News
NEWS
voiceinTYO

ベテラン通訳者が教える 映像翻訳者こそ、通訳に挑戦したい理由

ベテラン通訳者が教える 映像翻訳者こそ、通訳に挑戦したい理由
Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page

翻訳者・通訳者として20年以上のキャリアを重ね、JVTAロサンゼルス校で通訳クラスと実務翻訳クラスの講師を務める比嘉・ディッキンソン・佐恵子さん。中学時代に通訳という仕事に興味を持ち、同時通訳者の鳥飼玖美子氏や村松増美氏、國弘正雄氏、西山千(せん)氏らにあこがれて彼らの本を読んでいた。大学時代に初めて通訳を経験したものの、当時は逐次通訳はよく分かったと喜ばれた一方で、同時通訳はまったくできなかったという。これが「通訳者は語学力があればよいのではない。専門的なトレーニングが必要なのだ。」と強く感じる経験となった。ディキンソンさんは、通訳のスキルは映像翻訳にも役立つと話す。映像翻訳者こそ、通訳に挑戦したい理由とは何か?これまで自身が実践し、指導してきた学習法や実践的なスキルについて伺った。
 

◆通訳の現場は一発集中 瞬発力を磨くのが鍵
DSC08300
自宅でじっくりと自分のペースで作業に集中できる映像翻訳や実務翻訳に比べ、通訳の仕事は常に現場の中での一員であり、何か起こるか分からない緊張感がある。こうした環境でも冷静に通訳者としてのミッションを遂行するには、日ごろから実践的なトレーニングが必須だ。ディキンソンさんによると、現場での対応に必要なのは、リサーチ力、聴き取り能力、耳で聴いたことを理解し、瞬時に口で訳出できる瞬発力を鍛えること、そして日頃の練習で内容を把握する力と作文力をつけること。分からない内容がでてきてパニックにならないように徹底的にリサーチをすると、心に余裕が生まれ、話の内容が追いやすくなるという。
 

「リサーチもただ内容を知識として頭に入れるのではなく、自分が聴き取れて、瞬時に言葉が口をついて出るようなやり方が必要です。例えば、瞬発力を鍛えるために、用語を録音して、英語→日本語、日本語→英語、とすぐに対訳が言えるようにすると良いと思います。商品名、会社名、肩書などは特に重要ですね。私の通訳講座では、こうした実践的なリサーチ方法や瞬発力を鍛える方法やリソースをお教えしています。さらに、内容の理解力を高めたり、把握した内容を頭の中に留めておく力をつけたり、作文力を高める練習を授業で行います。」(ディッキンソンさん)
 

◆「話者がのりうつる」感覚が、生き生きしたセリフを生む
通訳者の役割は、話し合う両者の間に立ち、お互いの思いをそれぞれの言語にして伝えることだ。このスキルは、翻訳スキルとあながちかけ離れているわけではない。ディッキンソンさんも以前、遺産相続の法務翻訳をした時、高齢の依頼者が内容をきちんと把握できたか確認するために、リモートでの面談で通訳をしたことがあったという。書面だけでなく、対面で質問に対応できたことがサービスの向上につながった。
 

「通訳の訓練は、話し手の意図を瞬時に把握して、適格に訳出できることを目指しています。例えば、映像翻訳では、どうしても映像やスクリプト(字面)だけの情報に引きずられてしまうことが多いのではないでしょうか。通訳者の間では、話者の意図が通訳者にうまく伝わって波にのった訳がでてくると、“話者がのりうつった”ような感覚になります。それは頭の中で常に「要は何を言いたいのか」と分析しているからです。通訳で波にのっているときは、文脈に応じてとてもいい訳が瞬間的にでてくることがあります。通訳は、一つの文章だけを訳すのではなく、全体の流れ、前に述べられたこと、それぞれの話者が話したこととの繋がりを感覚的にとらえて訳すスキルが必要です。そういった突発的に出た良い訳をその場で終わらせず、メモをとって覚えておくと別の機会に使いまわせるようになると思います。それは、辞書には決して載っていないし、字幕翻訳にも活かせる引き出しになるかもしれません。」
 

◆通訳の訓練で作文能力を鍛え、語感を養う
通訳訓練では、聴いた文章を一字一句おとさずリピートする、あるいは内容を異なる言い方で言い換えるリプロダクション、パラフレーズという練習方法がある。この方法だと文章を単なる単語の羅列としてではなく、文の構造全体を頭に入れるので、作文力がつき、英文または和文を構築する時にも役立つ。
 

同時通訳の訓練法であるサイトトランスレーション(文章を短いユニットに区切って、そのユニットごとに同時通訳風に前から訳す)も効果的だ。翻訳者の中には、最初にサイトトランスレーションしたものを録音し、それをベースに翻訳を仕上げるというスタイルもあるという。あるいは、原文を音読したものを録音し、同時通訳したものを聴いて、それを基に訳す方法もある。
 

「通訳は語感を養う良い訓練にもなります。語感は、感覚的なものなので、実際にその言葉が使われている場面に遭遇しないと、自分だけでつかむのはなかなか難しいものです。しかし、通訳の授業は臨場感があり、授業中にでてきた言葉は、どのような文脈で誰が何を言ったときに出てきた、ということが記憶にくっきり残るので、語感を育むには大変いい環境だと思います。例えば留学先で単に英語を使ってコミュニケーションするだけでなく、通訳の場合は、プレッシャーはかかるものの、その分凝縮された形で生きた言葉に触れる最高の訓練場所だと言えます。留学で通訳の授業をうけると、覚えた言葉をすぐに試せたり、再度遭遇したりする可能性のある環境なので、一石二鳥かもしれません。」(ディッキンソンさん)
 

◆実務翻訳者や映像翻訳者こそ、通訳に挑戦できる資質がある
字幕翻訳をする人は、生の音声に触れる機会が多く、綿密なリサーチのプロセスにも慣れているので、通訳を始めるには有利だとディキンソンさんは言う。自身も社内での実務翻訳の経験から通訳の仕事に繋がったので身をもって感じているそうだ。
 

「日英の実務翻訳や映像翻訳で文法的に正確な英作文ができる、英語で文章を構築することに慣れていると、日本語から英語に変換するプロセスが早くなります。一方で、原文に忠実に訳そうとするあまり、かえって耳で聴いて分かりにくい文章になる、という落とし穴もあります。映像翻訳との違いは、”映像”というコミュニケーションの助けがあるか否か。通訳の場合、音声だけで内容をつかんで訳すので優れた英文の解釈力と分かりやすい表現にしてアウトプットする表現力が求められます。こうした似て非なる作業をすることで、字幕翻訳あるいは実務翻訳に要求されるエッセンスを再認識できるかもしれません。映像翻訳者の方も通訳練習の方法を把握することで、より英語のスキルアップを目指し、通訳という仕事にも興味を持って、ご自身のスキルを研鑽するきっかけになって欲しいと思っています。」(ディッキンソンさん)
 

◆私の使命は通訳授業を通して生徒を“empower”すること
ディッキンソンさんの通訳コースは、これまでロサンゼルス校のみで開講し、多くの受講生がスキルを磨いてきた。受講生からは、「通訳授業で訳語の選択の説明を聴いて、同義語のニュアンスの違いが分かった」「字幕翻訳が一番の関心だったが、留学カリキュラムの中の通訳授業が面白くて、通訳者になりたい!と思うようになった」などの声が寄せられている。ディッキンソンさんは、「授業内で英語のきれいな発音や、英語の語感を活かした良い訳をクラス内で発信する機会があるので、講師やクラスメートの反応から手ごたえを感じたのではないか」と話す。
 

「一番印象に残っているのは、スポーツ通訳をめざしている受講生。初めて受講した学期と比較すると、耳で聴いた内容を頭の中に留めておくリテンション能力が格段に向上し、政治・経済など時事問題にも関心を持つようになり、語彙が圧倒的に増えて、ノートテーキングの能力も上がりました。さらに、アウトプットも、以前より滑舌良く、また実況中継をするアナウンサーのようなあらたまった口ぶりになってきました。もちろん、それは彼自身が授業以外で懸命に訓練に取り組んだ成果だと思います。」(ディッキンソンさん)
 

70歳を超え、英語での日常コミュニケーションに苦労していた受講生からも嬉しい報告があった。何学期か続けて受講したことにより、一人で病院に行って医師から治療の説明を受けたり、電話でも英語でコミュニケーションができるようになった、家に修理にくる作業員の言葉も分かるようになった、と喜んでいたという。
 

「年齢と共に確かに私たちの記憶力は衰えますが、経験値が豊富になるので、課題の音声を聴いて、類推する能力は若い人よりも高くなります。その方も、課題の中で重要な部分をしっかり把握していました。受講生のそういう進歩を目の当たりにすると大きな喜びを感じます。通訳の授業を通して生徒を“empower”するのが私の使命だと思っています。」(ディッキンソンさん)
 

◆企業の社内通訳やボランティアでスキルを磨くのもおすすめ
実践的な通訳の経験を積みたいなら、企業の社内通訳やボランティアで修行することもおすすめだ。社内通訳の派遣業務は日本にもたくさんあるので人脈を培い、フリーランスになった時に活かすこともできる。
 

「今企業にお勤めで、職場で通訳をしてみたい、と思われる方は、日頃から、自分が通訳の勉強をしている、関心がある、ということを周りにアピールするのも一考です。私も会社で上司に通訳に興味があると伝えてあったので、チャンスが到来しました。ボランティア通訳もよい経験になります。私もロサンゼルスの地元のNGO団体でボランティア通訳をしたご縁で、今も関係者からお仕事をご紹介して頂いています。求められなくても、自分からオファーするくらいの意気込みがある方は大いに成長すると思いますよ。」(ディッキンソンさん)
 

★通訳者の仕事についてさらに知りたい方はこちらをチェック
ベテラン通訳者が教える コロナ禍が変えた通訳業界の常識
https://www.jvta.net/tyo/instructor-dickinson-work/
 

ロサンゼルス校で人気の講座がいよいよ2022年4月、東京校で開講する。ディッキンソンさんの指導をリモートで受けられるチャンスだ。残席わずか、お申し込みはお早めに。
 
net_top_IC202204
リモート通訳コース(全8回)
2022年4月30日~2022年6月18日
毎週土曜10:00~12:00 ※日本時間
※詳しいコース概要は▶こちら
※無料説明会は▶こちら
 

【関連記事】
◆ベテラン通訳者・翻訳者のディッキンソン・佐恵子講師が語る!「翻訳者は文面に託された言葉をくみ取り、忠実に伝えるメッセンジャー」
https://www.jvta.net/la/instructor-dickinson/
◆【ロサンゼルス校の講師が英訳】アジア系公民権運動のリーダー日系一世 藤井整の伝記『A Rebel’s Outcry(英題)』が出版
https://www.jvta.net/la/a-rebels-outcry2/
◆新・通訳コースは120分フル・アクティブ・ラーニング “学びの量と質”が違う
https://www.jvta.net/tyo/interpreter-course-gaylor/
 

Tweet about this on TwitterShare on Google+Share on FacebookShare on TumblrPin on PinterestDigg thisEmail this to someonePrint this page