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【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #37 生成AIと土門拳(あるいは、未来のバリアフリー字幕の話)●小笠原尚軌(バリアフリー事業部 ディレクター)

【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #37 生成AIと土門拳(あるいは、未来のバリアフリー字幕の話)●小笠原尚軌(バリアフリー事業部 ディレクター)
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土門拳(どもん・けん)という写真家をご存知だろうか。
ドキュメント、人物、古美術、建築、風景、そのいずれにも忘れがたい作品を残し、日本の写真史に名を刻んだ巨匠だ。『文楽』『ヒロシマ』『筑豊のこどもたち』『風貌』『古寺巡礼』など、さまざまなテーマで撮られた作品は、今でもときどき写真展が開催されている。(cf. 「土門拳の古寺巡礼」)

先日、JVTAのオフィス(東京・日本橋)に向かう途中の電車でデジタルサイネージをぼんやり見ていたらこんな広告が流れていた。「あなたがスマホで撮った縦写真。足りないところは生成AIが画像を合成し、きれいな横写真に仕上げます」。つまり、人が写真を撮った時に枠に入らなかったところは、AIがそれらしい画を作り、補うというものだ。

この広告が目に入った時、ふと二つのことが頭に浮かんだ。
先の土門拳の写真のことと、聞こえない・聞こえづらい人に映画やドラマ、アニメを届けるバリアフリー字幕のことだ。


コンテンツの質感を伝えるということ
土門拳は写真を撮る時、撮影する対象の“質感”を捉えることを大切にしているという。
「たわしが鍋の底を洗うのに用いられる限りにおいては単に炊事道具の一つであるにすぎません。そういう功利的な常識的な先入観を捨てて、あのたわしをジッと見てください。すると、たわしは正しく“藁・棕櫚の毛などをたばねたもの”として見えて来ます。(中略)頬の皮膚がザラザラと寒気だつような感じがしませんか。そこではじめて、たわしは僕たち人間に共通する皮膚感覚との結びつきを持ちます。」(出典:土門拳著『写真作法』)

この“モチーフの持っている質感を克明に写真化すること”が、忘れられないような写真を撮る秘訣だという。

土門の写真づくりの作法とプロのバリアフリー字幕づくりの作法が同じだとは全く思わないが、個人的には、本質の部分は似ていると思う。なぜなら、字幕ライターたちもまた、自分が担うことになった作品をジッと見て、そのコンテンツが内包する質感を言葉で伝えることに力を注ぐからだ。言葉を使って、作品の中で聞こえてくる声や音を視聴者に届けている。
波打ち際を歩く夫婦。その背景に流れる音をどう伝えるか?
主人公の口癖をどんな表記で伝えるか? ひらがながいいのか、カタカナがいいのか?

一文字の違いで伝わるニュアンスがガラッと変わる世界だ。プロの字幕ライターたちは悩みながら画にのる言葉を紡いでいく。


「AIが作るもの」vs「人が作るもの」
生成AIの話に戻したい。
モチーフをジッと見て、どう感じるのかを捉えようとする土門の写真に対して、AIの作る画像にはそもそも人がいない。だから、伝えるべき“質感”が存在しない。その存在意義は、フォーマットの枠におさめるためだとか、ダミー画像の代わりだとか、限りなく補足的なものとして続き、進化していくだろう。
いずれ、バリアフリー字幕も生成AIが作る時代が来ると思う。想像するのは成果物の“二極化”だ。速く・コストのほとんど掛からない補足的な字幕と、納期をもって、正しく評価されたプロの字幕ライターがジッと作品に向き合って作る字幕。コンテンツホルダーやクリエイターは目的に応じて、どちらかを選ぶ時が来るはずだ。


できれば、後者があふれる社会であってほしい。私が年齢を重ねて耳が聞こえづらくなったとき、その時の話題の作品を、その時代の若者と一緒に楽しみたいからだ。

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Written by小笠原尚軌
JVTAバリアフリー事業部ディレクター。「週刊TVガイド」「テレビブロス」などを発行する東京ニュース通信社で記者職・編集職に従事。その後、“映像のバリアフリー化”という言葉に引かれてJVTAの「バリアフリー講座」を受講。入社後、広報・PRの部門を経て、現在はバリアフリー事業部 ディレクター。字幕ライターと音声ガイドディスクライバーに必要なスキルを習得した修了生の就業サポートを行っている。
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「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!
 
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