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【コラム】発見!キラリ by JVTAスタッフ

JVTAスタッフコラム

 
写真発見!キラリ by JVTAスタッフ
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。

 vol.294 「さよならが別れの言葉じゃないならば」 石井清猛
 vol.293 「ストレスをやっつけろ」 満仲由加
 vol.293〈特別編〉「第一回 東京国際映画祭 ~1985年、公園通りの魔法~」新楽直樹
 vol.292「瞑想のすすめ」小笠原尚軌
 vol.291「遥か遠い異国で過ごした素敵な時間」パク・ソンジュン
 vol.290「月が出てくる6つの作品」岩佐恵莉奈
 vol.289「照る月は満ちて欠けまた満ちる」藤田奈緒
 vol.288「一筋の光は映像翻訳だった!」相原拓
 vol.287「学びと出会いをくれたキャスティング」市川紀子
 vol.286「太陽のような人」齋藤恵美子
 vol.285「流刑者・研究者・異文化に橋を架ける男 ブロニスワフ・ピウスツキ」カイェタン・ロジェヴィチ
 vol.284「子どもの頃怖かったもの・大人になって怖くなったもの」堤竜大
 vol.283「プロジェクターで見た『貞子』の衝撃」當麻さやか
 vol.282「情け深いラーメン」野口博美
 vol.281「雨が嫌いだからオレンジ色の傘をさすよ」浅川奈美
 vol.280「押し開けられたドア」桜井徹ニ
 vol.279「止まない風」斉藤良太
 vol.278「陽だまり The Sun」タイラージェイムズ
 vol.277「私の自分時間」日比野紅翠
 vol.276「チェンジ」酒井泉
 vol.275「憧れ。自分と違う自分。」梶村佳江子
 vol.274「10年の耐えられない軽さ」石井清猛
 vol.273「10年ひとむかし」筆谷信昭
 vol.272「映像翻訳の世界に入って10年」満仲由加
 vol.271「約束」パク ソンジュン
 vol.270「あなたは、誰かの大切な人」池田明子
 vol.269「人に迷惑をかけない」吉原明日香
 vol.268「The Lord of the Rings」石川エディス
 vol.267「Destination」稲沢知亜紀
 vol.265「原文人間vs流れ人間」藤田庸司
 vol.264「How Can we Capture the Essence of 気配?」ジェシー・ナス
 vol.263「芸術の秋」岡田真由子
 vol.262「扉の音」小笠原ヒトシ
 vol.261「落語のすゝめ」星屋優美
 vol.260「幸せのカギ、“オッサン叫び”のケイジくん」中塚真子
 vol.259「Keyを感じないことがカギ」斉藤 良太
 vol.258「待っていてください。もうすぐみんなで。」浅野一郎
 vol.257「 名前に願いを」板垣七重
 vol.256「 「五感」より「語感」が好き♥」丸山雄一郎
 vol.255「「おいしい食事」と「3感」の関係に生じた亀裂」梶村佳江子
 vol.254「観葉植物の癒やし効果」秋山剛史
 vol.254「自然の怖さを知った! 危機一髪体験」小林由布子
 vol.253「トリプルアクセルと浅田真央さん」筆谷信昭
 vol.252「頭の中の不思議な映像」李寧
 vol.250「Ladies and Gentlemen, Mr. George Michael」ジェレミー・クールズ
 vol.249「遠く曖昧な記憶を鮮やかにする魔法」池田明子
 vol.248「Magical Treats」石川エディス幸子
 vol.247「スイーツ界の落ちこぼれ:駄菓子屋ノスタルジー」相原拓
 vol.246「今年の目標」野口博美 
 vol.247「7年ぶりの挑戦!」堤竜大 
 vol.246「グリーンジュースダイエット」當麻さやか 
 vol.245「素敵な引用文」桜井徹二
 vol.244「誓い ~過去と今を結ぶとき、そこに見える希望~」中塚真子
 vol.243「あなたが今、“困難”という節目に直面しているのなら」 浅川奈美
 vol.242「私の秋」 日比野紅翠
 vol.241「目をつぶってアウトドア」 梶村佳江子
 vol.240「初秋の嵐」酒井 泉
 vol.239「美しい恋にするよ」満仲由加
 vol.238「〜10年後の8月〜」筆谷信昭
 vol.237「花火より好きなもの」稲沢知亜紀
 vol.236「言葉にすらなっていない“自然”を翻訳するということ ~自然を案内する職業「インタープリター」の研修に参加してみた!~」小笠原尚軌
 vol.235「ヤッさん」池田明子
 vol.234「映像翻訳者として働くことの意外?な魅力」藤田庸司
 vol.233「Social Media: Good or Bad for Communication?」ジェシー・ナス
 vol.232「振り返りたい過去、そして先にあるもの。」藤田奈緒
 vol.231「心穏やかに」小笠原ヒトシ
 vol.230「レンズを通して見える色」星屋優美
 vol.229「夢への第一歩」諸江美樹
 vol.228「英語で“おもてなし”」池田明子
 vol.227「新しいトビラを開くこと」浅野一郎
 vol.226「プラスの毎日」板垣七重
 vol.225「ハーバード大学はなぜ400年も前に設立されたのか?」丸山雄一郎
 vol.224「人生はRPG」梶村佳江子
 vol.223「愛すべきアウトローの一生」 斉藤良太
 vol.222「人生はじめての決意」小林由布子
 vol.221「輝き続ける華『浅田真央』」筆谷信昭
 vol.220「華になる」檜垣幸子
 vol.219「ジャケ買いの思い出」藤田庸司
 vol.218「Like Mother, Like Daughter」藤田彩乃
 vol.217「過去、現在、未来の自分へ」平石真紀
 vol.216「The Nagare is Everything」ジェシー・ナス
 vol.215「BGMに心をかき乱されたときの話」相原拓
 vol.214「流れに乗る、掴む? 見過ごす?」藤田奈緒
 vol.213「イマドキの友情」小笠原ヒトシ
 vol.212「男の友情、豊饒の心」星屋優美
 vol.211「端午節の記憶」李寧
 vol.210「どんな海も深すぎるなんてことはない(♪)」石井清猛
 vol.209「海の癒やし効果」満仲由加
 vol.208「水平線の向こう」檜垣幸子
 vol.207「STRANGEとREALの狭間 原宏一ワールドへようこそ!」池田明子
 vol.206「「好き」が原動力に」平石真紀
 vol.205「プライバシーを求むデジタル世代の赤ちゃんたち」相原拓
 vol.204「ダイエットのすすめ」野口博美
 vol.203「身にまといたい空気」桜井徹二
 vol.202「丸い言葉と尖った言葉」板垣七重
 vol.201「大切なのに忘れがちだった存在。」浅川奈美
 vol.200「言葉と心」藤田庸司
 vol.199「仕事とバレーと」齋藤恵美子
 vol.198「発想の転換で新たな1年を」檜垣幸子
 vol.197「マティーニ!」小笠原ヒトシ
 vol.196「大人の男が泣ける『青い約束』」池田明子
 vol.195「クールな仕事をしている人たち」李寧
 vol.194「17年ぶりの奇跡」藤田彩乃
 vol.193「できないくせに冷めない憧れ」浅川奈美
 vol.192「乙女=妄想」梶村佳江子
 vol.191「Uncovering the mystery of 乙女」ジェシー・ナス
 vol.190「日本から楽園が失われていく」丸山雄一郎
 vol.189「手を伸ばせばすぐ手に入る小さな楽園」藤田奈緒
 Vol.188「炎と向き合った3年間」相原拓
 Vol.186「片方だけの靴下」桜井徹二

 Vol.185までのコラムはこちら
http://www.jvtacademy.com/blog/kirari/
 
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日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆ と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。
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発見!キラリ〈最終回〉「さよならが別れの言葉じゃないならば」

12月のテーマ:再会
 

そこそこの年数を生きてきた大人なら誰でも「あとになって気づく」経験なんてものは何度も繰り返してきていて、少々のインパクトでは動じない程度に耐性ができていたりするのでしょう。とはいえ、「その当時、気づくことができなかった」自分に密かに恥じ入りつつも、「そうだったの?!」と不意に訪れた鈍い驚きに向き合う素直さは、いつまでも忘れないでいたいものです。
 

例えば地元の友達と久方ぶりに会ったり、昔見た映画を見直したり、昔読んだ小説をふたたび手に取ったり、あるいはひょっとしたら随分前に自分が訳した原稿をふと読み返したり。そうやって私たちが日々繰り返す大小さまざまな「再会」の中で、「以前は見えなかったことに気づく」瞬間というのは、やはり何物にも代えがたい人生のスパイスといえるのではないでしょうか。
 

ちょっと前に読んだ村上春樹の『意味がなければスイングはない』に、ブルース・スプリングスティーンの章を見つけた時も、私にとっての、そんな「再会の驚き」の一つでした。
 

というか、びっくりしませんか? 村上春樹がブルース・スプリングスティーンって。私は勝手に、村上春樹はジャズとクラシックの人かと思ってました。もしくはビーチ・ボーイズとかドアーズとかのクラシック・ロックの人。確かにこれ、ひょっとしたら村上春樹のよき読者なら驚かないのかもしれないですけど。でも私が一番驚いたのは実はそのことではなく、村上春樹が「Hungry Heart」の歌詞とライブ・パフォーマンスにすごく驚いているということです。
 

“こんなとんでもなく暗い内容の、複雑な物語性をもった歌詞を(中略)合唱できてしまうという事実が、ここにある。まさに驚くべき事実だ” ――村上春樹『意味がなければスイングはない』(文藝春秋刊)より
 

ね、すごく驚いているでしょ、村上春樹。これが恐るべき慧眼でなくて何でしょう。そこから村上春樹はレイモンド・カーヴァーとの対比において、ブルース・スプリングスティーンの紡ぐ物語の深部へと分け入っていきます。ちなみに私、高校時代にブルース・スプリングスティーンが好きで村上春樹も聞いたという5枚組のライブ盤を愛聴し、さらには歌詞をこっそり自己流で訳して悦に入ったりしてましたが、村上春樹みたいに驚いたことはなかったです。こうして、私はブルース・スプリングスティーンに驚く村上春樹に驚かされ、久方ぶりに思い出した曲である「Hungry Heart」との再会、ブルース・スプリングスティーンとの再会は、私が「その当時、気づくことができなかった」ことを思い知らされた、苦い経験となったわけです。
 

にもかかわらず、やはりこの再会はすばらしかったというほかありません。それは本書中の村上春樹によるブルース・スプリングスティーンの訳詞がすばらしすぎるせいではなく(私が言うまでもないですが本当にすばらしい)、それが再会だからすばらしいという以外にないのです。
 

ということで最後に、村上春樹の名訳詞をもう1つ。
(I’d Like to Get You on a) Slow Boat to Chinaという“古い唄”の一節を。
 

中国行きの貨物船(スロウ・ボート)に
なんとかあなたを
乗せたいな、
船は貸しきり、二人きり……
 

「See you」も「再見」も「Au revoir」も「ではまた」も。いつも再会を匂わせながらさよならを言う私たちには、きっとまたもうじき、再会の驚きが訪れることは間違いなさそうです。
 

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Written by 石井清猛
 
ishii-san
映像翻訳チーフ・ディレクター、および本科講師を務める。英日・日英翻訳のディレクションや海外映画祭での特別上映、ワークショップの企画を手がける。青山学院大学総合文化政策学部「映像翻訳ラボ」ではショートショートフィルムフェスティバル、UNHCR難民映画祭での上映作品の字幕指導をサポート。

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[JVTA発] 発見!キラリ☆ 12月のテーマ:再会
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆ と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。

本コーナーは今回が最終回。今までご愛読いただき、ありがとうございました。また新たな形で“再会”しましょう! 

 
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発見!キラリ「ストレスをやっつけろ」

12月のテーマ:再会
 

皆さんはどんなふうにストレスを発散しているだろうか。おいしいものを食べる、映画を観る、散歩をするなどいろいろな方法があると思う。上手に息抜きができると仕事も勉強もはかどるので、自分に合ったストレス解消法を見つけることはとても大事だ。私にとっての最良のストレス発散方法は、殴る蹴る。ミットやサンドバッグに思い切りパンチやキックを打ち込むのだ。
 

運動らしい運動をまったくやってこなかった私がジムに通い始めたのは、今から7~8年ほど前。当時勤めていた会社で格闘技系番組の字幕制作に携わっていたことから、何かしら格闘技っぽいことをやってみたくなり、会社から徒歩2分ほどのところにあったムエタイジムに入会した。ムエタイというと怖いイメージがあるかもしれないが、トレーナーさんも会員さんもいい人ばかりで、アットホームな雰囲気が居心地よく、暇さえあれば通うようになった。特に好きな練習メニューがミット打ち。トレーナーさんが持つミットに向かって、力いっぱいパンチやキック、ヒザ蹴りやヒジ打ちなどを叩き込むのだ。この爽快感は何物にも代え難い。
 

残念ながら転職を機にムエタイジムはやめてしまった。もっぱら飲むことでストレスを解消していたが、また何か趣味がほしいと思っていた時、うれしい再会があった。ムエタイジムでお世話になっていたトレーナーさんと連絡を取り合う機会があり、今は他のジムでインストラクターをしていることを知ったのだ。そのジムは女性をメインターゲットにしたキックボクシングジムで、練習するというよりエクササイズを楽しむという感覚の方が近い。それでも、ミット打ちの楽しさは変わらない。ミットは持ち手によってもまったく蹴り心地が違うのだが、再会したトレーナーさんは特に上手で、とても気持ちよく打たせてくれる。違う趣味に手を出そうかとも思っていたが、やはり自分にはこれが合っているのだと思う。頻度は減ってしまったが、マイペースに通っている。
 

格闘技を始めて、ストレス解消以外にもうれしいことがあった。1つは頭の切り替えが楽になったことだ。翻訳が行き詰まった時など、ジムで気分転換をするといい訳がひらめくことがある。原稿を一晩寝かせて見直したいけれど時間がないという時にも有効だ。2つ目はムエタイをテーマにした映画や格闘技関連の番組の翻訳を担当させてもらったことだ。映像翻訳は「映像」というくくりであらゆるジャンルの案件がくる。一見、仕事とは無関係に思える趣味でも役に立つことがあるのだ。なじみがある分野は基礎知識がある分、内容を理解しやすいし調べ物も苦にならない。そして何より訳していて楽しい。
 

皆さんもぜひ、自分に合ったストレスの解消方法を見つけてほしい。もしかしたら、それが映像翻訳の仕事につながるかもしれない。
 

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Written by 満仲由加
 
本科講師。映像翻訳スクール部門スタッフ。
日本映像翻訳アカデミー修了後、日本語版制作会社で字幕制作、吹き替え版制作などに従事。その後、JVTAの就業支援部門「メディア・トランスレーション・センター(MTC)」のディレクターとして、J Sports、ナショナルジオグラフィックチャンネル、ディスカバリーチャンネルなどの担当を経て、現職。

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[JVTA発] 発見!キラリ☆ 12月のテーマ:再会
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆ と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。

 
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発見!キラリ〈特別編〉「第一回 東京国際映画祭 ~1985年、公園通りの魔法~」

11月のテーマ:遠い
 

それは遠い過去の出来事である。何せ、33年も経っているのだから。それでもあの光景は、記憶のアルバムの1ページで鮮烈な色彩を保っている。おそらくこの先も、決して色褪せることはないだろう。
 

1985年、私は就職活動真っただ中の大学4年生だった。「バブル経済」を検索すると「1986年から90年代前半にかけての好景気」と紹介されているが、もちろん1986年に突然始まったことではない。1985年は、バブル景気が近づくドスンドスンという足音がはっきりと聴こえ始めた、そんな年だった。
 

とはいえ、誰もがバブル景気の恩恵にあずかったわけではない。バブルを知らない世代には誤解があるようだが、それはほんの一握りの人たちの宴であった。仕送りとバイトでなんとか食いつないでいた貧乏学生の私からしてみれば、バブルなんていい迷惑でしかなかったのだ。物価の高騰は日々の暮らしを窮屈にし、きらびやかな場所でうかれる人たちの姿は心の底から疎外感や劣等感を呼び起こすだけだった。
 

私は西新宿の下宿から渋谷にある学校までバスで通っていた。乗り降りするのはいつも、学校まで歩くのに都合がいい公園通りのバス停だ。「バブルの時代に渋谷の公園通りが通学路だったなんてクールだね!」とひやかされそうだが、貧乏学生にとっては流行の最先端をいこうとする若者たちの賑わいなど、‘他人事’にすぎなかった。自分には縁がない場所、この街に‘いる’のは事実だが、今の自分はこの街の何とも接続していない。それが偽らざる現実だった。
 

それでも、渋谷をベースに活動することには多少の利もあった。大好きな映画館がたくさんあったし、並行輸入のレコード店がいくつもあったからだ。当時、たいがいの映画館は入れ替え制ではなかったから、授業をサボった日は朝から晩まで映画館に入り浸っていた。そうじゃなければタワーレコードかCISCOでひたすらLPレコードを眺めて過ごした。
 

そんなある日、渋谷で世界規模の映画祭の開催が準備されていることを知った。東急グループが本腰を入れるという。今思えば、バブル期の特徴として挙げられる「日本企業による凄まじい文化事業へのパトロネージ」の走りだ。手もとにある「第一回 東京国際映画祭」の 公式パンフレットには、驚くような記述が残っている。映画祭の一部に「ヤングシネマ’85」と銘打たれた、いわゆる若手監督のコンペティション部門がある。最高賞を受賞した監督に贈られたのは、なんと150万ドル(当時の換算で約3億9000万円)だ。今の国内の映画祭事情からすれば、目を疑うような高額賞金である。ちなみに、この4年後にはソニーが48億ドルでコロンビア・ピクチャーズ・インダストリーズを買収し、世界を驚かせることになるのだが。とはいえ、まだネットのない時代のこと、国際映画祭という言葉の響きにざわつく感覚はあったものの、それ以上の期待感を抱きようがなかった。
 

そんな中で私が楽しみにした作品は、前年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドール(最高賞)を受賞した『パリ、テキサス(Paris,Texas)』だった。本編への興味はもちろんだが、強いて言えば地味な作品がメイン会場となるNHKホールで大々的に上映されるということに意外性を感じていた。西ドイツ(当時)とフランスの合作映画で、ドイツ人のヴィム・ヴェンダース監督がアメリカ人の作家兼俳優、サム・シェパードのエッセイに触発されてシェパード本人に脚本を依頼したという。ジャンルは至ってシンプルなロード・ムービーであり、タイトルには「パリ」とあるがそれは花の都のことではない。テキサス州にある小さな街の名前であり、そのパリが舞台というわけでもない。
 

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小劇場が今よりずっと少なかった当時、普通に日本で公開されてもヒットするとは思えず、映画祭でなければ劇場で観ることはできなかったかもしれない。そんな『パリ、テキサス』が開幕ラインナップの一つとしてメイン会場で上映されるというのだ。おそらく背景にはカンヌ映画祭との関係があったのだろうが、ファンにとっては結果オーライ、幸運であった。
 

既に夕闇が渋谷の上空を覆い始めていた。それでも点り始めた光たちは、公園通りを昼間以上に明るく照らし出している。坂に沿って連なるポールに掲げられた映画祭の旗は、坂の中腹のPARCOを通り越して、どこまでも続いているように見える。そして歩道にはNHKホールに向かう、人、人、人。
 

この国で初めて、本当の国際映画祭が開催されるという胸の高鳴り。その現場に自分がいるのだという高揚感。SF巨編でも大捕り物でもない、カンヌで喝采を浴びた秀作を、この国の映画ファンとしてしっかり見届けるぞという使命感。人々が発するそんなポジティヴな感情が公園通りを覆いつくしていた。(出身も年齢も、学校も仕事も貯金も、家族も恋人も、みんな僕とは違うんだろうけど、今、誰もがこの映画祭の当事者になろうとしている。ここから何かが生まれ、社会に溢れ出ていく喜びを共有したいと願っている)。坂を上り切って渋谷公会堂(当時)を通り過ぎる頃、なぜか涙が溢れそうになった。
 

その時、公園通りは私にとって居心地のいい場所に変わっていた――。
 

映画祭にはそんな魔法のような力がある。日本映像翻訳アカデミー(JVTA)が設立当初から今に至るまで、映画祭の支援にこだわり続ける理由の一つは、今もその魔法が解けていないからかもしれない。
 

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関連記事:
● 日本映像翻訳アカデミー・国内外の映画祭への支援
【座談会】第31回東京国際映画祭開幕!映画でたどる翻訳者の過去・現在・未来

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Written by 新楽直樹

niira

日本映像翻訳アカデミー(JVTA)グループ代表。1996年、日本映像翻訳アカデミーを設立し、映像翻訳者育成に特化した職業訓練プログラムを構築。同時に、「メディア・トランスレーション・センター(MTC)」を設置して修了生の就業支援を行う。

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[JVTA発] 発見!キラリ☆ 11月のテーマ:遠い
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発見!キラリ「瞑想のすすめ」

11月のテーマ:遠い
 

「言葉のプロ」にこそすすめたい瞑想
翻訳者やライター、エディターはときに激しいフィードバックにさらされます。そんな時大切なのは心の管理。心は体とつながっていて、両者のバランスが崩れると、体調を悪くしてしまいます。そこで受講生・修了生の皆さんにおすすめしたいのが「瞑想(めいそう)」です。
 

僕がここで伝えたいのは、都内のジムで瞑想のコースに参加して続けた結果、自分に何が起きたのか、ということです。瞑想を行えば「β-エンドルフィン」という物質が脳内に出て、脳がリラックスした状態で活性化するそうですが――科学的な話はまた今度。どんな瞑想をし、何が体に起きたのか。そして、どんな恩恵を受けられたのかを語りたいと思います。
 

実践したのは、東洋武術に端を発する方法です。椅子に座りながらできるものを簡単にご紹介しましょう*:
 

①まず、椅子におしりの部分1/3程度腰かけます。
②次に、背筋の力を抜いて、リラックスさせます。
③手のひらをひざに置いて、まっすぐ1点を見つめます。
④その後、ゆっくりと目を閉じて、ゆっくりと鼻で息を吸い、自然に呼吸をします。そのまましばらくすると、何か考えや映像が、頭の中に浮かんできます。
⑤ここからが大切なポイント。決してそれを振り払ったり、気になるからといって追ったりすることをせず、あるがままに映像を流していきます。テレビを見るように、ボーっと見続けます。
⑥最後に、自分が決めた時間が来たら、ゆっくりと目をあけて終了。20分間が目安です。
 

自分の場合、瞑想をしていて頭に浮かんだのは家族との日々の暮らしや前の職場、昔飼っていた犬と自分が散歩する映像でした。それらを深追いせず、ただただ見ていました。
 

そんな習慣を続けて、体に変化が起きたのは1年くらい経ってから。まず、睡眠の質が良くなりました。一回いっかいの眠りが深く、起きた時はとてもすっきりした気分です。次に、集中力。そして、想像力を働かせることが以前よりも楽になりました。
 

正しい情報は自分の中に
瞑想は、自身が何者なのかを知るすべだと思います。目を閉じて浮かんでくる映像は、例えば遠い過去。今までの人生で起きたことは、見ていて楽しいシーンもありますが、悲しくなる場面も出てきます。映像の中にはもちろん自分もいて、その時、どんな気持ちだったかを思い出させてくれます。どんなことがあって嬉しかったのか、何が怖くてあんな行動に走ったのか――。目を閉じている間は、ありのままの自分を見て、静かに受け入れることができます。そして目を開けた時、明日を生きる力が少しずつ湧き始めている気がする。自分自身を知ることは、自分の人生を生きるための大きな道しるべになります。
 

僕がおよそ1年、瞑想を実践して得たのは「睡眠力」「集中力」「想像力」――そして、何より自分自身を観察する方法を身につけることができました。総じてこれらを“心のしなやかさ”と言い換えてもいいのかもしれません。
 

自分が何者なのか、どんな人間なのか――その正しい情報は自分の中に埋まっていると思います。もし、締め切りに追われたり、理不尽なフィードバックで自分を見失いかけたりしたら、こういった方法も試しながら、「心の管理」をしてみてはいかがでしょうか? ずっと悩んでいることが、実は「大したことないのだ」と思えるかもしれませんよ。
 

*①~⑥の工程は「立つだけ!医者いらずの太もも力」(神田真澄著/シネマファスト刊)P118の内容を引用。実践されるかたは同書もご確認の上、行ってください。
 

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Written by 小笠原尚軌

小笠原写真

エンタメ系情報誌の記者・編集を経てJVTA英日総合コースⅠ、バリアフリー講座を修了。フリーランスとして活動した後、現在はJVTAのPRチームに所属する。

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発見!キラリ「遥か遠い異国で過ごした素敵な時間」

11月のテーマ:遠い
 

 

これまで韓国、日本、カナダ、アメリカに住んできたが、それ以外の国には訪れた事がない。もちろん旅行を含めてだ。そんな私に転機が訪れたのは大学4年生の時だ。同期の友人より遅めの卒業であったので、一人で卒業旅行を行くことにした。‘学生最後の旅だ’‘せっかくの機会なので周りが訪れないような国に行こう’と悩んだ結果、決めたのは“キューバ”。中南米に位置しているキューバはこれまで訪れたどの国よりも遠く、未知数の国であった。
 

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言葉も通じず、誰に頼る事もできなく、文化もわからないキューバでの思い出は今でも忘れる事はできない。キューバに入国する前からトラブルが発生した。メキシコでの乗り換え便の遅延だ。言葉がわからないので原因もわからず、Wi-Fi難民であったためキューバのホストにも連絡が取れない。‘ホストも空港に迎えに来たのなら発着便の掲示板に遅延と書かれていれば待ってくれるだろう’とのんきな考えをしたものだ。結局当初より4時間遅れてキューバの首都ハバナに到着。待っていてくれるだろうとのんきな考えを持っていたが、夜中の1時が過ぎていたため、実際にホストに会った時は感動をした。しかし、最大のハプニングが翌日起きる事はこの時はまだ知る由もない。
 

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翌日、オールド・ハバナ(旧市街地)の周辺を散策していたら現地人に話しかけられた。もちろん、スペイン語がわからないので英語でのコミュニケーションだ。キューバの人はほとんど英語ができない。商品を売ろうとしている商人を除いてだ(この時はまだ知る由もなかった)。フレンドリーに話をかけられた商人からキューバ産の葉巻をお土産にどうだと勧められた。前日の深夜に到着をしたので、もちろん現地の通貨(ペソ)は持っていない。すると彼は優しく両替所まで案内をしてくれるというのではないか!営業がうまい彼に乗せられ旅費の大半を両替した。上等な葉巻2箱とサービスの葉巻をもらい、宿に帰ってから気づいた。葉巻に旅費の半分近くを使ったのだ。初日に半額を使った結果、行きたかった世界遺産のビニャーレス渓谷に行けないのはもちろん、羽振りよく遊ぶ計画は水の泡となった。
 

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絶望感に浸ったのも半日。せっかく地球の裏側まで遊びに来ているのだから何としても楽しもうと思考を転換。翌日から1日2食でハバナ中を駆け巡った。交通費を抑えるため交通機関を利用せずにひたすら歩いた。現地人のマーケットや住宅街など、非観光地では珍しそうに見られた。そのおかげで、観光ガイド誌に載っていない現地人の暮らしを間近で見られたのは良かった。
 

汗が噴き出る節約の努力が実り、念願の地方都市までの旅費を準備できた。訪れた街は世界遺産に登録されているトリニダ。街にはまだ馬が荷物を牽いている光景があちこちで見ることができる。トリニダの街は一枚の絵のように、コロニー時代の面影がきれいに残されていた。街の南側には青いカリブ海が、西側にはサトウキビ産業で一時代を築いたロス・インヘニオス渓谷がある。どの景色も気に入ったが、トリニダでの一番のできごとは友を作ったことだ。泊まっていた宿の息子フリアンは朝食の準備などの世話をしてくれた。朝食の後、彼から学ぶスペイン語講座は日課となった。
 

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彼と過ごした楽しいトリニダでの日々も終わりを迎えた。何か彼にプレゼントがしたいと思ったが、極力荷物を減らしたかったため日本的なものはゼロ。その時リュックから見つけたのはハバナで買った葉巻。おまけでもらった小さい1箱を彼にプレゼント。葉巻はとても高価なものなので現地でも吸える人は少ないらしくフリアンは大喜び。一時は葉巻の大量購入で悩んだが、おかげでキューバ人の友達と友情を深める事ができた。悔いよりは満足感があるのが本心だ。
 

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これまで訪れたことのない遠い国、キューバへの旅。コミュニケーションもまともに取れず、ハプニング続きの旅であったが、異国の地で築いた確実な友情は決して忘れることはないだろう。いつか遠い国にいる友と一緒に葉巻を吸う日を待ちわびながら…。
 

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Written by パク・ソンジュン
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新卒として日本映像翻訳アカデミーに入社。グローバル・コミュニケーション・サポート部門(GCS)で日→英、日→多言語の翻訳案件を担当。

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[JVTA発] 発見!キラリ☆ 11月のテーマ:遠い
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆ と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。

 
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発見!キラリ「月が出てくる6つの作品」

10月のテーマ:月
 

 

“月”というテーマを聞き、私の頭をよぎったのは『新世紀エヴァンゲリオン』。実は、日本のマンガ・アニメには劇中に月がよく出てくる。そこで、ぜひ見ておきたい“月が出てくる6つの作品”を紹介していこうと思う。
 

①カウボーイ・ビバップ

火星を中心とした太陽系を舞台に、主人公の賞金稼ぎ(カウボーイ)のスパイクとその仲間が宇宙船ビバップ号に乗り、賞金を求めて宇宙を駆け巡る。『カウボーイ・ビバップ』の世界はなぜ宇宙なのか。この世界には、惑星間の航行時間を短縮させる「位相差(いそうさ)空間ゲート」というものがあるのだが、月衛星間実験中に大事故が起きてしまう。その影響で地球と月は人が住める状態ではなくなり、他の太陽系に移住せざるを得なくなったのだ。ちなみに「位相差空間ゲート」が出来るのは西暦2020年となっている。あと2年で急速に科学技術が発達したら、“ビバップ”の世界になるのかと考えたらとても楽しみだ。
 

②ONEPIECE

“海賊王”になるために主人公ルフィが仲間と一緒に航海する物語。偉大なる航路(グランドライン)を旅するなか、ルフィ一味は上空10,000メートルにある「空島」に上陸する。そこは土ではなく雲で出来ているため、土や地上にあるものは貴重な存在として扱われているのだ。ONEPIECEでは「限りない大地」(フェアリーヴァース)として月が登場する。空島を恐怖で支配する男エネルはフェアリーヴァースに憧れ、自分が住むべき場所としてルフィに敗れてもなお、月をあきらめなかった。アニメ版では、エネルは月へ向かうまでしか描かれていないが、コミックスでは扉絵でエネルのその後を見ることができる。気になる人はアニメ版だけでなくコミックスもぜひ見てみてほしい。
 

③ドラゴンボール

7つ集めたらどんな願いでも叶えてくれる「ドラゴンボール」をめぐり孫悟空らが冒険をする物語。悟空は実は地球人ではなく、「惑星ベジータ」の戦闘民族・サイヤ人だ。サイヤ人は満月になると大猿に変身してしまう体質で、“天下一武道会”や“ピラフ城”の回では大猿になって、理性のないまま建物を壊すということが起きている。育て親の孫悟飯を殺してしまったのも、満月を見て大猿になった悟空自身だ。ちなみに、大猿になってもしっぽを切ってしまえば元に戻り、しっぽが生えてくるまでは変身もしない。
 

④めだかボックス

主人公・黒神めだかが、私立箱庭学園で生徒会長として学生の悩みから、自身の家庭内の話までを解決していく学園アニメ。『めだかボックス』については月に関するパートはアニメ化されていないため、コミックスで見ていただけたらと思う。月が出てくるのは「漆黒の花嫁衣裳編」だ。本作では、ストーリーごとに「○○編」と副題が付くのだが、漆黒の花嫁衣裳編は最後から二つ目の終わりに近い話だ。この話は、「黒神グループ」の後継者でもあるめだかの婚約者を、黒神家の七つの分家の中から決める話。婚約者を決める「漆黒宴」は空母や廃病院、南極とさまざまな場所で行われ、最終決戦地は月となっている。とはいえ、南極が舞台の回が個人的にはおすすめしたい。
 

⑤食戟のソーマ

日本屈指の名門料理学校である遠月学園で主人公の幸平(ゆきひら)創真が料理対決・食戟(しょくげき)を繰り広げる物語。遠月学園の伝統行事「秋の選抜」。この行事では創真を含める、選ばれた高等部一年が食戟を行う。秋の選抜の舞台が「月天の間」と呼ばれる場所だ。なぜ、月天の間と呼ばれるのか。それは食戟の開始時間から調理修了時間までが、「会場に月が顔を全て出してから、全て見えなくなるまで」という理由からである。調理時間を月で決めるという設定は美しい描写だった。また、食戟は通常1対1で行うのだが、三つ巴で行われたのも印象的な回になった。
 

⑥新世紀エヴァンゲリオン

“セカンドインパクト”によって南極の氷が解け、東京が海に沈んだ世界。「第3新東京市」を舞台に、主人公・碇シンジらが襲来する使徒をせん滅する為に戦う物語だ。“エヴァ”シリーズで出てくる月は、「白き月」と「黒き月」。“ファーストインパクト”と“セカンドインパクト”が起きた原因となる隕石だ。「白き月」は“第一使徒・アダム”の卵、「黒き月」が“第二使徒・リリス”の卵とされている。そして、この二つの月が地球に漂着したことにより、アダムからは使徒が、リリスからは人が生まれた。エヴァンゲリオンの世界では一つの惑星には一つの生命体しか住むことができない。だから使徒と人は戦っているのだ。エヴァのストーリーで月は“生命の卵”として出てくる。また、アニメ版のエンディングは”Fly Me To The Moon”という曲が流れ、大きな月とヒロインの綾波レイをバックにエンドロールが流れる。「新劇場版エヴァンゲリオンQ」では、赤い十字がたくさん入った月と思われる物体が、背景に描写されていることもある。
 

* * *
 

6作品を挙げたが、月がストーリーに関わっている作品はまだまだたくさんある。皆さんが見たことのある作品も、実は月が関わっている話があるのではないだろうか。今回挙げた作品の中には1クール(12話)で見られる手軽さがないものもあるが、興味がある方はぜひ一度見てほしい。
 

関連動画:『シン・エヴァンゲリオン劇場版』 西暦2020年公開

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Written by 岩佐恵莉奈

いわさ・えりな●日本映像翻訳アカデミー・映像翻訳スクール部門スタッフ。英日映像翻訳科「総合コース・Ⅱ」「実践コース」、英文を読み解くスキルを総合的に学ぶコース「English Clock」の教務を受け持つ。

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[JVTA発] 発見!キラリ☆ 10月のテーマ:月
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆ と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。

 
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発見!キラリ「照る月は満ちて欠けまた満ちる」

10月のテーマ:月
 

曇りのない空気の澄んだ夜に空を見上げるのが好きで、たまに気が向いたそんな夜はなぜだか満月であることが多い。夜空にくっきりと浮かび上がる満月を見るたび、もちろん美しいなあとも感じるが、それと同時に「もう1ヵ月経ったのか」と思う。無意識のうちに時の経過を知らせてくれる存在とでも言おうか。スーパームーンが見たいなどと狙うわけではないが、なんとなくの周期で夜空を見上げると、そこには必ず満月が輝いている。そんな感じだ。
 

月の満ち欠けは人生にも似ているなあと感じる。どのステージにおいても、ある程度の年月と経験を重ねて人生は満ちていき、また新たな幕開けに向けて欠けていく。小さな満ち欠けが幾度となく繰り返され、積み重なれば積み重なるほど、(ナイーブな表現かもしれないが)人生は深みを増し面白みを増す。場合によっては満ちるまで行かずに意に反して途中で終わってしまったり、欠ける前に自らリセットしたりすることもあるだろう。でもそれもまた、複雑に他のステージと絡み合い、何か別の大きな別の満ち欠けの一部を成すはずだ。
 

さて映像翻訳の世界に足を踏み入れてからの私は、現在第2ステージの真っ只中にいる。第1ステージはJVTAに初めて足を運んだ学生の頃に始まり、つい2年ほど前まで続いた。自分でも翻訳をこなしながら翻訳者さんに発注しディレクションをし、入念なチェックとフィードバックを繰り返して理想の字幕を完成させるため走り続けた。満ちるだけ満ち続け翳(かげ)ることなどあり得ないかと思っていたが、そんな日々は10年を超えた頃に小休止を迎えることになる。社内異動で受発注部門を離れ、スクールを統括する業務に就くことになったのだ。思い返せば、ちょうど自分の中にも少し、翻訳者として走り切った感があったかもしれない。思ったほど悩むこともなく、私はすんなりと新たなスタートを切った。
 

すぐにJVTA創立20周年を記念して発足したチームに加わることになった。従来の翻訳研究では語られてこなかった、英語から日本語への字幕翻訳を分析し、そのメカニズムを解くという壮大なプロジェクトだ。そうして出来上がったのが、つい先日出版した電子書籍『字幕翻訳とは何か 1枚の字幕に込められた技能と理論』。かつて寝食を忘れて共に翻訳に打ち込んだ仲間とともに、また夢中になって字幕と向き合った2年間。完成した本を手にした今、私はまた翻訳に没頭したい欲求がむくむくと湧き上がるのを感じている。
 

関連記事:書籍『字幕翻訳とは何か 1枚の字幕に込められた技能と理論』発売!

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Written by 藤田奈緒

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ふじた・なお●日本映像翻訳アカデミー講師。受講生・修了生サポート部門リーダー。同校を修了し、映像翻訳者として活動。その後、修了生のための就業支援部門「メディア・トランスレーション・センター(MTC)」でディレクターを務め、現職に至る。国連UNHCR難民映画祭の字幕制作総合ディレクター、明星大学非常勤講師としても映像翻訳の指導を行う。

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[JVTA発] 発見!キラリ☆ 10月のテーマ:月
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆ と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。

 
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発見!キラリ「一筋の光は映像翻訳だった!」

9月のテーマ:光
 

受講生・修了生の皆さんの中には「映像翻訳との出会いで道が開けた」という方も多いのではないでしょうか? ――私も同じです。ここでは、幼少期からおよそ20年をアメリカで過ごし、帰国後の“撃沈”期を経て、映像翻訳と出会った私の道のりをご紹介したいと思います。
 

私は福島県会津若松市に生まれ、生後間もなく父親の転勤で渡米し、大学を卒業するまで20年近くアメリカで暮らしました。平日は現地校、土曜日は日本人学校に通い、家では日本語、外では英語漬けの毎日…。「バイリンガルでいいね」と言われることがありますが、子どもの頃は何がいいのかさっぱり分からず、とにかく日本語で苦しんだ思い出ばかりです。現地校の勉強に追われ、補習校では周りについていけず親にビシバシ指導されながら、毎晩のように泣きながら漢字ドリルと格闘していたのを今でも鮮明に覚えています。学年が上がるにつれて日本語に対するアレルギーは悪化する一方で、高校に上がると補習校ではとうとう日本語のできない“ダメな子たち”のクラスに入れられます。さすがにショックでした。
 

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●少年時代の筆者(写真右)
 

皆さんのなかにも同じような体験をされた方(もしくはお子さん?)がいるかもしれませんが、“日本語離れ”の現象は言語に留まる問題ではないですよね。私の経験では、日本語から遠ざかると同時に、日本という国と文化への関心、日本人としてのアイデンティティーも比例して薄れていきました。あと一息で卒業できた補習校は高校の途中で辞めて、最終的には家族だけが本帰国することになり、私は単身アメリカに残り大学へ進む道を選びます。
 

ところが、大学で日系人や日本人留学生との交流が増えると、自分の中で日本人の心みたいなものが初めて芽生え、その気持ちは次第に強まり、卒業後は日本へ帰国することを決心しました。親の猛烈な反対を押し切り、デンタルスクールへの進学内定を辞退するという決断でした。
 

若気の至りもいいところですが、結果として今のキャリアにつながったので後悔はしていません。もちろん、帰国直後は撃沈しました。当然ですよね。まともに日本語も使えず周りに溶け込めるはずもなく、すぐに就ける仕事といえば英会話の講師くらい。帰国したからには日本語を磨ける仕事でないと意味がないと考え、辿り着いたのが映像翻訳でした。映画やテレビは昔から好きで、それに加えて英語と日本語の両方に触れていたい自分にとっては理想の仕事だったのです。それからというもの、生まれて初めて日本語と真剣に向き合い、プロの映像翻訳者を目指して必死に勉強をする日々が続きました。帰国して早12年、今こうしてまたアメリカに戻って、映画やストリーミングサービスの中心地、ロサンゼルスで翻訳の仕事を続けていると思うと感慨深いです。
 

【もっとキラリ!】
先日、ロサンゼルスにある、かつて私が通っていたような補習校「あさひ学園」様で映像翻訳の講義をさせていただきました。みんな本当に真面目でいい子! やりがいのある、楽しい仕事でした。その様子について詳しくレポートしましたので、こちらもぜひご覧ください。
 
『完璧なバイリンガルの“育て方”Do’s and Don’ts』
https://losangeles.vivinavi.com/ls/jvtacademy/35
 

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Written by 相原拓

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あいはら・たく●2010年、日本映像翻訳アカデミーを修了後、東京本社に入社。受発注部門にあたるMTC (メディア・トランスレーション・センター) にて映像翻訳者兼映像翻訳ディレクターを務めた後、2016年にロサンゼルス支社のマネジャーとして就任。その傍ら、講師として留学生や米国在住の受講生を指導するほか、映画やテレビ番組などの英日・日英映像翻訳の実務を指揮する。

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[JVTA発] 発見!キラリ☆ 9月のテーマ:光
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆ と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。

 
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発見!キラリ「学びと出会いをくれたキャスティング」

9月のテーマ:光
 

私は以前、幼い頃からの夢であった職業に就いていました。それは「テーマパークダンサー」です。パレードやイベント、ショーでさまざまな役をやらせていただきました。来場者の方たちに喜んでもらい、自分も大好きな場所で楽しみながら踊る。子どもの頃、自分がそのテーマパークに遊びにいった時、ものすごく楽しくて、ものすごくダンサーがキラキラして見えて「私もああなりたい」「あの場所に立ちたい」と思っていたことを実現していました。
 

自分の中の光るもの
“Bloom where you are planted(与えられた場所で花を咲かせなさい)”という言葉があります。これを胸に過ごしていきたい私が思うのは、「どんな人にもキラリと光る何かがある」ということ。ポジティブに考えて目の前のことを頑張れば、見ている人は見ているし、必ず良い結果や出会いが訪れるということです。
 

ダンサーだった頃、キッズ向けの人気ショーの“MCダンサー”に選ばれたことがありました。それまで“かわいい”というイメージがなかった自分が、キャラクターたちと一緒に踊って、喋る、子ども向けのショーに出演するのです。MCとしてのオーディションもありましたが、どういうわけか通過。そのショーの立ち上げメンバーとなりました。たくさんの子どもたちと接するショーでは話し方のテンションを上げたり、単調にならないように、抑揚をつけて伝えることを学びました。MCというものを経験したことで、人前で話すことに抵抗はなくなりました。また、そこで出会ったメンバーは今でもかけがえのない仲間です。先日はそのショーが終わるということで、一緒に観に行き、泣きながら最後を見届けました。今では学びと出会いをくれたキャスティングに本当に感謝しています。
 

今でもポジティブシンキングを!
キラリと光る何かは、それがいつ、どんなタイミングで生かされるのかは分かりません。でも、そんな瞬間があるとやはり嬉しいものです。映像翻訳の勉強を始め、当校の教務スタッフとして働くようになった今も、ポジティブシンキングを心掛けています。
 

例えば、最近通っている書道教室での一幕。その教室は何回か行くと、先生がその人をイメージした書を描いてくれるのですが、私を見て先生が描いてくれた文字は“星”でした。ここでも自分の中に光る何かが――? とまたまたプラスに考えてみたり。
 

受講生の皆さんの中で、もし映像翻訳者になる夢を叶えるにあたり壁に当たっているのであれば、ぜひ自分を信じて学習に励んでください。教務スタッフとして全力でサポートさせていただきます!
 

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Written by 市川紀子

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いちかわ・のりこ●日本映像翻訳アカデミー・映像翻訳スクール部門スタッフ。英日映像翻訳科「総合コースⅠ・Ⅱ」、「日本語表現力強化コース」の教務を受け持つ。

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[JVTA発] 発見!キラリ☆ 9月のテーマ:光
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆ と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。

 
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