News

【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #31 Uncle Paul●斉藤良太(管理部門スタッフ)


先月、ネットニュースで何気なく見つけた記事に考えさせられる事があった。ジョン・レノンの長男ジュリアン・レノンが、ある空港のラウンジで偶然ポール・マッカートニーと遭遇し、その様子をジュリアン自らツイッターに投稿したという内容だ。その記事の中ではビートルズの名曲「Hey Jude」へオマージュを捧げた曲をジュリアンが今年リリースしたばかりだと書かれており、さらにジュリアンがツイッターに載せた写真では、その曲が納められたアルバム画像が映ったスマホの画面にポールが指をさしていた。ビートルズの熱心なファンでもない自分にとっては、この記事に対し強く感じる事も何か感慨に耽る事もなく、ネットのエンタメニュースの一つとして受け流すところだった。その記事のコメントを読むまでは。
 

たった数件だけ投稿されていたコメント欄の最初のコメントの内容に目が止まった。それはジュリアンのツイッター原文に書かれている「Uncle Paul」の「Uncle」が、記事に掲載されていたツイッター投稿内容の日本語訳に反映されていないことへの批判だった。恐らくコメント主はビートルズのファンであろう。コメントによるとポールはジュリアンが幼いころから遊んでくれ、父親のジョンがオノ・ヨーコと浮気をし当時5歳のジュリアンと母のシンシアから離れて意気消沈していた時には気にかけてくれたやさしい「ポールおじさん」であり、その「おじさん」との久々の遭遇だったことが感動をさせるのだと。ビートルズのエピソードを知らない大半の人は今回の記事を読んでも最初の自分と同じく、無数にあるエンタメニュースの一つとしてスルーをするだろう。だだ、このコメントを含めたこの記事の内容がなぜか心に引っかかった。
 

ジュリアンとポールの関係について少し調べてみることにした。1968年にジョンが浮気で母子から離れて行った時にポールはジュリアンの元を訪れ、帰宅途中の車の中でジュリアンを慰めるために「Hey Jude」を作ったというのだ。そこで初めて前述の記事になぜ「Hey Jude」の件があえて触れられていたのか合点が行った。さらにレコーディングや宣伝の際のエピソードが数多くある事を知り、同曲のミュージックビデオを見ると、まだ幼い息子を慰めるために第3者のポールが作った曲をジョンはどんな気持ちで演奏したのだろうと、さまざまな想像が頭に浮かんだ。そしてこの事を通じ、多くの名曲を産んだ偉大なビートルズという遠い伝説の存在が、さまざまな葛藤や衝突をしながら活動していた生身の「The Beatles」としてよりリアルに感じられる様になったのだ。
 

翻訳にはさまざまな制限がある。特に映像翻訳には字数制限があり訳出する内容を精査しなければならない。記事は映像翻訳ではなかったが、多くの目に触れる機会があるコンテンツにおいて翻訳者はたったワンワードであってもそれを受け取る側への大きな影響がある事を忘れてはならないと再認識した。
 

—————————————————————————————–
Written by 斉藤良太

さいとう・りょうた●日本映像翻訳アカデミー・管理部門スタッフ。日英映像翻訳科修了生。
—————————————————————————————–
 

「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!
 
・バックナンバーは▶こちら
・ブログ一覧は▶こちら

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

◆【入学をご検討中の方対象】
映像翻訳のことが詳しくわかる無料リモートイベントへ!※英語力不問

リモート個別相談
※詳細・お申し込みはこちら


 

【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #30 年末年始に読んで(読み返して) 翻訳へのモチベーションを上げる「2冊」●丸山雄一郎(「日本語表現力強化コース」主任講師)


2022年もまもなく終了。年末年始の休みも近いということで、今回は「翻訳のモチベーションを上げてくれる」2冊を紹介したい!
 

①『翻訳夜話』 著者:村上春樹、柴田元幸(文春文庫)
JVTAの受講生、修了生にはおなじみの一冊だが、久しぶりに読み返してみて、改めて“翻訳”の面白さに気づかされた(翻訳者という仕事の面白さとも言えるが)。著者の柴田さんは私が言うのもおこがましいが書籍の翻訳に関して言えば「日本で最も日本語表現力が高い」翻訳者だと思う。それ故、ご自身の好みももちろんあると思うが、翻訳が難しいであろう作家の本ばかり出版社からお願いされるのでは?と考えてしまう(エドワード・ゴーリーやフィリップ・ロスなどがいい例だ)。その柴田さんがこの著書の中で「自分にしっくりくる言葉には限りがあって、それを活用するしかない」と、類義語辞典を使うことや「日本語を磨く」という行為に対しての思いを述べている。これは決して辞典や言葉を磨くことを否定しているのではない。言葉を調べ、日本語力を高めていったとしても結局、それが自分の言葉になっていないと原稿には使えない。つまり、私たち(映像翻訳者)は常に「自分にとってしっくりくる言葉を探していく」しかないと述べているのだ。映像翻訳者という仕事はなんと大変で、でもやりがいのある職業(生き方)なのだろうと思えないだろうか。
 

②『日本人のための日本語文法入門』 著者:原沢伊都夫(講談社現代新書)
日本語表現力の講義の中でも文法に触れているせいか「いい文法の本はありませんか?」とよく問われる。数年前までは、いくつか書籍名を挙げてきたが、「文法だけにとらわれてはいけない。それは日本語を作ることを困難にする」という持論から最近はあえて書籍名を伏せている。ただ、自分自身は絶えず文法関連の書籍に目を通しており、最近読んだ中ではこれが一番分かりやすく、しかも日本語の構造をやさしく解説してくれている。翻訳に役立つ内容もある。例えば、一文の中に使われている単語と述語との関係を文法上「格関係」、各関係を示す助詞を「格助詞」と呼ぶが、格助詞は全部で9つあり、その中の「へ格」は方向を表す、「に格」は場所や時、到達点を表すとある。この文法に則って考えると、下記のA、Bの文章にはそれぞれ何の助詞が入るだろうか?
 

A. 南●向かう
B. 会社●行く
 

答えはAが「へ」。Bが「に」だ。私の講義でも聞いたことがある人もいるかもしれないが、「南、北といった大きなものをとる際には“へ”、会社や学校といった具体的な場所には“に”を使いなさい」と教えてきた。もう少し詳しく言うと、「南、北という言葉から連想する景色は人によって違う。つまり大きなものなので「へ」。会社、学校というのは規模の大小はあれど多くの人が想像するものに大きな違いはない。だから「に」なのだと。これが文法を根拠にしていたことがこの本から分かるというわけだ。ただし、紹介しておいて何ではあるが、こうした翻訳にもちょっと役立つ内容はあるものの、あくまでも日本語の面白さ、文法的な仕組みを解説している本としてとらえてほしい。断じて日本語表現のテクニック的な本ではない。私が講義の中で文法に触れているのは、翻訳をしていれば誰でも助詞に迷う場面があり、その迷いを少しでも早く解消してほしいからだ。そのため知識としての文法ではなく、ある種のテクニックとして役立つ文法をお教えしているはずだ。この本を紹介した理由は皆さんが翻訳者として、受講生として関わっている日本語の奥深さや、著者が言うところの日本語の“本当の姿”を知ってもらい、日本語の面白さに気づいてほしいからだ。皆さんの日々の仕事や学習で触れる「日本語」はこんなにも深く、それを専門に研究している人も大勢いる。私たちはそんな世界に挑んでいる。やる気にさせられますよね?(笑)
 

—————————————————————————————–
Written by 丸山雄一郎

まるやま・ゆういちろう●日本語表現力強化コースの主任講師。学生時代からJVTA代表である新楽直樹に師事し、ライターとしてデビュー。小学館「DIME」「週刊ポスト」「週刊ビッグコミックスピリッツ」などでライター、編集として活動後、講談社「週刊現代」「FRIDAY」「セオリー」などで執筆。現在は、映像翻訳本科のほか企業の社内研修でも講師を務める。
—————————————————————————————–
 

「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!
 
・バックナンバーは▶こちら
・ブログ一覧は▶こちら

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

◆【入学をご検討中の方対象】
映像翻訳のことが詳しくわかる無料リモートイベントへ!※英語力不問

リモート個別相談
※詳細・お申し込みはこちら


 

【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #29翻訳者は言葉の大海を泳ぐマーメイド●伊原実希(翻訳事業推進部)


翻訳者は、知らない世界に恋焦がれ、人知れず言葉の大海に身を溶かす。仕事で出会った未知の世界を理解するため、図書館に入り浸り、手に取ったこともない書籍に囲まれ、異世界に埋没する。まるでマーメイドが水面から顔を出し、陸の世界を見るように、留まることを知らない好奇心と不安が、交互に押し寄せては引いて心を削る。
 

登場人物のこと、彼らが見ている世界のことをもっと知りたい。列をなす本棚の間をひたすら泳ぐうちに、海の中で左右が分からなくなるように、私もどこから来てどこへ行きたいのか分からなくなってしまう。調べているドンピシャの情報が見つからず、周辺の情報から想像力を働かせて輪郭を捉える。それは、陸の上を思いっきり走れないマーメイドのようでもどかしい。苦しい。向いていないのではないかと漆黒の海が私を飲み込み、不安に凍える。
 

それでも私は翻訳をやめない。苦しいけれど続けることで、海の中に安住していたら出会えるはずもなかった素晴らしい人たちと仕事ができるから。小さいころ遊びに行くたびに背丈を測っては柱に印をつけてくれた祖母が、今は私が翻訳案件を受けるたびに手帳に正の字を書き足してくれるから。私の訳した異国の映像や音楽をこっそり聴いている祖父を私もひっそり喜ばせたいと思うから。これまで深く考えずに手を出してきたさまざまなことが、翻訳を通して自分の中でつながっていく感覚は「何でも好きなことに挑戦しなさい」と背中を押してくれた両親に「今までのことは無駄じゃなかった」と証明できるようで嬉しいから。
 

求めていた言葉を手繰り寄せられた時、応援してくれた人に感謝を伝えられる時、翻訳で出会った世界とこれまで自分がやってきた個々の挑戦がつながってじわじわと世界が広がっていく時、とてつもない幸福感に包まれる。それと同時に終わることのない挑戦がひどく苦しく、途方に暮れる。そんな幸せと苦しさの間をもがく瞬間、生きていると感じる。
 

まばゆい光が踊る水面を見つめる。私はもう浅瀬で無邪気に海を楽しむだけじゃない。陸に届いた素晴らしいコンテンツの数々は翻訳という大いなる葛藤をはらむことを私は知っている。海の底で繰り広げられる物語を、輝きに満ちた海の神秘を知っている私はマーメイド。
 

そんな妄想からさめて図書館を出る時、あまりの成果のなさに落ち込むこともある。それでも、私の中のマーメイドが今も消えることなく居続けていることがやっぱり嬉しくて、ちょっとだけすがすがしい気持ちで家路につく。
 

—————————————————————————————–
Written by 伊原実希
日本映像翻訳アカデミー・翻訳事業推進部
いはら・みき●日本映像翻訳アカデミー・翻訳事業推進部スタッフ。英日映像翻訳科修了生。
—————————————————————————————–
 

「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!
 
・バックナンバーは▶こちら
・ブログ一覧は▶こちら

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

◆【入学をご検討中の方対象】
映像翻訳のことが詳しくわかる無料リモートイベントへ!※英語力不問

リモート個別相談
※詳細・お申し込みはこちら


 

【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #28客観的な視点●桜井徹二(学校教育部門)


「受講生の皆さんによく聞かれる質問ランキング」みたいなものがあったとしたら、間違いなく上位に入るのが「自分の翻訳原稿を客観的に見直す方法は?」という質問だ。だが、よくある質問の中でもこれは特に難易度が高い。具体的なテクニックというよりは感覚的な面が多分にあるからで、その感覚を説明することもなかなか難しい。だが先日、「その感覚に似ているかも」と感じた瞬間があったので紹介したい。
 

2~3週間ほど前、国内出張のために久しぶりに飛行機に乗った。出発は羽田空港からだった。主要な空港というのはどこも広々としていて、隅々まで洗練されている。もちろん羽田空港も例外ではなくて、天井はどこまでも高く、あらゆるものがぴかぴかに磨き込まれ、すべてがシステマチックに動いていた。
 
リムジンバスが予定よりかなり早く着いて出発便までは1時間半近くあったので、どこかの店に入って仕事を片付けつつ一服しようと考えた。でも空港内をしばらく歩き回ったり、いくつかの店をのぞいてみたりしながらふと思った。
 

なんだかおれって、場違いじゃないか?
 

卑屈になっているとか自意識過剰だといえばそれまでかもしれない。でもそういうのとも違う気がする。より正確に言えば、「場違い」というのともちょっと違う。空港の高い天井から俯瞰で見下ろしている映像が脳裏をよぎって、そのあまりにも巨大でシミひとつない場所と、そこをとぼとぼと歩いている自分との対比がどことなくシュールでアンバランスだな、と感じるのだ。
 

思えば、同じように慣れない場所にいたり普段と違う行動をしていたりする時に、その状況を冷静に見ている自分の視線を感じることがある。ちょっと距離が離れているところからの、淡々とした視線だ。
 

それが、自分で翻訳した原稿を客観的に見直す感覚に近いように思う。チェックするというよりも、視点を高い天井からのカメラにぱちんと切り替えて、全体像を広く捉えて見るような感覚。的確に伝えられているかどうかは分からないが、客観的な見直し方に悩んでいる人はそんな視線を意識しながら原稿を見直してみてはどうだろうか。
 

それはそうと、空港を利用する時にはいつも高揚感とともに一抹の不安も覚える。なぜなんだろう? 一種のホームシックか、それとも非日常な場所へ旅立つ不安だろうか? …などと考えてみたが、結局思い当たったのは「遅刻や忘れ物への不安」だった(そうしたら飛行機に乗れないから)。心配事というのは小学生からさほど進化しないものなのかもしれない。
 

—————————————————————————————–
Written by 桜井徹二
日本映像翻訳アカデミー・学校教育部門
さくらい・てつじ●JVTAの映像翻訳ディレクターとして、MTVやBBCのドラマ、ドキュメンタリー、リアリティ番組やMOOC(大規模オンライン公開講座)用字幕などを手がける。本科のほか、明星大学、青山学院大学などの教育機関でも講師を務める。『字幕翻訳とは何か 1枚の字幕に込められた技能と理論』(小社刊)の執筆にも参加。
—————————————————————————————–
 

「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!
 
・バックナンバーは▶こちら
・ブログ一覧は▶こちら

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

◆【入学をご検討中の方対象】
映像翻訳のことが詳しくわかる無料リモートイベントへ!※英語力不問

リモート個別相談
※詳細・お申し込みはこちら


 

【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #27 「好き」という魔法にかけられて●山田佳奈(コーポレート・コミュニケーション部)

2022年1月より、『ハリー・ポッターと賢者の石』映画公開20周年を記念した特別番組『ハリー・ポッター20周年記念:リターン・トゥ・ホグワーツ』がU-NEXTにて配信されている。JVTAは本作の日本語字幕の制作を担当した。
 

実は私もその翻訳チームの一人である。2021年の年末、英語教育関係の会社で働きながら映像翻訳の仕事をしていた私は、MTCより一通のメールを受け取った。「『ハリー・ポッターと賢者の石』公開20周年特別番組の翻訳チームに参加しませんか?」と。
 

何を隠そう、私は20年来のハリー・ポッターファンだ。原作本の日本語版、英語版、映画のDVD、なんならハリー・ポッターのロケ地ガイドブックまで揃っている。当然ながら「やります!」と二つ返事で引き受けた。
 

そもそも私が洋画や英語、海外に興味を持ったきっかけが「ハリー・ポッター」だった。原作本第一巻『ハリー・ポッターと賢者の石』が日本で発売されたのは1999年。当初は物語の面白さのみに引き込まれていたが、2001年に映画版が公開されると、物語の舞台にも興味を持つようになった。つまり、「イギリス」や「英語」に関心を持つようになったのである。それと同時に、「洋画」の世界にものめりこんでいくことになる。
 

ハリー・ポッターをきっかけに英語の勉強に励み、イギリス・ロンドンへも留学した。私がロンドン留学をしていたのは、偶然にも『ハリー・ポッターと死の秘宝』の前後編が世界公開された時期だ。Part1公開時、キャストの姿を一目見たくて、友人と一緒に雨の中を5時間以上、プレミア会場のシアター前で待ち続けたことは忘れられない。やがて映画も完結し、私も日本へ帰国。『ハリー・ポッターと賢者の石』を好きになり始まった私の旅は、そこで完結したと思っていた。
 

しかしながら今になって、思わぬ形でハリー・ポッターに関わることになった。映像翻訳を学ぼうとJVTAに入学した当時は、「なんとなく新しいことを学びたい」くらいの気持ちでのスタートだった。しかし振り返ってみれば、映像翻訳への興味の根底には、ハリー・ポッターから始まった洋画への興味がある。「ハリー・ポッターが好き」から始まった私の旅は、終わることなく続いていたのだ。20年以上前に芽生えた「好き」という気持ちが、私をここまで連れてきてくれていた。それはまさしく、私にかけられた「魔法」だ。
 

これを読んでいる皆さんも、何かを「好き」という気持ちがあるなら、ぜひ大切にしてほしい。その気持ちは、きっと皆さんの未来の可能性を広げてくれるはずだ。
 

最後に、JVTAで学ぶ方々へ。トライアルに合格した暁には、「自己PRシート」を提出することになる。そこではぜひ、皆さんが好きなもの・好きなことについて遠慮なく、しっかりと書くことをおすすめする。私が『リターン・トゥ・ホグワーツ』の翻訳に参加できたのも、その自己PRシートのおかげだ。チャンスはどこにあるか分からない。自己PRシートだけでなく、あらゆるところで自分の「好き」を発信していってほしい。
 

【関連記事】
『ハリー・ポッター20 周年記念:リターン・トゥ・ホグワーツ』 待望の話題作を手がけた「選ばれし者」たち
 

—————————————————————————————–
Written by 山田佳奈
 

やまだ・かな●日本映像翻訳アカデミー コーポレート・コミュニケーション部スタッフ。英日映像翻訳科修了生。
—————————————————————————————–
 

「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!
 
・バックナンバーは▶こちら
・ブログ一覧は▶こちら

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

◆【入学をご検討中の方対象】
映像翻訳のことが詳しくわかる無料リモートイベントへ!※英語力不問

リモート個別相談
※詳細・お申し込みはこちら


 

【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #26 空の青さを伝える時に●小笠原尚軌(バリアフリー事業部 ディレクター)

「生まれた時から目の見えない人に 空の青さを伝える時 何て言えばいいんだ?
そんな簡単なことさえ言葉にできない俺は芸人失格だよ」
 

SNSをよくご覧になる方は、一度見たことのある言葉かもしれない。タレントの江頭2:50さんが語ったといわれていた“名言”だ。一見破天荒な彼の、人間らしさをあらわす言葉として、まことしやかに流れていた。でも、これは全くのデマ。オフィシャルの動画「ネットの江頭伝説は本当なのか?(名言編)」で、本人が否定している。
 

このうわさがちょっとしたネットミーム(インターネットで次々にコピーされて広まるフレーズ・画像など)として広まったことは、誰もが一度はこう思うからなのかもしれない。“目の見えない人に 空の青さを伝える時 何て言えばいいんだ?”。
 

白井崇陽さんの曲を聴いて
2022年6月末に、JVTAのバリアフリー講座修了生・彩木香里さんが主宰する東京の演劇集団「ものがたりグループ★ポランの会」の公演を観た。タイトルは『手話と音楽と語りで綾なすライブセッション わたくしという現象』。朗読と、“視覚的に楽しめる手話”で宮沢賢治の世界を届ける舞台だ。その演目の中にはバイオリニスト・白井崇陽(たかあき)さんの演奏もあり、盲目の彼が空をテーマに作った曲「蒼き天馬のように」を聴く機会に恵まれた。
 

IMG_4241_サイズ調整
【開演前の様子。教会の会堂でもある「ルーテル市谷ホール」で行われた】
 

音色が会場に響く。まぶたに浮かんだのは、うっすら雲がかかった青い空を、毛並みの艶やかな馬が駆けていく映像だった。「空の青さは人それぞれで、誰にでも伝えることができるものだ。そして、伝えようとする熱量が見せたいものをより鮮明にするんだな――」。示唆に富んだ体験は、今の仕事に生かせると思った。
 

JVTAの「バリアフリー部門」は、“映像のバリアフリー化”に取り組んでいる。見えにくい人のための音声ガイド(副音声/AD=Audio Description)、聞こえにくい人のためのバリアフリー字幕(クローズドキャプション/SDH=Subtitles for the deaf and hard of hearing)で映像作品のアクセシビリティを高める仕事だ。それは、視覚・聴覚をこえてコンテンツを届ける仕事ともいえる。教育プログラムを作ること、学んだ人の「音声ガイドディスクライバー」あるいは「バリアフリー字幕ライター」としての就業をサポートすること。この両輪で、分け隔てなく映画やドラマを楽しめる時間を増やしていきたい。そんな気持ちで、働いている。
 

空の青さを伝えてみようと思う時、あなたならどんな言葉を使うだろうか?「これだ」と思う表現が浮かんだらそれはあなた自身のものだから、自信を持って、大切にしてほしい。
 

—————————————————————————————–
Written by小笠原尚軌
JVTAバリアフリー事業部ディレクター。「週刊TVガイド」「テレビブロス」などを発行する東京ニュース通信社で記者職・編集職に従事。その後、“映像のバリアフリー化”という言葉に引かれてJVTAの「バリアフリー講座」を受講。入社後、広報・PRの部門を経て、現在はバリアフリー事業部 ディレクター。字幕ライターと音声ガイドディスクライバーに必要なスキルを習得した修了生の就業サポートを行っている。
—————————————————————————————–
 

関連記事
【修了生・彩木香里さんの新たな挑戦】宮沢賢治の詩と童話を手話、音楽、語りで表現!▶こちら
【宮沢賢治×語り×手話×音声ガイド】修了生・彩木香里さんの挑戦がアーカイブで配信中!▶こちら
 

「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!
 
・バックナンバーは▶こちら
・ブログ一覧は▶こちら

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

◆【入学をご検討中の方対象】
映像翻訳のことが詳しくわかる無料リモートイベントへ!※英語力不問

リモート個別相談
※詳細・お申し込みはこちら


 

◆【映像翻訳をエンタメのロサンゼルスで学びたい方】
ロサンゼルス校のマネージャーによる「リモート留学相談会」

la soudankai
※詳細・お申し込みはこちら
 

【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #25
書を捨てよ、町へ出よう 映像翻訳に役立つ?マイナーだけど“イイ感じ”な観光スポット2選
●ゲイラー世羅(ロサンゼルス校マネージャー)

国を跨いだ移動の制限が緩和されている。M-1留学プログラムを提供しているロサンゼルス校にとっては、嬉しいニュースだ。アメリカではマスク着用義務化が解除され、音楽フェスなどの大規模イベントが開催されるなど、日常を取り戻している。これから渡米する方は、歴史、文化、自然などさまざまな魅力を持つアメリカをその目に焼き付けてほしい。今回は、これまでアメリカ横断を4回経験した(=超貧乏旅経験者でもある)私から、エンタメコンテンツを愛する人におすすめしたい観光スポットを2つ紹介しよう。
 

●『グレート・ギャツビー』に触れるルイビルの旅
語学のプロである映像翻訳者は映画だけでなくアメリカ文学ファンも多い。英米文学に欠かせないのが、F・スコット・フィッツジェラルド作『グレード・ギャツビー』。フィッツジェラルドは、ケンタッキー州ルイビルにあるシールバッハホテル(現The Seelbach Hilton Louisville)で本作のアイディアを得たのをご存じだろうか。作中でも、トムとデイジーの結婚披露宴会場として出てくる。ホテルには作者が入り浸っていたバーがあるので、ケンタッキー名物のバーボンで乾杯して1920年代のアメリカを感じ、その後は映画『華麗なるギャツビー』を見るというフルコースを体験してほしい。本書を翻訳した村上春樹はルイビルの地を訪れたことがあるのだろうか。(当校まで情報をお待ちしています!)
 

●カルテックとパサデナと言えば、あのドラマ!
突然だが、私は『ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則』の大ファンだ。本作は、頭脳明晰なオタク4人組とブロンド美女による全12シーズンのシットコム。私が声を出して笑わなかったエピソードは1つもない。本作の舞台はロサンゼルス郡パサデナ市で、オタク4人組は、カリフォルニア工科大学(略称カルテック)の物理学者をしている。アメリカのドラマに出てくる定番の大学と言えば、カリフォルニア州ロサンゼルス校(UCLA)を挙げる人が多いと思うが、ぜひカルテックにも注目してほしい。カルテックは、NASAの技術開発に携わるジェット推進研究所 (JPL)があることで有名だ。パサデナは雰囲気がよいサブアーバンな街なので行く価値あり! さて、映像翻訳では、ブラックジョークや時事ネタ、スラングなどの知識が必須だが、ビッグバン★セオリーでは、広い意味でアメリカ文化を学べる。例えば、作中にも出てくるQuiznos。サンドイッチチェーンのことだが、ロサンゼルス校の近くにもある留学生のランチスポットだ。サンドイッチ店1つにしても百聞は一見に如かず!
 

ロサンゼルス校の近所にも映画のロケ地があるので、詳細を知りたい方はぜひ筆者やロサンゼルス校のスタッフに聞いてほしい。留学中にスタジオツアーや番組観覧に遊びに行くのもおすすめだ。これから留学をする方は、アメリカ映画産業の中心地でエンタメにどっぷり漬かりながら、アメリカ文化や活きた英語に触れてほしい。書を捨てよ、町へ出よう、そして映像翻訳をしよう!
 

—————————————————————————————–
Written bt ゲイラー世羅

ゲイラー・せいら●日本映像翻訳アカデミーロサンゼルス校の受講生・修了生サポート部門リーダー。
—————————————————————————————–
 

「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!
 
・バックナンバーは▶こちら
・ブログ一覧は▶こちら

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

◆【入学をご検討中の方対象】
映像翻訳のことが詳しくわかる無料リモートイベントへ!※英語力不問

リモート個別相談
※詳細・お申し込みはこちら


 

◆【映像翻訳をエンタメのロサンゼルスで学びたい方】
ロサンゼルス校のマネージャーによる「リモート留学相談会」

la soudankai
※詳細・お申し込みはこちら
 

【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #24 「問い」●岩崎悠理(翻訳事業推進部)

「ネコ派かイヌ派か?」これを聞かれるといつも回答に困る。どっちもそれなりに好きではあるが、とりわけ一方に強い思い入れがあるわけでもない。その場で思いついた方を答えるものの、なんだか釈然としない。なぜなら、「ネコ派かイヌ派か?」と問われれば、たとえ中立の立場の人でも、両方とも苦手な人でも、どちらか一方を選ばざるを得ないように思うからだ。つまり「問い」が悪い。
 

物事を二つのカテゴリーに分けて、結論を導く思考法を「二分法」というらしい。「AかBか」「良いか悪いか」「いるかいらないか」。こういった問いは、物事を整理したりスピーディーに判断を下したりするのに役立つ。曖昧なところがないから回答も楽だ。「あなたにとってネコとは何か?」と聞かれるよりも「ネコ派かイヌ派か?」と聞かれた方が答えやすいのは想像がつくだろう。
 

一方、この方法では物事に白黒はっきりつけてグレーゾーンを切り捨てるため、不正確な結論に至ることがある。皆を強引にネコ派かイヌ派に二分割すれば、本来「ネコ好き」でない人でも「ネコ派」に分類されるかもしれない。さらに、この手の問いは二極思考を生む危険もある。「敵か味方か」「保守かリベラルか」「悪いのはA国かB国か」など。「問い」の設定が不適切だと、「答え」もピント外れになってしまうから注意が必要だ。
 

翻訳においても、どのような「問い」を立てるかは重要だろう。直感的に訳が「降りてくる」という人でない限り、訳文を考える上で自問自答のプロセスを踏んでいるはずだからだ。そしてその時に引き出せる「問い」の質や量が豊富なほどより良い訳が浮かびやすくなるのではないかと思う。私はそのレパートリーが少ない上に、せっかちなためすぐ結論に飛びつこうとして痛い目にあうことが多い。「自分の訳が“正しい”か“正しくない“か?」と、同じような思考のループに陥ってしまうのだ。
 

JVTAの授業では「この場面では何が言いたいのか?」「話者の気持ちは?」「前後の流れは?」などと講師が丁寧な問いをたくさん投げてくれる。それがヒントになり、思考の堂々巡りの状態から抜け出せる感覚もあった。コースを修了した今、講師やクラスメートからヒントを得る機会も減った。最近は質問をリストに書き溜めるなどして、凝り固まった思考グセを地道に矯正しようとしている。効果のほどはまだわからないが、脳の老化防止もかねてコツコツと続けていこうと思う。
 

これを読む人の中にも、勉強や仕事などで行き詰まりを感じている人がいるかもしれない。そんなときは少し視点を変えて、自分の「問い」を見直してみるのはいかがだろうか?

—————————————————————————————–
Written by 岩崎悠理
 

いわさき・ゆうり●日本映像翻訳アカデミー・翻訳事業推進部スタッフ。英日映像翻訳科修了生。
—————————————————————————————–
 

「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!
 
・バックナンバーは▶こちら
・ブログ一覧は▶こちら

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

◆【入学をご検討中の方対象】
映像翻訳のことが詳しくわかる無料リモートイベントへ!※英語力不問

リモート個別相談
※詳細・お申し込みはこちら


 

【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #23
音符とセリフの関係●板垣七重(MTC映像翻訳ディレクター/講師)

家で過ごす時間が増えた1年ほど前から、趣味のバイオリンをほぼ毎日練習するようになった。昔使っていたクラシックの楽譜を押入れから引っ張り出してきて、月1回のレッスンを受けながら、自主練習を繰り返す。今練習している曲はヴィヴァルディの協奏曲。この曲にとにかく苦戦している。自分なりに練習しては、今度こそ先生のOKをもらおうと意気込んでレッスンに行くものの、毎回ダメ出しをされてやり直し。決して練習を怠けているわけではないのに合格点がもらえない。それがもう何か月も続いている。
「楽譜の音符を追うだけでせかせか弾いても聴き手に何も伝わらない」
前回のレッスンで先生に言われてとりわけ響いた(ショックだった)言葉だ。ヴィヴァルディの協奏曲には和音が複雑に織り込まれている。和音とは、「ド・ミ・ソ」など複数の高さの異なる音の組み合わせで、どういう和音になっているかで聴き手にさまざまな感情や印象を呼び起こす。気分を高揚させる和音もあれば、夢も希望もないと思わせる和音もある。これから何かが始まると期待させる和音や、物語が終わることを知らせる和音もある。曲をしっかり表現するためには、演奏者は曲の構成に沿って音に乗せる感情を変化させなければならない。
ふと、音楽の演奏と映像翻訳はとてもよく似ていると思う。映画に無駄なセリフはひとつもないように、楽譜にも無駄な音はひとつもない。映画のストーリーを他の言語で再構築する映像翻訳では、ひとつひとつのセリフの意味、そして作品全体の構成を理解することが欠かせない。作曲家が楽譜に落とし込んだ音楽を自分の楽器で再構築するには、ひとつひとつの音符の意味、そして曲の構成を理解しなければならない。部分についても同じことが言える。映画やドラマの各シーンには必ず核となる台詞があると言われる。そしてその台詞には特にインパクトの強い言葉を使う。曲を演奏するときも、複数の音の集合体であるフレーズの中には強調するべき音があり、その音は特に丁寧に弾かなければならない。
こうして考えてみると、音符を追いかけることばかりに気を取られていた私は上滑りする音しか出せていなかったのだと気づく。映像翻訳者も演奏者も、すでに存在するものを自分の言葉や楽器を媒介にして再現し、伝える役割を担うのだから、作品や楽譜にいつも寄り添っていなくてはならないのに。今日からは、音符や小節ひとつひとつが重要なセリフで、曲はひとつのストーリーなのだと意識しながら弾いてみようと思う。そしたら次こそは先生のOKがもらえるかもしれない。
—————————————————————————————–
Written by 板垣七重
いたがき・ななえ●映像翻訳ディレクター。日本映像翻訳アカデミー修了生。課外講座「120分でマスター! 最強の調べもの術」などの講義も受け持つ。
—————————————————————————————–
「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!
 
・バックナンバーは▶こちら
・ブログ一覧は▶こちら

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

◆【入学をご検討中の方対象】
映像翻訳のことが詳しくわかる無料リモートイベントへ!※英語力不問

リモート個別相談
※詳細・お申し込みはこちら


 

【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #22
映画『街の上で』を見て●桜井徹二(学校教育部門)

先日体調を崩したため、しばらくの間、自宅にこもって療養期間を過ごした。平日の日中はテレワークで仕事をし、夜には映画を見たりして過ごしていた。だが週末になって仕事から離れると、ふと、「やることがない」ことに気づいた。映画鑑賞や読書のほかにこれといってやることがないのだ。
 

人と交わる趣味もなく、友達もほとんどいないことは以前から自覚している。そもそも人との面倒な関わりを避けたいがために映像翻訳の道を選んだという一面もある。最近では人付き合いの少なさにうっすらと不安を覚えはじめていたが、改めてこれはまずいと思った。年を取って仕事さえなくなったらどんな毎日を過ごすのだろう? これといってやることも他人と言葉を交わすこともなく、ただぼんやりして一日が終わるのをじっと待つ。できることならそんな老後は避けたい。
 

そんな時に、『街の上で』(今泉力哉監督)という映画を見た。東京・下北沢を舞台にした作品で、主人公は古着屋で働く若者、青(あお)だ。青は映画冒頭で恋人にフラれてしまうが、ある女性監督に自主制作映画への出演を依頼される。それを引き受けたことで新たな出会いが生まれ、そこから日常にちょっとした変化が訪れる、といったストーリーだ。主人公の青はいわゆる文化系で、どちらかと言えば口下手であまり活発な人間とは言えない。店番中は本を読み、夜はふらっとライブを聴きに行ったあとで馴染みのバーに行くくらいで、これといった趣味がありそうには見えない。友人らしい友人もいなそうだ。
 

僕は20代のころ、下北沢の近くで働いて下北沢のすぐそばに住んでいた。劇場やライブに出入りするようないわゆる下北沢住人らしい生活ではなかったが、それなりに長い時間を過ごした思い入れのある街なので、画面に映る風景の多くに見覚えがあった。そして僕は下北沢界隈に住んでいた当時も、そして今も、あまり変化に富んだとはいえない毎日を送っている。そんなこともあって、見ているうちに主人公の青にどことなく親近感を抱き始めていた。映画や小説には、自分とは性格や行動、人種、時代、性別の異なる人物を描いているのに、なぜか自分のことを描いていると感じさせる作品がある。この作品もそういう作品に思えた。
 

だが、それも途中までだった。青は確かに大人しくて決して社交的な人物ではない。でも、映画出演者の控室で同席した有名俳優に恐る恐るながらも話しかける。思い詰めたような様子の古着屋の客に対して、やはり恐る恐るながらも声をかける(相手にはスルーされるが)。明らかに場違いだった映画撮影スタッフとの飲み会のあと、盛り上がって二次会に向かう人々と別れて去ろうとする際には誰も聞いてなくとも「それじゃ僕はこれで帰ります」としっかり声に出して言う。そうした言動によって青の毎日は変化していく。その変化は良きものもそうでもないものも、どれも魅力的に映る。
 

かたや、もし僕が場違いな飲み会に誘われたらどうするか? まず、そもそも参加しない。万が一参加したとしても、その場からそっと去る方を選択するだろう。「だろう」というか、正直に言えばそういう経験は何度もある。やはりこれではまずい。そういう“面倒”を避けていく先に待つのは灰色の毎日でしかない。
 

日々机に向かって映像翻訳の勉強や仕事に励んでいる方の中にも、人との関わりが苦手だったり、面倒に感じていたりする人もいるはずだ。でも、たとえ短期間でも人と関わりを深めてみることで、人生が少しだけカラフルになることがあるかもしれない。視野が広がって仕事や勉強に今以上に身が入ることもあるかもしれない。青の行動1つ1つは大したことではないけれど、それによって小さな出会いが起き、物事が動き出し、日常に彩りが生まれていった。僕もほんの少しでも考えを改めてみようと思わされた作品だった。
 

—————————————————————————————–
Written by 桜井徹二
日本映像翻訳アカデミー・学校教育部門
さくらい・てつじ●JVTAの映像翻訳ディレクターとして、MTVやBBCのドラマ、ドキュメンタリー、リアリティ番組やMOOC(大規模オンライン公開講座)用字幕などを手がける。本科のほか、明星大学、青山学院大学などの教育機関でも講師を務める。『字幕翻訳とは何か 1枚の字幕に込められた技能と理論』(小社刊)の執筆にも参加。
—————————————————————————————–
 
「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!
 
・バックナンバーは▶こちら
・ブログ一覧は▶こちら

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

◆【入学をご検討中の方対象】
映像翻訳のことが詳しくわかる無料リモートイベントへ!※英語力不問

リモート個別相談
※詳細・お申し込みはこちら