News
NEWS
voiceinTYO

【英語字幕PROゼミレポート】テンポよく、言葉遊びを生かす字幕を作るには?

【英語字幕PROゼミレポート】テンポよく、言葉遊びを生かす字幕を作るには?
Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭はデジタルで撮影・制作された作品のみにフォーカスした国際コンペティションです。若手映像クリエイターの登竜門としても知られており、これまで、白石和彌監督や中野量太監督、上田慎一郎監督などを輩出。未来の巨匠に出合えるのが最大の魅力です。JVTAはこの映画祭を英語字幕の制作でサポート。今年も6本の日本の作品の英語字幕を担当し、修了生が活躍しています。

こうした映画祭は、映像翻訳者にとっても実践的な経験を積める貴重な場です。JVTAでは、毎年「英語字幕PROゼミ」を開催。これは、映画祭で上映予定の作品にゼミ形式で字幕を付けるもので、MTCの翻訳ディレクターから2度のフィードバックを受けて短編の字幕を完成させます。

 
今回は、武田佳倫監督の『そして私はパンダやシマウマに色を塗るのだ。』(英題:Then I add colors to a panda and a zebra.)の英語字幕を制作するゼミを紹介。板垣七重ディレクターが担当するチームの2度のフィードバックの様子を取材しました。字幕を担当したのは、JVTAの日英映像翻訳科修了生です。

 
『そして私はパンダやシマウマに色を塗るのだ。』は、世の中のすべてに白黒をつけたい漫画家志望の女性、黒星白星の恋と葛藤を描く物語。冒頭からテンポのよい独白で始まり、言葉遊びもふんだんに盛り込まれるなど、言葉の選び方が問われる作品です。字幕をよりブラッシュアップするために、ゼミではどんな話し合いが行われたのでしょうか?
いくつかの例を具体的にご紹介します。


 
◆ヒロインの独白シーンの中の一言 1
だって私は完璧な毎日。
完璧な人生。


 
第1稿 Perfect days for me.
A perfect life.

 
第2稿 Everyday is perfect.
My perfect life.

 
板垣ディレクター どちらも意味は間違っていませんが、ここはテンポのよい独白のなかの1節なので、リズムが大切です。字幕でも見た目でそれが分かるように工夫してみましょう。

 
最終稿 Everyday is perfect.
My life is perfect.

 
JS_Then - コピー
©eiken

 
◆ヒロインの独白シーンの中の一言 2
なのに最近の若者って、
うまいもん食っても、ヤバい。
まずいもん食っても、ヤバい。


 
第1稿 For kids these days,
It’s always “sick” no matter what.

 
第2講 But young kids these days say:
“Yowza!” no matter what they eat.

 
板垣ディレクター ポイントは「ヤバい」をどう訳すか。以前は、悪い意味で使われていましたが、最近はいい意味でもよく使いますよね。そのニュアンスを出したいところです。Sickは食べ物にはあまり使わない表現。Whoa!なども感嘆のスラングとしてよく使われます。Yikes!はネガティブな印象。Yowza!は少し古い表現です。こうしたことを考慮し、OMG! はどうでしょう。Oh my GodやOh my gosh!の略語ですが、こちらもいい意味でも悪い意味でも使いますし、「ヤバい」と同じように頻繁に使われる表現です。

 
最終稿 But young kids these days say,
“OMG!,” no matter what they eat.

 
◆恋人、冬馬くんからの別れ話に対する一言
だって冬馬くん私と結婚したいって、缶ガラガラ言わせたいって

 
第1稿 You said you wanna marry me and rattle the tin cans.

 
第2稿 You said you wanna marry me and get on the wedding car.

 
板垣ディレクター 「缶ガラガラ言わせる」という意味をもっとシンプルに分かりやすくしましょう。「あの車に乗りたい」というニュアンスが出せればいいですね。「hire」や「Wedding car」 というワードを出すとより明確になります。さらに「hop in」(飛び乗る)という動詞にすると映画などでよく見るシーンに近くなるでしょう。

 
最終稿 You said you wanna marry me and hop in a wedding car.

 
JS_Then_SUB - コピー
©eiken

 
◆ヒロインが初対面の占い師と言い合う場面
それに、そのダサい色眼鏡は外したほうがいいわよ

 
第1稿 Second, stop seeing things through your tinted glasses.

 
第2稿 Second, stop seeing things
through your tacky tinted glasses.

 
板垣ディレクター 「ダサい」というニュアンスを出したいですね。他者を美化して、その人の良いところだけを見て悪いところに気付かないふりをする、という意味でrose-coloredを使ってみましょう。

 
最終稿 Second, stop seeing things
through your rose-colored glasses.

 
◆ヒロインが恋人の冬馬くんの魅力を延々と語る場面
唇から左斜め27度と43度の角度に黒子がある男で

 
第1稿 He has moles at 27 degrees and 43 degrees upper left of his lips.

 
第2稿 He has charming two moles
in upper left quadrant of his oral region.

 
板垣ディレクター ここは具体的な数字が重要というよりも、白星の性格が伝わることが大切なので、小難しい表現を使って言い換えても面白いと思います。たとえば、円の4分の1を意味する“quadrant”というワードをあえて使ってもいいでしょう。また、唇を“lips”という代わりにわざわざかしこまった“oral region”と言ったりするのも面白いですね。

 
最終稿 He has two moles in the upper left
quadrant of his oral region.

 
JS_Then_SUB2 - コピー
©eiken

 
英語字幕を手がけた翻訳者の皆さんのコメント
◆阿部サンディさん
私が担当している箇所は一番最初のパートで、台詞のテンポも早くて量も多いので、ハコ切りにかなり苦労しました。
そして、台詞を英訳するのもいかに言葉を対照的に表現するのかも悩ましかったです。
特に作品のオープニングは主人公のキャラクターにとってかなり肝心なので、台詞のニュアンスまたはワードチョイスに時間をかけて考えました。フィードバックの時に講師からのご指導とチームメンバーからのご提案で修正もできて、大変勉強になりました。今まで講義でもトライアルでも様々な課題を取り組んできましたが、本作品は特に印象に残った1作で、とても楽しい経験になりました。

 
◆サトー麻利子さん
今回の作品は台詞のテンポが速く、日本特有の言い回しなども出てきたので、とても勉強になりました。全てを白か黒で判断する主人公がよく使う「100点」「0点」の訳し方は、点数の付け方は国によって違うので特に悩みました。また、他の方の字幕に自分では思いつかなかった訳し方があり、眼から鱗でした。フィードバックも1行1行見てもらえ、ハコ切りやカット変わり処理の復習にもなったので、とてもありがたかったです。お仕事ではフィードバックをもらえることや他の方の字幕を見れることはないので、自分の字幕を見つめ直すいい機会になりました。

 
◆竹谷千里さん
言葉遊びやリズムの面白さが散りばめられた作品だったので、その楽しさを残しつつ、視聴者に伝わる字幕にすることが難しく、どう表現すればよいのか、最後まで悩みました。
完成に至るまでの間に、他の方の字幕を見ることで異なる視点や表現方法を学んだり、自分の字幕が持つ癖が分かったりするのは、チーム翻訳ならではの経験だったと思います。フィードバックでは、「ああでもない、こうでもない」と一緒に悩んでくださったり、問題点を指摘してくださったりと、「どうすれば解決できるか」という考え方を教えていただきました。ゼミで学んだことを今後に生かしていきたいと思います。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
PROゼミのメリットは、チーム翻訳や講師のフィードバックで他者の意見を聞きながら学べることに加え、プロとしての仕事の進め方を具体的に体験できることにあります。言葉通りに訳すだけではなく、映像のニュアンスをより伝えるために、工夫を凝らして英語字幕が完成しました。ぜひ、皆さんも字幕にも注目しながらご覧ください。

 
◆国内コンペティション 短編部門 『そして私はパンダやシマウマに色を塗るのだ。』
詳細はこちら
◆『そして私はパンダやシマウマに色を塗るのだ。』武田佳倫監督インタビュー 「英語字幕に観客への気遣いを感じました」
詳細はこちら

 
2020_MV-new_Kime-CM_Last-FIX - コピー
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020
9月26日(土)~10月4日(日)
※今年はオンライン開催。お好きな時間にお好きなだけ自宅から見られます(有料)。
公式サイト https://www.skipcity-dcf.jp/ 

 

Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page