News
NEWS
明けの明星が輝く空にinCO

明けの明星が輝く空に 第185回 昭和100年!

明けの明星が輝く空に 第185回 昭和100年!

ことし2025年は、“昭和100年”。それに合わせたのか、今年の2月に始まったスーパー戦隊シリーズ50周年記念作品、『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』第10話には、昭和をこよなく愛する怪人が登場。ヒーローたちと“昭和対決”を繰り広げた。

スーパー戦隊シリーズの愛すべき特徴は、肩肘を張らずに観られる「緩さ」だろう。しかし、ウルトラシリーズや仮面ライダーシリーズも、最近はだいぶ緩くなった印象で、その差はなくなってきている。スーパー戦隊モノの存在意義が問われる事態(?)なのだ。

このピンチを脱するカギは何か。それは。楽しくなるほどの“バカバカしさ”しかない!振り返れば、シリーズ第1作『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975年~1977年)は、怪人の倒され方が呆れるほどしょうもなく、そして楽しかった。たとえば“風車仮面”は、強力な扇風機の風を当てられ、頭部の風車が逆回転してしまい爆死。“眼鏡仮面”は、視力検査で「ダ・イ・ナ・マ・イ・ト」と読まされて爆死。まるでコントの世界である。ウルトラマンやライダーには、とうてい真似できない。

『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』は、そんなゴレンジャーのDNAを受け継いでいる。そう感じさせてくれたのが、第10話「イケイケドンドン!昭和が来た!」だ。“ノーワン”と呼ばれる怪人たちの1体、第10話に登場した“昭和ノーワン”は、突然町中に現れ「昭和のすばらしさを教えてやる」と言って周辺の景色を昭和に変えてしまう。(といっても、実害は何もない!)

先攻は昭和ノーワン。取り出したのは、昭和の遊びの王道アイテム、めんこだ。「勝った者が総取り!」と言って子どもたちを泣かせる。続いて、カセットテープを使っての睡眠学習。角乃から「こんなんで勉強できんの?」とツッコミが入るが、「できない!だが、それが昭和だ!」と胸を張る。対する禽次郎は、健康器具のエキスパンダーや、昭和の名曲「真っ赤な太陽」に合わせてのゴーゴーダンスで対抗。しかし、判定では昭和ノーワンに軍配が上がってしまう。

その後、アンテナ付のテレビの前に座り、昔の特撮テレビ番組を観て、ちゃぶ台でのり弁を食べるなど、昭和を満喫する昭和ノーワン。このバカバカしさ。楽しい!そして楽しいと言えば、いつの間にか自分のスマホが黒電話になっているのに気づいた角乃が驚くと、パッと映像が切り替わり、軽快なリズムの主題歌が始まるテンポの良さも秀逸。思わず、画面の中で曲に合わせて踊るヒーローたちと、一緒になって踊り出したくなった。

ただし、そんなバカバカしさの裏に、真面目に考えるべきものがあったことも忘れてはならない。普通に考えれば、変化を拒む昭和ノーワンの懐古主義的な態度が糾弾され、現在に目を向け進歩することの大切さを訴えることで、ヒーローたちに逆転勝利のシナリオが用意されるだろう。しかし意外だったのは、昭和が否定されなかったことだ。禽次郎は、昭和の人々が未来を良くしようとがんばっていたから令和があると指摘し、「昭和とは前に向かう精神。過去にすがるだけのお前こそ、昭和スピリッツを忘れている」と言って昭和ノーワンを倒す。(実を言うと、この台詞にドキッとさせられたことを告白しておこう。)

これを、シリーズ45作目『機界戦隊ゼンカイジャー』(2021年~2022年)の第15話「ガチョーン!レトロに急旋回」と比べると興味深い。そこでは、怪人がレトロな世界を現出させ、昔を懐かしむ人々の精神を過去に閉じ込めてしまうのだが、自分たちは今を生きる未来びとだというヒーローたちによって倒される。過去は否定されないが、現在との連続性は絶たれ、忘却の彼方に追いやられる。一方、ゴジュウジャー第10話の脚本を書いた井上亜樹子氏は、昭和か令和かという二者択一ではなく、どちらも内包する考え方を示して見せた。大きな意味では、多様性を認めるという姿勢であり、より今の時代に則したものになっているのだ。

また井上氏は、昭和というのは「おおらか」な時代で、「令和の人類に必要なのは昭和だー!」と、昭和ノーワンに言わせているが、最近の世相に照らし合わせて考えると、この台詞が持つ意味は重い。SNSが広まってからだろうか。最近は、おおらかさとは対極の空気が蔓延しているように感じる。ダイレクトに意見を表明できる場が増えたのはいいが、他人を否定する言葉が多く飛び交うようになってしまった。そんな書き込みをするのは一部の人であっても、まるでそれが世論か何かのような空気にもなる。物語の進行上、「おおらか」という台詞は埋没気味だったが、一言一句精査して書く脚本家は、当然そこにも何らかの思いを込めていただろう。

『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』はこのあと、第11話で鬼ごっこ対決、第13話でマナー対決が行われた。怪人がヒーローのマナーにダメ出しするなど、観ていて思わずニヤニヤする。楽しいバカバカしさは、人の心を明るくする。ぜひゴジュウジャーには、迷わずこの路線を推し進めてもらいたい!いま僕は、真剣にそんなことを考えている。

—————————————————————————————–
Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。

【最近の私】みうらじゅんという人はスゴイ。「マイブーム」という言葉を作った話は有名ですが、老いという「”しょうがないこと”に”しょうもないこと”をぶつけるのが一番」ということで、「アウト老」とか「老けづくり」を提唱。最近知ったのは、「還暦過ぎればみんな同い年」という言葉。ああ、これからは師匠と呼びたい!

—————————————————————————————–

明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る 

バックナンバーはこちら

◆【映像翻訳にご興味をお持ちの方は今すぐ「リモート個別相談」へ!】
入学をご検討中の方を対象に、リモート個別相談でカリキュラムや入学手続きをご説明します。
※詳細・お申し込みはこちら