19回参照)のフィクサー、マイク・エルマントラウトが一世一代のハマり役で、エミー賞に5回(トータル6回)ノミネートされている。本作では、ナイルの強面の父親マーティン・ジャーヴィスを圧倒的な存在感をもって演じてみせた。
 
「内なる獣」の対決!
クリエーター(兼共同脚本)のゲイブ・ロッターは、懐かしの“The X Files”最終シーズンに係わり、また作家でもある。ショーランナー(兼共同脚本)のハワード・ゴードンは“24”をメガヒットさせた後、前述の“Homeland”で絶賛された。
また製作総指揮には、(なぜか)ジョディ・フォスターと人気TVホストのコナン・オブライエンが名を連ねる。
 
力強さと脆弱さをオン/オフで切り替えるデインズと、温厚性と衝動性を行き来するリス。本作最大の見どころは、この2人が生み出すケミストリーだ。
そして、インタビューと駆け引きを通じて芽生える、アギーとナイルの歪んだ共感、友情、絆、愛情、—その危うさと気持ち悪さが、また何とも言えない作品の魅力となっている。
 
ストーリーは大胆で繊細な脚本に乗って、嘘と疑念を積み重ねながら深く静かに潜航する。散見されるご都合主義は、高まる緊迫感で巧みに覆い隠される。
次第に露呈するアギーとナイルの過去。
マディソンとテディに何が起きたのか?
そして衝撃のエンディングと不穏なエピローグまで、加速度的に面白くなる。
 
本作は、主人公2人が共に抱える「内なる獣」が対決する物語。
“The Beast in Me”は、引きこもりの作家とサイコパスの実業家による極限の頭脳戦・心理戦が展開する極上のサイコスリラーなのだ!
 
原題:The Beast in Me
配信:Netflix
配信開始日:2025年11月13日
話数:8(1話 41-54分)
 
<今月のおまけ> 「これは必携、アメリカン・ドラマを楽しむためのお役立ち本!」⑤
●『日本人が知っておくべきアメリカのこと』(中林美恵子、辰巳出版、2025)
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写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 

Tipping Point Returns Vol.33 「本物の翻訳」と出会った日

単純な全文訳ではない、テストでそう書いたら×になる、でも、伝えたい人のほんとうの想いがすーっと心に入り込んで、じわっと染みてくる――。そんな訳文に出会ったことはないだろうか。私にはある。出会ってから50年が経つ今も色褪せることはなく、「翻訳のあるべき姿」を考える際には必ず見つめ直すことにしている。

『手をとりあって』という洋楽をご存じだろうか。原題は「Teo Torriatte (Let Us Cling Together)」。1976年に英国のロックバンドであるクイーンが発表したアルバム『華麗なるレース(原題;A Day at the Races)』に収録された一曲だ。2018年の映画『ボヘミアン・ラプソティ』が大ヒットしたことで、クイーンは単なる‘懐かしいバンド’ではなくなった。今も「全盛期には生まれてないけど知っている。好き!」という人は少なくないだろう。

初期のクイーンは、本国や米国ではいろもの扱いだったものの、どういうわけか日本では爆発的な人気を博していた。リーダーでギターリストのブライアン・メイやボーカルの故フレディ・マーキュリーは、その驚きと喜びを様々なメディアで語っている。そんな時代に作られたバラードが「Teo Torriatte (Let Us Cling Together))」だ。お気づきだろう。邦題の『手をとりあって』は和訳でもいわゆる創作訳でもない。そのままの置き換えである。

私が「本物の翻訳」と衝撃を受けたのは、曲名や歌詞の対訳(ライナーノーツなどに付ける解説訳)ではない。オリジナルの歌詞の中に原文と訳文が同居している部分だ。引用しよう。

Let us cling together as the years go by. Oh my love, my love.
In the quiet of the night, let our candle always burn.
Let us never lose the lessons we have learned.

皆さんならすぐに頭の中に和訳が浮かぶだろう。曲のサビに当たる箇所だ。実際の歌では、このあとにもう一度同じ旋律で同じ内容のサビが繰り返される。ただし、今度は日本語だ。

手をとりあってこのまま行こう、愛する人よ。 
静かな宵に光を灯し、愛しき教えを抱き。

たった2つのセンテンス。あまりにも簡素で美しく、ため息しか出ない。曲を聴いてもらえばわかるが、溢れることも不足することもなく、元の旋律に見事に調和している。語数が完璧なのである。しかも、静かな宵「に」、光を灯「し」、愛しきお教えを抱「き」と、英語の歌詞には不可欠の韻を踏むことも忘れない。だから日本語ネイティヴではなくても歌いやすい。聴く私たちの耳にも違和感なく、はっきりと届く。

初めてこの曲を聴いた頃の私には、今のように味わい尽くすまでの知識も感性もなかったが(翻訳というのはこういうことなんだ)と衝撃を受けた。

この翻訳をしたのは、クイーン来日時に通訳を務めたChika Kujiraokaという方だという。ネットで検索すると「鯨岡ちか」という表記でクイーンやこの曲との関わりを示すものがいくつか見つかる。当時、海外のロックバンドの通訳兼アテンドについた人が、通訳業だけを生業とするプロだとは想像し難い。肩書として翻訳者を名乗っていたとも思えない。

でもこの2文は本物だ。ネット検索では鯨岡さんらしき人とクイーンのメンバーがおそらくオフの日に観光地で撮ったのであろう写真がある。クイーンを受け入れ、愛し、同時に日本と日本のファンのことを知ってほしいという想いが、その笑顔からはあふれているように見える。

彼女が翻訳という行為をどう考え、意識したのかはわからない。しかし、この仕事は間違いなく「本物の翻訳」だ。彼女の仕事は半世紀にもわたり私の心と頭の中で息づいている。きっとこれからも。だからそう断言できる。

「本物の翻訳」とは何か。それはオリジナル言語のコンテンツに対するあふれんばかりの興味、愛情、知識、そして想いや願い、時には祈りを、驚くほど簡素で読みやすい(聴きやすい)ことばに置き換えて、優しくそっと差し出す行為だ。そんな想いを共有できる修了生や受講生、目指す人と共に過ごせている私は幸せだ。

きっと皆さんにも「大切にしている、理想としている翻訳」があるだろう。ぜひこの冬休みに思い起こしてほしい。思い当たらなければ、これから出会えばいい。壁にぶつかったとき、悩んだとき、乗り越えるための力やヒントを与えてくれるはずだ。(了)

追記 同じような記憶や大切にしている翻訳、好きな翻訳があればぜひ教えてください! 感想や意見も大歓迎です。 ☞niiraアットマークjvtacademy.com 
※アットマークを@に置き換えてください。

☞JVTAのslackアカウントを持っている方はチャンネルへの書き込みやniira宛てのDMでもOKです。

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Tipping Point Returns by 新楽直樹(JVTAグループ代表)
学校代表・新楽直樹のコラム。映像翻訳者はもちろん、自立したプロフェッショナルはどうあるべきかを自身の経験から綴ります。気になる映画やテレビ番組、お薦めの本などについてのコメントも。ふと出会う小さな発見や気づきが、何かにつながって…。
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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第134回 “THE TERMINAL LIST: DARK WOLF”

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第134回“THE TERMINAL LIST: DARK WOLF”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『ターミナル・リスト ~闇の狼~』 本予告

 
“The Terminal List”からのスピンオフ!
本年最後のイチ押しは、クリス・プラット主演の傑作アクションスリラー“The Terminal List”(本ブログ第93回参照)の前日譚。同作の重要なキャラクター、ベン・エドワーズの物語だ。
 
“The Terminal List: Dark Wolf”はAmazon Primeオリジナル。CIA工作員へと転身する元SEALs兵士の過酷な戦いを活写する、凄絶なスパイアクション・ドラマなのだ!
 
“May our courage exceed our level of violence”(「勇気が暴力に勝らんことを」)
—2015年、イラク北部の都市モスル
ベン・エドワーズ(テイラー・キッチュ)は、SEALs(米国海軍特殊部隊)チャーリー小隊のチーフだ。ベンは上官のレイフ・ヘイスティングス中尉(トム・ホッパー)らとともに、モスル郊外の同盟軍訓練施設でイラク治安部隊の兵士を訓練している。
彼らの目的は、過激派組織IS(イスラム国)を壊滅することだ。
 
治安部隊とISの間で捕虜交換が行われることになった。ISの幹部アル・ジャブーリを釈放する代わりに、民間人の捕虜18人が返還される。ベンとチャーリー小隊も同行した。
橋の上で行われた交換は銃撃戦となり捕虜数人が死亡、ベンの腹心の部下で治安部隊所属のダラン・アミリ軍曹も重傷を負った。そして人質に仕掛けられていたIED(簡易爆弾)が爆発、アル・ジャブーリは行方をくらました。
 
—3か月後
ジェームズ・リース中尉(クリス・プラット)率いるアルファ小隊が到着した。チャーリー小隊による訓練を引き継ぐためだ。ジェームズ、ベン、レイフは戦友だ。
負傷したダランも家族とともに姿を見せた。左足を切断したにもかかわらず、母国のために軍務に復帰するという。
 
ある日、ベンたちがモスル市内へ偵察に向かう途中に訓練施設で自爆テロが発生、兵士7人が犠牲となった。
犯人はダランで、義足にIEDを仕込んでいた。ISに家族を人質に取られ、自爆テロを強要されたのだった。彼の妻も殺され、2人の子供は誘拐されていた。
 
復讐を誓うベンは、レイフ、ジェームズらとともに、独断で自爆テロの首謀者アル・ジャブーリのアジトを急襲する。
 
その結果、ベンとレイフは除隊を余儀なくされた。
後日、2人はCIAからのオファーを受けることになる…。
 
“Long live the brotherhood”(「絆よ、永遠なれ」)
ベン・エドワーズ役のテイラー・キッチュは、青春スポーツドラマの名作“Friday Night Lights”が代表作。陰のあるランニングバックのティムを演じてブレークした。最近では、西部開拓時代の硬派ドラマ“American Primeval”(『アメリカ、夜明けの刻』)に主演している。
本作ではイケメンぶりも控えめに、SEALsの信念を貫き通す新米CIA工作員を熱演する。
 
トム・ホッパーと言えば、痛快なスーパーヒーロー・ドラマ“The Umbrella Academy”(本ブログ第80回参照)で演じた童貞の怪力男ルーサーを思い出す。今回は、頼れる元SEALsの指揮官レイフ・ヘイスティングス役へ見事にイメチェンした。
 
ベンとレイフをヘッドハンティングするジェド・ハバフォード役のロバート・ウィズダムは、見覚えがあると思ったら懐かしい“The Wire”と“Prison Break”のレギュラーだった。強面で食えないCIAイラン工作部長にぴったりだ。
 
CIAのリエゾンでモサド工作員のイライザとタルを、イスラエル生まれのロナ=リー・シモンとシラーズ・ツァルファティが好演する。
 
脇へ回ったクリス・プラットは2つのエピソードに出演し、ジェームズ・リースを渋く演じてみせた。
 
元SEALsの矜持の物語!
ショーランナー(兼共同脚本)は“The Terminal List”と同じくデヴィッド・ディジリオ。骨太なストーリーはジャック・カーの原作ではなく、2人によるオリジナルだ(カーは製作総指揮と共同脚本も担当)。
 
ドラマの根幹にブレがないのは、実際にSEALsで20年のキャリアを持つカーの経験が細部にまで生かされているからだ(因みに、カーの小説は出版に政府の承認が必要で、削除された部分が黒塗りになっている)。上層部に翻弄される兵士たちの怒り、各オペレーションの立案過程、銃器の扱い・銃撃戦などの描写は圧倒的にリアルだ。
デヴィッド・ディジリオは、このリアリティとエンタメ性を絶妙なバランスで両立させて、見事に差別化している。
 
キャラクター・アーク(人物の成長や変化の軌跡)も鮮やかだ。直感型のベンは、官僚主義的な制約の多い軍隊から離れることで、スパイとしての才能を開花させる。だが立場が変わっても、「前線で戦う仲間たちを守る」という強固な信念は揺るがない。
一方レイフはCIAの冷酷で人命軽視のやり方になじめないが、ベンの背中を守る覚悟はできている。この高潔な兵士2人のコントラストがドラマに厚みを与えている。
 
舞台はジュネーブ、ウィーン、ミュンヘン、ブダペストなどヨーロッパ各地の都市。ストーリーの中心は、新技術で一気に核兵器開発を進めるイランと、それを阻止しようとするCIA工作員たちの非情なスパイ戦だ。ベンとレイフは諜報世界の欺瞞に翻弄されながらも、突破口を探る。終盤にはスパイドラマらしく連続ツイストが炸裂し、エンディングまで目が離せない。
 
“The Terminal List”(2022)以降、これほどのアクションドラマにはお目にかかれなかった(リー・チャイルド原作の“Reacher”が最も近いか)。結局、プロット、キャラクター、アクションと3拍子揃った本作がスピンオフとして登場するまで、われわれは待たされたわけだ。
 
ベンとレイフのハートはあくまでCIAではなくSEALsにある。つまり本作は、元SEALsの矜持の物語だ。
“The Terminal List: Dark Wolf”は、CIA工作員へと転身する元SEALs兵士の過酷な戦いを活写する、凄絶なスパイアクション・ドラマなのだ!
 
本作はオリジナルを観ていなくても問題なく楽しめる。
“The Terminal List”のシーズン2は、クリス・プラットが忙し過ぎて撮影が遅れていたが、来年配信されるようだ。本作のシーズン2とセットで早く観たい!
 
原題:The Terminal List: Dark Wolf
配信:Amazon Prime Video
配信開始日:2025年8月27日~9月24日
話数:7(1話 50-67分)
 
<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(10月~12月)
※本ブログで過去に紹介した作品の新シーズンは除きます。
 
●“NCIS: Tony & Ziva”(『NCIS:トニー&ジヴァ』、Paramount+他)
“NCIS”ファン必見、同番組から去った人気キャラ2人が国際的陰謀に巻き込まれ、ヨーロッパで逃亡者となるコメディタッチのアクションドラマ!
 
●“The Chair Company”(『チェア・カンパニー』、U-NEXT)
家具メーカーにクレームをつけた強迫性障害の男(“SNL”のティム・ロビンソン)にとんでもない悪夢が降りかかる、アクの強い不条理ダークコメディ!
 
●“Black Rabbit”(『ブラック・ラビット』、Netflix)
ジュード・ロウ&ジェイソン・ベイトマン共演、NYでレストランを経営する弟とギャンブル依存症の兄が負のスパイラルに陥る極上のクライムドラマ!
 
●“Task”(『TASK / タスク』、U-NEXT)
元牧師のFBI捜査官(マーク・ラファロ)と、麻薬ディーラーばかりを狙うシングルファーザーの強盗(“Ozark”のトム・ペルフリー)の熱い戦いを描くヒューマン・クライムドラマ!
 
●“Death by Lightning”(『デス・バイ・ライトニング』、Netflix)
1880年に期せずして第20代合衆国大統領に選出されたJ・ガーフィールドが、妄想狂の男に暗殺されるまでの200日間を描く、地味ながら予想外に面白い実話ドラマ!
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。